2015
09.01

現代の悪のカリスマ。『ナイトクローラー』感想。

nightcrawler
Nightcrawler / 2014年 アメリカ / 監督:ダン・ギルロイ

あらすじ
VPNへようこそ。



たまたま通りかかった事故現場で映像を撮る報道スクープのパパラッチを見て、自分もやってみようと思い立った青年ルーは、より刺激の強い映像を求めて夜のLAを彷徨ううちに思い切った行動に出る。ジェイク・ギレンホール主演のサスペンス。

一人の男がフリーの報道カメラマン(と言うかパパラッチ)として成り上がっていく話ですが、この主人公ルーことルイス・ブルームがとにかくゲスい。常に自己を啓発し、様々な知識をネットで習得し、天職を見つけてその業界で名を成すためにあらゆる努力を惜しまず、自己実現に邁進します。……と書くと「何がゲスいの?」となるのが不思議。でも間違ってはいないんですよ。暴力も一切使わないし、表立って激昂することもない。でもゲスいのです。それがもう観ててすげームカつく!なのに面白い!

主人公がゲスいというのは他の映画、例えば『ウルフ・オブ・ウォールストリート』などもそうですが、(かけるのが金と命という違いはあるものの)ここまでそれを徹底し、挙げ句自分を信じて突き進む男のサクセスストーリーになっちゃってるのが凄い。これは勝てないと思うし、憧れを抱く人が出てもおかしくないです。でもそれは表面だけ見れば言えることで、やってることは心底ムカつくんですよ。だから面白い。

ルーを演じるジェイク・ギレンホールは作品ごとにかなり印象が違いますが、痩せ細った体と音を立てない歩き方で新たな不気味さを表現しています。何より大きく見開きまばたきもせずギラつく目。肝心なのは、そこにあるのが「狂気」ではないということです。全てを素材として映すフィルターであると同時に、決定的な感情の欠如の表れでもある目。それを光らせて夜の街を暴走する姿が、逆に人間性とは何かを問うてくるのです。言葉巧みに成り上がるその姿には「アンチヒーロー」という耳障りのいい言葉を使うのもそぐわない気がします。

それでいて要所で使われるポップな音楽に不覚にも高揚感を覚えるんですよ。クールなショットもそこかしこにあるし、予想外のカーチェイスにもワクワクしてしまう。そして一切ブレない主人公が(この言葉を使うのは本当に悔しいんだけど)痛快でさえある。もう最大級の賛辞をもって「ゲスい!」と言いたいですね。今の時代だからこそ生まれた怪物の物語です。

↓以下、ネタバレ含む。








ルーは盗んだ屑鉄を売ることで金を得ようとし、盗みを働いた場所で自分を問い詰める警備員から時計まで奪い、さらにはその屑鉄の売り先で自分まで売り込もうとする。買い手の男に「コソ泥はいらん」とバッサリ言われてもめげる様子もない。ここまでで既に道徳観も倫理観もない男だというのが分かります。でも意識だけは高くて、自分に絶対的な自信を持っている、その根拠のなさが怖いです。そうして徐々に満たされ始めた承認欲求はさらに高まり、やがて事件に演出を加え始めてその全てをコントロール下に置き始め、結果が評価されることの快感を重ねるといとも簡単に一線を飛び越える。現場も死体も全て被写体、というよりネタにしか見てないんですね。カメラを通して見る現実というのがより一層ルーのリアルを欠いていきます。

また感情の欠如も顕著で、あるのは車を赤のカマロ(かな?)に変えるという分かりやすい自己顕示欲、スクープを盾に女を操ろうとする支配欲、商売敵を叩き潰し自分が一番になろうとする我欲と、全て欲望に依ったものです。そしてそれを表に出さずじわじわとものにしていく。その時に僅かに見せる冷笑が彼の感情の全て。周囲どころか観る者にさえ何のエクスキューズも求めていないんですね。そのくせ人から自分以下に見られるのは許せないので、新たに雇ったリックに「ルー」と呼ばれても「ルイスだ」と愛称で呼ばれることを拒否する。

上り詰めようとする理由が向上心であるなら、普通はエースの誘いを受けて色々スキルを盗んだ上で独立しそうなもんですが、唯我独尊であるため自分以外のトップは求めていないし、そもそも自分は正しいから誰かについて修行なんて必要ないと思ってるんでしょう。それでいてエースの教えたエアカードは興味ないフリしてちゃっかり取り入れる。つまりルーの持つのは向上心でさえなく単なる野心なんですが、それを野心とは見せず、表に出すための言葉として「天職だ」と言う。テレビなんてバラエティで笑うだけだったのでそれも後付けのはずですが、自分で納得している節まであります。結果があってからその理由を作り出しているんですね。結果を出すためには経緯などどうでもいい、だから撮った行為が犯罪だったとしてもそれは彼の感知するところではないのです。それでいて警察が手を出せるような証拠は決して残さないあたり、犯罪さえも彼のコントロール下にあります。そうして撮ったスクープに、あのレネ・ルッソが演じるベテラン編成局員ニーナでさえ遂には身も心もメロメロになってしまう。彼女の方向性はルーと近いだけに自分に出来ない突き抜け方を見せられて、諌めるどころか認めてしまうんですね。VTRをバックに向き合う二人のシーンは辿り着けない地平を見ているようでゾワリとします。

すごくもっともらしいことを言うし成長しているようにも見えるので魅了されそうになりますが、実際のルーは初めから何も変わっておらず他人のものを奪うコソ泥根性のまま。初めて映像を売るのもビル・パクストン演じるエースの盗み聞いた話からだし、カメラも盗んだ自転車を売っ払って手に入れたもの。事故犠牲者をフレームの収まりがいいように動かしたり、麻薬強盗であることを無視して自分のストーリーに沿って事件を報道するよう仕向ける。エースが邪魔になれば事故らせて仕事を独占し、リックが邪魔になれば殺させて金は独り占め。なによりルーの腕には最後まで冒頭で奪ったあの腕時計が付いています。社会的に悪いことが悪だという認識がない、つまり自分が悪だということを分かっていない正真正銘の悪です。突如VPNという会社名を名乗り、カメラも車も増え、補充したスタッフに「私がやらないことは皆にも求めない」と言いますが、必要ならば彼のやらないことなんてないわけですよ。そして全てが彼の価値観において進んでいく。ブラック企業というのはこうして作られていくんでしょうね。彼の訓示を「寝言はやめろ」と言いギャラの半分を要求したリックの最後を思えばブラックより酷いドス黒さを感じます。

驚いたことに話はルーが失敗することも断罪されることもなくそのまま終わってしまいます。だから全てを手に入れるサクセスストーリーになっている。その裏に蠢く暗黒は暴かれることなく今後も広がっていくのでしょう。でもここまで徹底して描かれると決して肯定したくないのに目が離せないんですよ。悪のカリスマとしての存在感が生まれるんですよね。やりたいと思っても出来ないことを平然とやってしまう姿が観る者の野心と悪を静かに揺さぶるのです。だから認めたくなくても痛快さまで感じてしまう。そのギャップに不覚にも酔いしれてしまうのです。

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『ナイトクローラー』お薦め映画 dot 作曲♪心をこめて作曲します♪dot 2015.09.07 15:07
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