2015
09.03

小さな二人の壮大な旅路。『クーキー』感想。

KOOKY
KUKY SE VRACI/KOOKY / 2010年 チェコ / 監督: ヤン・スヴェラーク

あらすじ
おうちに帰ろう。



病弱な少年オンドラが大事にしているピンクのテディベアのクーキーが、ある日オンドラの母親に捨てられてしまう。遠くのゴミ捨て場でショベルカーに潰されそうになったクーキーは突然動き出して森の中へ逃げ込むが……クーキーはオンドラの元へ帰れるのか。チェコ版アカデミー賞のチェコ・ライオン賞で4冠に輝いたという、実写とパペットが融合したファンタジック・アドベンチャー。

クレイアニメかCGかと思ってたら実写、しかも登場する人形たちはチェコ伝統のマリオネット操演により動かしているというのが驚き。糸はポストプロダクションで消してるんですね。キモかわいいキャラをデザインしたのはチェコのゲームクリエイター集団アマニタ・デザイン。ユニークな世界観が本作でも反映されててとてもよい感じ。撮影は実際の森でも行ったようで、鳥や虫(どこまで本物かは分からないけど)とも共演し、それに伴うファンタジックなのにリアルという独特の異世界感が秀逸です。ぬいぐるみが自ら立ち上がる姿は実写ならではの感動。廃材を使って作った小さな車などの小物、木々や葉っぱ、水や雪や火まで使う自然へのこだわりもイイ。森の広場で大勢のマペットが集うシーンはなかなか壮観です。

しかも予想以上に深い話。捨てられたぬいぐるみが再び持ち主に会うため旅路につく、というのがメインプロットで、それだけ聞くと『トイ・ストーリー』の二番煎じ的な話かと思うけど、それとはまたちょっと違うんですね(チェコでは『トイ・ストーリー3』と同年公開)。都会育ちのクーキーと彼を助ける老いた森の村長、二人の辿る道は行ったり来たり。ゴミ捨て場の監視人に追われたり、村のクズ野郎に妨害されたりする。恩を仇で返されたり、意外な助けがあったり、そして新たな旅立ちがあったり。シュールな中に社会の縮図も描き、感傷だけで終わらせません。

これどうやって撮影したんだ?というのが色々あってチェコのパペット凄いです。クーキーが可愛らしくて、同じ動くクマでもゲスい『テッド』とは大違い(そりゃそうだ)。現実と繋がるファンタジーとしては『ネバーエンディング・ストーリー』を彷彿とさせますね。ラブリーでせつなくて前向きです。

↓以下、ネタバレ含む。








クーキーはなかなか家に戻れず、行ったと思ったら戻ってきたり、逃げたと思ったら取っ捕まったりとなかなか先に進みません。クーキーの冒険は結局はオンドラ少年の空想なので、その中ですんなり帰ってこれたとしても現実に手元になければ物語は終わらないわけです。ふにゃふにゃテディベアのクーキーが醸し出す頼りなさ、非力さといったものは喘息気味で細っこいオンドラ少年に通じるものがあって、それだけに彼はクーキーに己を重ねているのかもしれません。親切かと思いきや早く厄介払いしたがる村長や、保守的でよそ者にはそれほど親切なわけでもない森の住人たちにも、生活の異なる者との相容れなさという現実が反映されているのでしょう。部屋が傾くシュールな映像も少年の想像力を表しています。

一方で子供らしいアドベンチャーも展開します。車や草むらに火を付けながら行うカーチェイスは『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のよう。HOMEに帰る、という点も似てますね。そんな燃やして大丈夫かと心配になりますが……。逆にペットボトルを熱して潰し閉じ込めるという発想などは子供ならではの残虐性も感じます。それでいて後に眼鏡代わりになるとか、あと卵を腹に詰めて守ったり綿の代わりに鳥の羽根を詰めたりというクーキーの中身をよく知ってるからこその自由な発想も面白い。

しかし再会したクーキーから鮮やかな鳥の羽根を見つけたことで、少年の空想は突如現実と明確にリンクします。そしてスーパーの前でたむろするホームレスの一人が村長であると思い込む。ホームレスの男は事前にもっと印象付けておいてもよかったかなとは思いますが、それでも彼が村長を名乗るのは感動。本当は少年も彼が村長などではないということを分かってはいるんでしょうが、たとえ薄汚れていても死に向かっていても、優しさと尊厳を持って少年に接しようとする男の姿が少年に新たな一歩を与えます。クーキーは生きにくい現実での障害を乗り越えてきた英雄となり、村長になることを選ぶ。それは悲しい別れであると同時に、子供時代から一歩成長する少年の決意でもあるのです。

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