2015
10.29

恐怖と笑いの万能薬。『ヴィジット』感想。

The_Visit
The Visit / 2015年 アメリカ / 監督:M・ナイト・シャマラン

あらすじ
Ho-!(キメ)



休暇にペンシルバニア州の祖父母の家へ一週間の滞在にやってきた姉弟。穏やかな祖父と料理好きの祖母、初めて会う二人と共に緩やかな日々が始まったかに見えたが、やがて異様な気配が姉弟を包み始める。M・ナイト・シャマラン監督が久々に放つ本格スリラー。

これは怖い!でもちょっと笑える!でもやはり怖い!という、恐怖と笑いの組合せが絶妙。超常現象に頼らず人間ドラマだけで組み立てた、シャマラン本気の(あるいは肩の力を抜いての)極上スリラーです。姉弟が母を旅行に行かせてる間にやってきた祖父母の家は着いた序盤から「何かヤバい」感が凄まじく、祖父母の不可解な行動、画面の端々から感じる絶え間ない違和感、そしてどんどん膨らんでいく恐怖に釘付け。低予算を逆手に取って、閉鎖的な空間とカメラワークの妙で様々な見せ場を作るのはさすがと言うしかありません。

これ、意外なことに全編POV(主観ショット)なんですよ。主観ならではの演出が随所に盛り込まれ、その使い方も実に効果的なものの、シャマランが今更POV?というのは思わずにいられないところ。しかしそんな疑念を払拭する仕掛けがちゃんとあるんですね。最初はクソ生意気な子供たちも徐々に好感が沸いてくるし、かなりのイヤミス的な展開を見せながらも泣かせまで入れてくるし、思わずクスリとしてしまう笑いまで入っているし、それでいて怖いという、なんと高いバランス感覚。終盤のトラウマ級の衝撃描写にはブッ飛びますよ。これは完成度高いです。

ネタバレになるので細かいことは言いませんが、『アフターアース』などで「最近のシャマランはちょっと……」という人にも推せます。ちなみにシャマラン本人は残念ながら出演してません。最近出ませんね。

↓以下、ネタバレ含む。








どこか上の空な祖父、料理好きとはいえすぐ何かを作りに席を立つ祖母、という不自然さ。ぼーっと突っ立ってて呼んでも何も言わずに行ってしまうとか、銃を口にくわえかけてるとか「えっ?」というのが次々出てくる不気味さ。姉にオーブンを掃除させるのを繰り返し、2度目には蓋を閉じてしまうという緊張感。病気であると言いながら、その行為が度を越しているのが怖いです(日没症候群は実際にある症状らしいですが、あそこまで酷くはないそうな)。夜中に部屋のドアを開けるたびに「ハイ、ドーン!」って何かやってるというのが、コントみたいでありながら超怖い。半裸で這いずり回ってたり、全裸で熊のように壁を引っ掻いてたり。それでいて祖母が自分を動物に例えると何か、と聞かれて「グリズリー(灰色熊)」って答えるのが笑えます。でも夜だけじゃなく、昼日中なのに床下の狭い空間での追いかけっこも怖い。散々ビビらせておいて婆さん半ケツという、思わず笑うけどその異常性が恐ろしかったり。恐怖と笑いは紙一重というのを久し振りに堪能した気がしますよ。婆さんがサイコロ振ってカメラにギャーって言うのなんてまさに恐怖と笑いのハイブリッド。あ、でもカメラを向けられて「昔役者をやってたんだ」のまさかの被せ技には純粋に爆笑でした。

母でさえ家を出てから15年会ってない、子供たちは一度も会ったことがない祖父母。姉が母のことを聞くと、取り乱すものの一度も母については喋らない祖母。例え話にしてようやく「許すわ」と言うところなんてちょっと感動的でさえありますが、でも何かおかしい。本当に老いた故の奇行なのか?それとも……?という感じで真相は正直途中で予想できてしまったんですが、それでも母が画面越しに発する一言の衝撃には背筋がゾクゾク震えましたよ。狂った他人と何日も一緒に過ごしていたという、それまでを思い返すと怖気の走る恐怖。イヤですねえ、怖いですねえ。

そんな狂気の老夫婦(夫婦かどうかも定かではないですが)に対峙する姉弟。弟はクッソ生意気なラッバー気取りで歌詞とか目茶苦茶だし調子ぶっこいてますが、フットボールの試合で立ちすくんで何も出来なかった8歳の記憶を持ち、それが父の出ていった原因だと思い込んでることが分かり、今また爺さんに凄まれて同じように立ちすくんでしまいます。「そういえば菌が嫌いだったな」からの顔面アタックは確かに潔癖症の者にとってはこれ以上ない最悪の仕打ちですが、あれを思い付くのが凄いよシャマラン……冷静に書いてますが、あれは本当に叫びそうになりましたよ。確実にトラウマ。やられた瞬間に場面を切り替えるのも上手すぎます。しかしそれでも何もできなかった弟は、姉のピンチに今度は2度3度とタックルをかまし、試合での記憶も一緒くたになってぶつかっていくことで、己を縛る鎖から解き放たれるんですね。ここはちょっと感動的ですらあります。

姉は自分に価値がないと思っているらしく、鏡を見ないことを弟に指摘されて狼狽します。姉は自分のことがあまり好きではないのでしょう。だからこそなのか、思い込みが激しくダメだと思うとすぐに諦めてしまうという母親の心の傷を敏感に察してるのでしょう。姉がカメラを回し続ける理由、それは両親の元を飛び出して以来会っていない、夫が去ってしまった、そんな母の心を癒すための映画作りであることが分かってきます。彼女の目的は母に万能薬を与えること。祖父母の家に来たのもそのためであり、シーンの間に風景のショットが挟まれたりするのも映画を作ってる体による編集作業の結果な訳です。場面と違う雰囲気の曲をかけることで母の存在を際立たせるんだ、という言葉を終盤で実際にやってその通りの効果をも生む。そのためのPOVだというのが見事な仕掛けになっています。

しかしこれ、そのまんま母に捧げる映画として見せたのかな……ラストは弟くんが復活を示すためにまたもやラップを披露しますが、一皮むけたためかなんとなく上手くなってる気がします。まあ何度もクソという単語をライムするのはさすがにトラウマが凄かったんだろうな。3週間石鹸で洗いまくる生活……。それはともかく、誰もが動画を撮るような現代ならではの作り、そして深みを感じさせるドラマと、やはりシャマランは終わってなどいなかったのですよ。次作もまたスリラーらしいので大いに期待です。

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