2015
09.28

1.5センチに託す未来!『アントマン』感想。

Ant-Man
Ant-Man / 2015年 アメリカ / 監督:ペイトン・リード

あらすじ
ちっちゃくなっちゃった!



養育費が払えず最愛の娘にも会えない元泥棒のスコット・ラング。そんなスコットに仕事を依頼してきたのはピム・テックの創立者ハンク・ピムであり、仕事とは特殊なスーツを着て体長1.5センチに縮むことができる「アントマン」となって世界を混乱から救うことだった。マーベル・コミックのヒーロー、アントマンを描くSFヒーローアクション。

MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)のフェイズ2最後の作品に位置付けられたのがこの『アントマン』ですが、マーベルはここにきてまたもや新機軸を打ち出してきました。とにかく楽しいという点、そして主人公の今までにない立ち位置です。序盤こそ話の導入としての地味さはあるものの、縮んでからは超楽しい!縮小・拡大を巧みに操りながらミクロの世界の視点をアクションに結びつける映像センスにのめり込み、予想もしないやり方でインポッシブルな潜入任務を遂行していくスパイ映画的なアドベンチャーにワクワクします。そして主人公のスコット・ラングが、元盗賊のスキルや身体能力の高さはあるものの、異能力者でも天才でも金持ちでも組織の者でも特別な血筋でもない、前科者である以外は本当に普通の人というのが新鮮。このスコットに博士と娘+3バカというこじんまりしたチーム構成なので、肥大化したアベンジャーズに比べて親近感も沸きます。

アントマンことスコットを演じるのはコメディ畑のポール・ラッド。同じくコメディ系出身の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』スター・ロードことクリス・プラットに近い雰囲気がありますが、さらにトリッキーかつ柔軟さを感じさせてくれます。もう一人の重要人物、ハンク・ピム役がマイケル・ダグラスというのも大きい。重みと強気と正義感を感じさせてくれて申し分ない存在感。ハンクの娘ホープ役のエヴァンジェリン・リリーも最高に素敵。『ホビット』シリーズのタウリエルですよ!いつもニコニコ、意外と役立つルイス役のマイケル・ペーニャも抜群。敵役ダレン・クロスにスコットの娘ちゃん、元妻の恋人パクストンに至るまで、キャストが皆イイ。

そしてコンセプトとして使われる程度かと思ってた「アリ」が、まさかあんな使われ方をするとは!アントマンの名はサイズだけではないんですね(原作読んでないもんで……)。なにこの予想以上のアリさん映画!小さくなったら虫が巨大でビビるというのはありますが、気持ち悪く思う一歩手前のさじ加減で見せてくれるし、そのうちアリさんたちが可愛くまで思えてくるのが凄い。他にもコミカルさに笑いが漏れたり、親子愛にほんわかしたり、人生の負け犬たちが大活躍したりといった、今までのMCUにはなかったライトさとハートウォーム、そして自然との共存があります。当初監督予定だったエドガー・ライトが降板したときはどうなることかと思いましたが、脚本には名前が残っているし、仕上がりとしては十分以上でしたよ。バトンタッチされたペイトン・リード偉い。

単体で十分面白いので正直MCUというシリーズへの絡め方には少々強引さも感じましたが、『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』の終わり方が若干苦味があっただけに、アントマンの登場は新たにヒーローたちを繋いでいく希望になるとポジティブに捉えたいです。これをMCUフェイズ2の締めに持ってきた意義はこれから分かっていくのでしょうが、きっと大きいんだろうと思うんですよ。体は小さくてもね。

↓以下、ネタバレ含む。








アントマンの特性は縮小で分子間の距離を詰めることで密度を上げスピードやパワーが増すというもので、パンチは弾丸並みとのこと。ギュッと濃縮することでみっしり詰まってるという感じですかね。これによりスピーディにガンガン相手を倒していくのに加え、縮小・拡大の切替で翻弄したりピンチ脱出したりもできるのでアクションに幅が出るし、見た目にもシュワシュワと縮む演出とかカバンの中でiPhone踏んじゃって曲が流れるとか絨毯の毛足が林のようだったりとか面白い。未来ラボの模型での銃撃シーンは銃弾の嵐のなか車のボンネットを滑りながら移動したりとアクション映画のパロディにもなってるし、終盤のアリ軍団と立ち向かっていくなか次々とやられていく仲間たちのシーンは『スター・ウォーズ EP2』のよう(と思ったらイエロージャケットのビーム音はスター・ウォーズのAT-ATと同じなそうな。芸が細かい)。どれも戦ってる本人には一大バトルなのに、普通の視点ではちょっと物が動いた程度だというのをちゃんと引いた絵で示すことで、スケール感のギャップを笑いにも繋げています。それにしてもきかんしゃトーマスの主張が凄い。

