2015
10.22

拳を凶器に堕さんことを。『カンフー・ジャングル』感想。

Kung_Fu_Jungle
一個人的武林 Kung Fu Jungle / 2014年 中国・香港 / 監督:テディ・チャン

あらすじ
Welcome to the Jungle!



ハーハウ・モウは武術道場の師範にして警察の武術指導に協力する凄腕。しかし対戦中に相手を死なせてしまい刑務所送りに。そんな中で武術の達人が次々と何者かに素手で殺されていく。ハーハウは捜査への協力を申し出るが。ドニー・イェン主演のカンフー・アクション。

序盤のミステリー仕立ての緊張感ある雰囲気が全編に貫かれ、謎の殺人拳の使い手とそれを追う警察とドニーさんという追いつ追われつの話運びもスリリング。そして次々と展開される手技、足技、武器といった特色ある怒濤のバトル尽くしにエキサイト。ひたすら強さを求める男と、強さを求めたために何かを失った男という、実は似た二人の肉体的、心理的な戦いにシビれます。さらにドニー・イェン主演で刑事ものの一種ながら、その枠を利用して「カンフー」そのものを描いたと言える見事なカンフー映画となっています。カメラワークやキメの画もイイ。クライマックスの対決は武術映画最高峰のスリルと言っていいでしょう。

今作ではクールでシリアスな役柄となる宇宙最強の男ドニーさんはもちろん、もっとも見せ場の多いフォン役のワン・バオチャンの凄まじいアクションと狂気をたたえた表情も素晴らしい。武器王役は『イップ・マン』のカム師匠ことルイス・ファン、北腿王(蹴り技)役は『カンフーハッスル』などのシー・シンユー、擒拿王役は『アイスマン』でもワン・バオチャンと共に競演していたユー・カン、と豪華バトル競演の面子も最高でこれでもかと魅せてくれます。擒拿(きんな)という言葉は恥ずかしながら初めて知りました。『少林寺木人拳』の敵ボスとかのアレですね?ヒロインのミシェル・バイは『新少林寺』の子ですか。可愛い……

フォンの妻に対する思いがちょっと分かりにくいとかストーリー上の難点はあるけど些細なものです。あとカンフー映画に対する度を越したリスペクトが感動的。でもそれが一時代の終わりのようにも見えてちょっと寂しさも感じましたよ。何かの節目とかなのかな?ともあれ香港アクション極まれりと言わんばかりの激闘には震えます。

↓以下、ネタバレ含む。








ドニーさんが魅せまくる刑務所での一対多の大攻防、自分の作品をぶち壊しながらも相手を追いつめる北腿王とフォンの足技対決、擒拿王とフォンのリズミカルながら痛そうな掴み合い対決、槍のように使う鉄パイプに対しカッターナイフで戦う武器王とフォンの武器対決、と見せ場には事欠きません。どのバトルもハイレベルな上にカット割りもさほどせわしくないため「堪能した!」という満足感が味わえます。クライマックスの大型トラックが行き交うなかでのハーハウVSフォンのラストバトルなどは、肉弾戦から棒術、走るトラックの下での争いなど、かつてないスリルに大興奮。ドニーさんの集大成としてもカンフー・アクション映画の到達点としても実に素晴らしいです。

フォンはなかなか奥深い人物造形です。左右の足の長さが違うという欠点を克服し、独学であらゆる武術を修得している。フォンが妻を殺したのは、苦しんでいるのを楽にしてやろうとしたのか、看病疲れ故の凶行なのかがちょっとハッキリしないのが残念ですが、たぶん前者だろうと考えると、フォンの強さを求める執念はそこに起因しているのでしょう。元々カンフー大好き野郎だったのが、愛する人を失った悲しみからより強くありたいと鍛練する。一方で「カンフーは殺人技だ」と言うのはその鍛練した自分の手が妻を殺したこととも無関係ではないでしょう。「大事な人を失えばもっと強くなる」と言うのも自己正当化のための妄念にも見え、対戦相手に告げる「優劣を決しよう」には自分の妻への行いは正しかったのだということを勝つことで証明しようとしてるようにさえ思えます。

対するハーハウは最強を目指して戦うなかで相手を殺してしまったという苦い過去があります。それ故に、自分に会いに来たフォンが強さを求めるあまり宿した狂気に気が付いたのでしょう。ハーハウには相手を死なせた後に自首をするだけの理性があるし、凶行を止めようとする妹弟子もいる。それでもフォンと戦ううちに、相手に勝利するために戦い続けることの高揚があったのでしょう。危うくフォンにとどめを刺し「カンフーは殺人技だ」ということを実践してしまいそうになります。でもハーハウは、かつての自分のように相手を殺そうとするフォンの言葉を拒否します。最後に道路に横たわる二人の姿が鏡像のように対になっていることからも二人が同類であったことが象徴されていますが、カンフーを殺人技と言ったフォンはその妄念ゆえに命を落とし、カンフーを二度目の殺人技とはしなかったハーハウは生き延びるのです。思えばフォンが「殺さなければ勝ったことにならない」と言うのもやはり妻のことが影響しているのかもしれず、そう考えるとなかなかに苦い結末とも言えます。

ラストのどんどん弟子が増えていく道場の集合写真には、ハーハウがカンフーのなんたるかを正しく後世に受け継いでいったのだという感慨があります。それはこの映画も同じで、最後に様々なスターやスタッフといった、カンフー映画に関わった多くの人々への感謝で締め括られる。出れない人はテレビ画面を通してでも出演してもらって感謝を述べたい、というカンフー映画愛に溢れていて素敵です。

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