2015
09.20

スーツというシンボル、紳士という精神性。『キングスマン』感想。

Kingsman
Kingsman: The Secret Service / 2014年 イギリス / 監督:マシュー・ヴォーン

あらすじ
Manners maketh man.



労働者階級の青年イグジーは警察に捕まった際、幼い頃謎の紳士からもらった連絡先へ電話する。迎えに来た男ハリーはどこの国にも属さない独立諜報機関「キングスマン」の者だった。イグジーはキングスマンの一員となるべく採用試験に参加する。マーク・ミラーのグラフィック・ノベルの原作をマシュー・ヴォーン監督で映画化したスパイ・アクション。

もう!最高!現代版の『007』シリーズとも『ミッション:インポッシブル』シリーズとも違う、「いつかまた観たかった」スパイ映画。英国スーツをビシッと着こなしたエージェントが世界を混乱に陥れる奴らに迫ります。あくまでスマートかつ徹底的に敵を倒していく痛快なバトルシーン、かつての『007』を彷彿とさせる身の回りの物を使ったスパイ・ガジェットの数々、そしてこだわりのスーツの優雅さと、とにかくスタイリッシュなアクション&ファッションが爆発。「僕の考えたスパイ物語」といった風情です。

オープニング映像からしてクールで震えますよ。緩急あるスロー映像、カメラの前後移動を多用した奥行き感といった画作りも実にいい。ハリーを中心にして動くなどの、フォーカスする対象を明確にしたアクションはスピード感がありながら観やすいし、真横からスクロールで映す『キック・アス』的なショットも燃えます。テイラーの内装とか敵の秘密基地とか、どこか懐かしさ溢れる美術も良いです。加えてピンチに次ぐピンチの畳み掛け、予想外の展開といった映画的面白さ。音楽の使い方も相変わらず捻りが効いていて、特に「威風堂々」の流れる場面は最高!アーサー、ランスロット、ガラハッドなど円卓の騎士をモチーフにした呼び名もイギリスって感じです。

登場する渋い紳士たちは見目麗しく、特にハリー役のコリン・ファースは初の本格アクションでありながら素晴らしい動きを見せてくれます。マーリン役のマーク・ストロングのデキる男なのにどこかすっとぼけた感じがなんと言うかもう、癒しですね。この『裏切りのサーカス』コンビに加え、アーサー役マイケル・ケインの大物感も効果的。そして若手代表エグジー役に大抜擢のタロン・エガートンの活躍ぶりが見事。はしゃぐ若造からスーツを着こなしたエージェントまでしっかりこなして物語の牽引役になってます。そんなキングスマンの面子に対するはサミュエル・L・ジャクソン。最近では『ビッグゲーム 大統領と少年ハンター』で大統領役にまで上り詰めましたが、今回は世界的なIT富豪というミスマッチさにインチキ臭さが醸し出されていて逆にマッチ。側近である両足が義足ブレードの女性ガゼルが超絶強いのもポイント。彼女のアクションシーンは圧巻です。

伝統と革新、スーツとカジュアルといった対比がやがてクロスし、バイオレントとエレガントの融合、古き良き時代と新たに始まる時代の繋がりに昇華されていきます。往年のスパイ映画を再構築することによる温故知新がありますね。『キック・アス』レベルのグロ描写はあるし、皮肉でひねくれた作りが合わない人もいるでしょうが、個人的にはやはりマシュー・ヴォーンは期待を裏切らないと思わせてくれました。意外とネタバレ禁止案件なので気を付けましょう。あとエンドクレジットの途中で最高のシーンがあるので見逃し注意です。

↓以下、ネタバレ含む。








キャラが立ちまくってます。マーリンは10人のメンバーには含まれない秘書と言うか裏方のはずですが、銃の腕前は抜群だし「これは私のだ」で笑わせてくれます。血に弱いというヴァレンタインは教会の騒動のときに吐きそうだと言い、ハリーを撃つときも手を口に当てて吐きそうになってて、ラストに自分の血を見てついにマーライオンするという、下衆+ゲロ要員として強力。物理的に強力なのがガゼルちゃんで、あの義足のインパクトは『プラネット・テラー』や『キル・ビル vol.1』のよう。ヴァレンタインとの関係が秘書なのか恋人なのか熱烈な支持者なのかハッキリしませんが、最後にヴァレンタインの頬に手を当て飛び出していくとか、インプラント・チップを埋め込んでいないことから察するに深い関係なのかな?彼女は心情も背景も全く描かれないのでそこはちょっと残念。高所恐怖症なのに高さの極限である宇宙まで行っちゃうロキシーとか、なんか似てるなあと思ったらまさかの本人だったマーク・ハミルとか、あと犬のJBの可愛さもたまりません。

独立諜報機関だから政府やら何やらとのしがらみがないという説明がありますが、ではキングスマンは一体何のため、誰のために活動しているのかがハッキリしないんですよ。世界平和のためということかもしれませんが、何が正義かはどういう社会や思想に依るかによって変わるわけで、その点ではキングスマンが相手にするのはテロ組織とか大学教授をさらった奴とか、世間一般に「悪」と映る輩になるんでしょうかね(だからアーサーがヴァレンタイン側に付いたのもそちらが正義だと思ったからでしょう)。ここが従来のスパイものとはかなり違うところで、政治的・社会的に中立を貫くという意味では立派なポリティカル・コレクトネスですが、実態は伝統的イギリス文化の、もっと言えばロジャー・ムーア期『007』の世界を踏襲しているためさらにあやふやになります。それでいて女王陛下に該当するシンボルがない。さらに言えば序盤にキメポーズや酒をこぼさないスマートさというまんま昔の007的ランスロットが大活躍したと思ったら直後に真っ二つに裂かれてしまうとか、近年の007はシリアス寄りすぎるとダニエル・クレイグ期まで軽く否定、どころかマティーニの作り方もウォッカではなくジン、シェイクせずに見てるだけと真逆の注文をする。

