2015
09.13

稚気と成熟。『ヴィンセントが教えてくれたこと』感想。

St_Vincent
St. Vincent / 2014年 アメリカ / 監督:セオドア・メルフィ

あらすじ
ご近所付き合いも楽じゃない。



偏屈で嫌われ者の爺さんヴィンセントは、隣に越してきた女性マギーから12歳の息子オリバーの面倒を見るよう頼まれる。嫌々引き受けたヴィンセントはひ弱なオリバーに破天荒なやり方で接していくが……。ビル・マーレイ主演のハートフル・コメディ。

ヴィンセントはいかにもビル・マーレイな感じの頑固不良ジジイですが、適当親父っぷりに年を経たからこその円熟味が加わってなかなか奥深い人物になってます。そんなヴィンセントと、ひょろりとして小柄だけど意外と気の強いオリバー少年との奇妙な関係が、ペーソスとユーモアを交えて描かれます。ヴィンことヴィンセントは心底めんどくさそうだしオリバー君も結構サバサバしてるのでそれほどベタつくドラマにはならず、それでいて徐々に繋がっていく二人が好ましいです。原題と宗教色の強い授業からなんとなく先は読めるものの、テンポの良さで観れちゃいますね。逆にヴィンがああなった経緯の省略とか、少年と馴染むのが案外早いなあとか、ちょっと気になる点はありますが。

もちろんビル・マーレイはさすがの存在感。ふてぶてしくも茶目っ気のある変わり者として言うことなしです。オリバー役のジェイデン・リーベラー君も細っこいけどいい目つきしてますねえ。ナオミ・ワッツがパンチラ上等の妊婦の娼婦役で迫力のビッチぶりだし、母親役のメリッサ・マッカーシーも体型とぶっちゃけ話で別の意味で迫力。

意外とサラッとした印象ですが、裏には人生の悲喜こもごもがあったりします。あとオリバー少年といじめっ子の関係の変化が良いんですよ。かなりベタだけどあれは好き。爺さんと少年という題材としてはそこまで目新しさがあるわけではないけど、適度な距離感を保っていた二人だからこそ、ラストには泣けます。

↓以下、ネタバレ含む。








ちょいちょい明らかになる事実で興味を持続させるのが上手いです。ランドリー回収は仕事で来ていて戯れに患者の相手をしてるのかと思ったら、それが妻であったというので一気にせつなくなるし、ベトナムには行ってないと言いながら実は行っていたというのも明らかになったりします。いきなりの脳卒中展開もちょっと驚き。ただ妻の入院のせいでひねくれたのか元からなのかがハッキリしないのを始め、ヴィンの人生を振り返るというところまでは行ってないのがちょっと弱い気もします。ビル・マーレイの演技に頼りすぎてる印象。あとオリバーが養子っていう設定がほとんど活かされてないような……親権争いもあっけなく共同親権になるから母親が息子を取り上げられたわけではないし、それでいて父親との関係がほとんど描かれないのでオリバーの家族の背景もちょっと弱い。元ローズ大佐ことテレンス・ハワードの借金取りもちょっと歯切れの悪い感じで出なくなっちゃうし。

でもそういった不足はあまり掘り下げられても重くなるので、敢えてのバランスなのかもしれません。そう考えるとダカの子供が誰の子かは明かされないのもそこは重要じゃないからだろうし(ヴィンの子ではないようですが)、何よりその時々のヴィンとオリバーの関係性にフォーカスしてるという感じはします。細ッこいくせにFワード叫びながら相手に掌底カマすオリバーとか、ダカが世話をするから金をもらうと言ってるときにパンツが見えてOKしちゃうヴィンとか、そういう人間味の方を描きたかったのかもですね。

老人と少年の友情物語と言ってしまうとありきたりな気もしますが、そこは見せ方によって工夫できるところでもあるなあ、というのは感じました。本作で言えば、いきなりリンゴ盗んだり娼婦とのベッドシーンだったりする不良ジジイと、フィジカルは弱くても意外とメンタルは強い少年という組合せ。立場的には面倒見る側と見られる側ですが、ヴィンがオリバーを子供扱いせず(というより子供だからと遠慮してない)競馬場やバーに平気で連れて行くし、オリバーはそれに冷静に付き合うという、わりと対等な立場で接しています。ヴィンセントの稚気とオリバーの成熟さのバランスが取れているんですね。もちろん年長者としてヴィンが教えることの方が多いですが、それも喧嘩やギャンブルなどの年長者だから知っている大人の遊び、というだけで哲学や道徳といったものではありません(ダカのことも「夜の女」って教えちゃうけど、そこは子供だけに「夜勤の人」と勘違いするのが可笑しい)。そして頭のいいオリバーだからこそヴィンが悲しい人であるということを見抜き、同時にその裏にある本当の姿も感じ取ります。

オリバーが真にヴィンから教えられたことはそのガサツさの裏にある優しさであり、その自分の優しさに気付かないヴィンにそれを逆に教え返す、というのも対等さを感じます。過去の英雄的行動や妻への献身的愛情を自ら調べ、それにより盲目的ではない確かな信頼を確認し、それに値する人だと本人にも伝える。ヴィンがオリバーに言う「ありがとう」は、ダメな自分以外の姿を教えてくれたことに対する感謝でしょう。オリバーがヴィンに返すのは哀れみでもおせじでもない対等な想いであり、でも尊敬と言うと語弊があるというか二人の関係にはちょっとピッタリ来ない。だから単に「いい人」と言う代わりに、客観的な称号とも言える「聖人」とすることがとてもしっくりきて良いです。

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