ホープが相手の体を駆け上がって腕を取る技のキレは『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』のイルサ並みですが、それをスコットが実戦で再現してホープが「おっ?」と感心した顔をするのも良いです。こういう細かい演出は随所に見られます。スコットがピム邸に盗みに入ったときの手際の良さには、金庫に冷凍ガスを入れてる間にマットを膨らませカーテンをかけるという作業順序の合理性もあったりして、彼のポテンシャルをしっかり示しています。事前に電子工学にも詳しいことを言っているのでスーツの装置をいじったりすることも不自然ではないですね。スコットの訓練シーンでは、ハンクによる知識、ホープによる格闘、アリさんとのコミュニケーションという、この三要素がアントマンとしての核であると示しつつ、それを交互に見せてトータルで成長しているのが分かる構成になってます。それにしてもアントマンの拡大・縮小ボタンって絶妙な位置にありますね。自然に親指を置く位置からはズレてるから間違っては押しにくいし、ちょっと親指動かせばすぐ押せるし、パンチするために拳を握り混んでても押せる。

ルイスは一見頼りなさそうですが、冒頭の刑務所のデカい男を倒したのは自分だけだと言うので腕っぷしは強いことが分かります。話が回りくどいというか脇道に逸れやすいですが、このときの再現映像で人物の口の動きがルイスの台詞と合っているのも面白い。ワッフルを振る舞うというのも彼の世話焼きな人柄を端的に表してます。他にも、歯抜けも可愛いキャシーちゃんがスコットからもらったホラーチックなぬいぐるみをその後もずっと可愛がっていたり(ところで巨大アリ飼うの?)、意味ありげに映る戦車のキーホルダーが予想の斜め上を行く結果を見せたり、ビル爆破前にルイスが気絶させた警備員を助けにいくというのも実に気が利いていて良いです。忘れた頃にしっかり出てくるスタン・リーとかね。あと亜原子世界の描写は『インターステラー』の5次元世界に近い映像的挑戦じゃないでしょうか。同じようなテンポで進んでいくので緩急の付け方はちょっと弱いかな、という気はするし、クロスがイエロージャケットをいきなり使いこなすのはどうかとは思いますが(こっそり練習してたんだろうか?)そこまで求めるのは贅沢ですかね。

そしてアリさんズですよ。電気を発するとか組体操するなどの特性を活かした要所要所の活躍。給水管への侵入時にアリたちが足場を作り徐々にせり上がっていくのには『ベイマックス』のマイクロボットを思い出します。そしてアントニーですよ。戦闘ヘリのような重低音をたてながら飛んで来る姿がイカす!アントニーに乗るスコットが名馬を駆るカウボーイのようなのも良いです。アントだからアントニーという安易な命名ながら名前を付けちゃったもんだから情が沸いちゃって、最期の羽が落ちていくシーンでは「やめたげてよー!」と思わされます。にしても訓練初期の巣の中で元に戻るスコットにはアリさんたちも憤激だったでしょうね。「押すなや!」と思ってたことでしょう。

物語はヒーローものである前に、大切なものを再び取り戻す話でもあります。スコットは娘との関係を、ハンクはかつて葬った力と平和な世界を、ホープは父との関係と母への思いを。クロスも師と仰いだハンクに認められたいという思いでの暴走です。身近な者への思いというのがメインの動機なのでこじんまりとしそうなものですが、それをここまでの冒険活劇に仕立て上げたのが見事です。走り回るフィールドは広くはないですがまさに冒険活劇という感じで、MCUでは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』と双璧を成すと言っていいでしょう。

MCUとの繋がりは思ったよりもあって、オープニングからして建設中のシールド本部トリスケリオンが映ったり、スターク父やペギーが登場したり(最初は老けメイクでペギーとは気付かなかった……逆にマイケル・ダグラスは若い!)、ピム粒子の話を聞いたスコットが「それはアベンジャーズに頼めば」と言っちゃったり(もっともだ)、そしてファルコンですよ!『エイジ・オブ・ウルトロン』で出番が少なかったのはここで暴れるためだったわけですね。スコットが謝りながら戦うのも笑いますが、むしろ蟻サイズ相手にあれだけ戦ったファルコンにも感嘆ですよ。空から基地が見えたところでさりげなく『アベンジャーズ』のテーマが流れるのも熱い。ハンク・ピムが元祖アントマンでありスコットは2代目だということもちゃんと描いてるし、思いがけずワスプの名も出てきてアガります。

スコットを探しているファルコンに対してルイスが「知っている」と答えたところで終わるのは『キャプテン・アメリカ ファースト・アベンジャー』並みの繋ぎ感があってちょっとどうかなとは思ったものの、そこはもうしょうがないかなと。独自のユーモアバトルのアントマンが確実にヘヴィになるであろう『キャプテン・アメリカ シビル・ウォー』にどう絡むかはやはり気になるし(原作の『シビル・ウォー』にはアントマンは出ないのです)、元シールドのあいつが粒子を持って逃げたのもあるし。それにお馴染みエンドロールのおまけ映像での、ホープがワスプの名を受け継ぐという嬉しいサプライズ、さらにはついに姿を現したバッキーといういきなりの急展開に興奮しないわけにはいかないですよ。トニーの助けを躊躇するキャップとファルコンに嫌な予感を味わいながら、最後の「アントマンは戻ってくる」に感じる希望。1.5センチのヒーローに託された未来にワクワクしながら次を待つしかないですね。

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