2015
09.23

仮面の嘲笑の向こう側。『ピエロがお前を嘲笑う』感想。

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Who Am I - No System Is Safe / 2014年 ドイツ / 監督:バラン・ボー・オダー

あらすじ
ピエロは出ません。



コンピューターの才能を持つ青年ベンヤミンはハッキングをきっかけに知り合った男たちのハッカー集団に流れで加わるが、やがて危険な犯罪へと巻き込まれていく。サイバー愉快犯を描いたドイツ発のクライム・サスペンス。

主人公のベンヤミンは祖母の面倒を見ながらピザの配達人をする引っ込み思案で孤独な青年ですが、類い稀なハッカーの才能の持ち主。その孤独と承認欲求の果てに好きな娘のためにハッキング行為を行い、結果お縄になるというちょっとイタい序盤。しかしたまたま知り合ったマックスに見込まれ、シュテファン、パウルと共に「CLAY」というハッカーチームを組んで次々とハッキングに挑むことに。CLAYは「Clowns Laugh At You」の略で邦題もここからですね(原題はジャッキー映画みたいだけど)。ネットを通したトラブルに巻き込まれるというありがち話と思わせて、ハイテンションで心地よく進むテンポの良さや、過去から急に現実に戻される緩急の付け方が秀逸。

宣伝ではラストがどうこう言っていて、確かにネタバレ禁止案件ではありますが、そこは気にせず観た方が楽しめます。というか、そこに至るまでの方が面白いんですよ。孤独だった青年が己の才能を活かして成り上がっていく成長譚、愉快犯として世間を騒がせる楽しさがいつの間にかサイバーテロに近付くシームレスな怖さ、ハッキングのために物理的にも侵入するケイパーものとしてのスリル、ネット世界の見せ方の妙と、様々な要素が盛り沢山なのです。何よりベンヤミン&チームCLAYが観ているうちにどんどん魅力的になっていき、意外にも青春群像劇にまで昇華させていく、これが良いです。繊細さと大胆さを併せ持つベンヤミン役のトム・シリングがいい味。トビー・マグワイアっぽさがありますね。あと仲間の一人シュテファンがパンツ一丁で「そんなの関係ねえ」をやるシーンに吹きます。

一人の青年が警察に出頭して語りだす事件の全貌、果たしてそれは虚構なのか現実なのか。ピエロのマスクが嘲笑うものは何なのか。スピーディーでスリリングな世界に最後までハラハラかつニヤニヤしてしまいます。

↓以下、ネタバレ含む。








孤独ヲタのベンヤミンにやっと出来た友人はヤバい奴らで、でもネットにはそれ以上にヤバい奴らがいるということです。マックスは有名になりたい、もてはやされたいと思って次々とハッキングプランを実行していき、CLAYの名前は売れてテレビのニュースにまで取り上げられますが(株式曲線でファックサイン作るとか、そりゃ面白いよ)、憧れのハッカーであるMRXには認められない。これは金の強奪や命のやり取りまで行うという一線を越えてないからで、ユーチューバーとテロ組織の動画くらい差があるわけです。ベンヤミンたちが連邦情報局に手を出したことはその一線を越えることであり、ついに人死にまで出てしまう。これを覆すためにベンヤミンは出頭したのであり、結果MRXを追い込んだうえ自分たちの嫌疑まで晴らすというのが痛快。ベンヤミンが捜査官に事件の経緯を語ることで進むという構成は『ユージュアル・サスペクツ』を彷彿とさせますが、それとはある意味逆となっているのが面白いです。

MRXの言う「大胆に行動しろ、安全なシステムはない、人生を楽しめ」の3カ条は、自分たちの領域に誘い、踏み出すきっかけを与え、それは楽しいものだというエサをぶら下げる魅惑的な言葉であり、こういうスローガンにコロッと騙されちゃうのが若さでもあるでしょう。こういったネット上のやり取りを地下鉄の電車内に模した表現がアングラ感があってスゴく良いです。偉そうにしている奴も一皮むけば自分らと変わらぬ若者だったりする、というのもいかにもありそう。ネットの匿名性を仮面を付けた者たちで表すのも上手いです。

この仮面が持つ意味は素顔を隠すという役割と同時に記号化でもありますが、ベンヤミンにとってはそこに一種の変身願望も込められていたことでしょう。アホみたいな鳥の格好でピザを配達していた時の自分とは違うのだと言い聞かせることができる、自分を嘲笑った世間を見返すための仮面です。しかしマリのことで喧嘩したマックスと和解して本当の仲間となり、憧れだったマリとも行動を共にすることで、ベンヤミンはその仮面を脱ぎ捨て出頭という大勝負に出る。そしてその勝負に勝ち、悠々と船に乗り去りゆく4人。ベンヤミンの自信に満ち溢れた姿には悪の華が開花したようなカタルシスがあります。

しかしよくよく考えれば、全てはベンヤミンの口頭で語られた話でしかないんですよ。そこにどれだけ真実が含まれているか観ている者には分からないのです。ひょっとしたら全てが作り話で、ベンヤミンは元々ハッカー集団のリーダーであったかもしれない……などと考え始めると何が正解か分かりませんね。嘲笑われているのはもしかしたら我々観客なのかもしれません。

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