2015
08.29

乾いた大地は心やせさせる。『奪還者』感想。

the_rover
The Rover / 2013年 オーストラリア・アメリカ / 監督:デヴィッド・ミショッド

あらすじ
死んでも奪い返す。



世界経済が崩壊して10年のオーストラリア。強盗団に愛車を奪われたエリックはそれを取り戻すため執拗に追う。その途中で、撃たれて強盗団に置き去りにされた仲間の青年レイと出会い行動を共にしていく。『アニマル・キングダム』デヴィッド・ミショッド監督によるオーストラリア発の世紀末サバイバル。

背景以外は一切説明なしで、車を奪われた男ガイ・ピアースがひたすらそれを取り戻そうとする追跡劇。荒れ地も目立つ静けさのはびこる街で、一人の男が車から降りて一件の建物へ。そこは薄暗く雑多なものにまみれながら人は少ない、それでもどうやらレストランらしきところ。いなたい雰囲気のなか飲み物を手にする男、その後ろにある窓の外で突然の……!この「思いのほか静かに壊れ行く世界」で「突然剥き出される暴力性」に度肝を抜かれます。『マッドマックス』1作目と2作目の間のような世界観と多くの似通った要素を持ちながら「ヒャッハー!」というような高揚感は皆無なので派手なアクションを期待すると肩透かしですが、代わりにいつ爆発するのかという延々と続く緊張感を味わえます。

ガイ・ピアースの演じる主人公エリックは、寡黙ながら内に秘めた暴力性がまさにこの作品を象徴するような存在。過去も現在の状況も分からないまま、盗まれた車をじりじりと追っていく様は狂気の体現に見えます。そしてエリックの車を奪った強盗団に見捨てられた男レイ。演じるのは『トワイライト』のヤング吸血鬼以来演技の幅を広げてきてる感のロバート・パティンソンですが、こんな演技も出来るのかと驚き。ちょっと頭の弱い感じながら自ら戦おうと葛藤する青年を繊細に表現しています。レイを結果的に見捨てることになった兄役『モンスターズ 地球外生命体』のスクート・マクネイリーも良いですね。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の鉄馬の女の一人が出演しているのも何か関係めいたものを感じさせます。

空疎な社会で育むエリックとレイの奇妙な繋がり、そして心を打つ寂寥感。ストイックに綴られる乾いた世紀末的物語に、裏『マッドマックス』とも言うべき雰囲気が漂います。

↓以下、ネタバレ含む。








冒頭のレストラン(なのかもよく分からない場所)からして、寄り添う男同士のカップルや大音量の中国歌謡と既に普通じゃない感じがします。まるで阿片窟のような男娼館といい薄暗い雑貨屋といい、経済崩壊を受けて今にも崩れそうな生活感が、外の何もなくだだっ広い草原の風景と相まって色濃く出ています。そんな中で無償で人を救おうとする女医は、僅かに残った理性と良心を発揮する血の通った人物として唯一描かれます。

しかしガイ・ピアース演じるエリックはそんな彼女の好意に礼を言うこともなく悲劇だけを残して去っていきます。銃を買う際に値段でごねる小人の男を何の躊躇もなく殺し、モーテルに襲い来る警官隊もあっけなく射殺する。冷徹な、と言うよりは、自分の前を遮る者に怒り排除している、という感じがします。妻を不倫相手共々殺して埋めた元農夫という昔語りが真実であれば、そこに起因しての無差別な怒りはそれを罰しようとしない社会により野放しにされたことで歯止めが利かなくなり、正気と狂気の境界線を歩き続けているのでしょう。男娼館の老女に名前を聞かれても決して名乗ろうとしないのは、完全に世界と決別しているからです。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のマックス以上に世界と関わることを拒否した男なんですね。

一方でエリックに拾われるレイは、最初は自分が置き去りにされたことに何か理由があると思っているものの、やがて兄に捨てられたと思い込み復讐を決意します。どもりがちで弱々しい口調から、恐らくそれまでは兄に従順な弟であったのでしょう。だから兄が自分を見捨てたということは世界に見捨てられたにも等しい。しかしエリックの「戦え」という言葉に呼応するように無茶な銃撃戦を行い「戦おうと思ったんだ」と言うレイは、これもまた怒りによって、「見捨てられた」を「別れを告げた」に変えて世界と対峙しようとします。似た者同士となった二人だからこそ芽生える奇妙な信頼関係。しかしレイは最後に兄を撃つことを躊躇し、相討ちとなって倒れます。エリックは己の怒りを押し付けたばかりに、出来かけた相棒まで失うことになるのです。

エリックが自分の車にこだわる理由が最後の最後で明らかになります。恐らくは妻を殺した後の時間を共に過ごしてきた相棒だったのでしょう。思えば彼が唯一動揺するのが、沢山のケージに閉じ込められた彼らを見たとき。やっと葬ることが出来るという安堵を感じさせながら、またも車以外全てを失ったエリックに伴う絶望感、喪失感、虚無感。原題の「The Rover」は「流浪者」の意味ですが、彼はまた流浪の民としてただ生きていくのでしょう。やるせなさが背景の荒涼感と溶け合い、何とも言えない余韻を残します。

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