つまりオマージュはあるものの、王道をなぞるつもりはさらさらないということです。だから政治とか権威とか関係ない。とにかくスパイ映画のカッコいい要素を取り出して、それをひたすらカッコよく見せるんですね。スーツはカッコいい、悪い奴は倒す、というシンプルなものです。そしてそこに燃える要素をガンガン足す。スパイ・ガジェットはアンティークな渋さを持ちながら仕組みや原理は無視して何でもあり。屋敷の前庭スペースが下がって飛行機が出てきて発進というレトロさ。とにかくブッ殺しまくる教会シーンの本能を呼び覚ますかのような長回しバイオレンス。花火シーンに至ってはやってることは悪趣味極まりないのに、あんなに景気の良い痛快さはなかなかありません。だから話の細部にアラがあろうが荒唐無稽だろうがそんなことはどうでもよくて、とにかくカッコよければいい。最後はイイ女とウッフンして終わるのもかつての007のオチをさらに大げさにしてて、そこまでやるかのオンパレードですよ。実に愉快。引っかかる点としては、水中でパンチでマジックミラー割るのは無理じゃなかろうか、SIMカードがタダだからってそんなに貰うもんだろうか、他のエージェントたちはどうしてるのか、などまああるんですけど、そこらへんの弱点もむしろ空想物語の趣を強くしてて悪くはないと思います。

あとはシニカルな視点ですね。上流階級とか平民とか、依然として残るイギリスの階級意識については特にそれが強いです。キングスマン自体が上流階級の人々が作った組織でありながら、ハリーは「生まれは関係ない」と言ってエグジーを紳士に育て上げようとするし、アーサーに対しては「上流気取り」と揶揄したりもする。平民(というか没落貴族)のエグジーは平民を見下すアーサーを倒し、キングスマンとしてヴァレンタインをも倒すことになる。この階級の壁をブチ壊すというのが皮肉であるし、逆に平民から貴族になって終わるというのも皮肉。さらには革新の象徴であるIT富豪を、伝統を引き継ぐキングスマンが倒す、というのもそうです。様々な対比を持ち込みどちらもおちょくるのが面白いと言うか、ビッグマックとワインとかその最たるものですよ。そして繰り返される「これは映画ではない」という台詞の悪ふざけ。あらゆる方向にシニカルです。

それでも斜に構えた印象をあまり受けないのはハリーの存在が大きいと思うんですよ。エグジーが基地にズラリと並ぶ飛行機を見たとき「君の父親もそんな顔をした。私もだ」と言うところで「純粋に世界の平和のためにこの仕事をしているのだろう」と思える。エグジーを育てようとするのも命の恩人の息子だからという感傷だけではなくそのポテンシャルを見極めたうえでのこと。ハリーの言う「紳士」は精神の在り方なんだろうなと思わせてくれるため、シニカルな作風に一本芯を通してくれてると思うのです。冷静に見えてかなり感情的なところもそう。それだけに教会シーン後の途中退場はショッキング。攻撃本能を操られたとはいえ自分の意思でやったと言っている以上これは引き返せない悲劇であり、「実は生きていた」という理屈はさすがに通らないでしょうね。この辺りは作劇的にはありだと思いますが、感覚的には意地悪な構造でもあります。

そんなハリーの意志を継ぐのがエグジーですが、エグジーはハリーの精神を持つにはまだ未熟なのは明らか。だからスーツを着ることで形から入るんですね。スーツは戦闘服だというハリーの教えもあるし、何よりそこにハリーの姿が重なるためキングスマンは世界を救うのだという戦う根拠に繋がる。これは結構危うい綱渡りな展開だとは思いますが、ここに至るまでスーツ姿が相当な印象を持っているため、スーツの若者が物語の推進力になれるんですね。言ってみれば女王陛下に変わるシンボルがスーツです。そして最後の最後、バーでハリーと全く同じように「マナーが人を作る」と言ったところで、ようやくハッキリとハリーの意志を受け継いだことが確認できる。エグジーがガラハッドの名を継いだとすればこの時点であり、だからこそこのラストシーンには震えるのです。これならきっとJBも元気でやってるでしょうね。

スポンサーサイト
トラックバックURL
http://cinemaisland.blog77.fc2.com/tb.php/969-4baf1c6e
トラックバック
エージェントのハリー(コリン・ファース:54歳)は、ホレボレするほどスーツが似合っている! 服の仕立ての良さとそれを着こなす彼の所作に目が釘付けだ。一方、悪役ヴァレンタインを演じているサミュエル・L・ジャクソン(66歳)は成金アメリカ人に徹していて、拍手を送…
『キングスマン』お薦め映画 dot 名機ALPS(アルプス)MDプリンタdot 2015.12.06 13:38
back-to-top