2015
08.11

駆逐すべきはこの世界か。『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』感想。

shingeki_no_kyojin
2015年 日本 / 監督:樋口真嗣

あらすじ
世界は残酷。



突如現れた巨人たちに人類の大半が捕食されてから100年。生き残った人々が巨大な壁を築いて暮らす中、まだ見ぬ外の世界に惹かれる青年エレン。しかしある日突然エレンたちの目の前に超大型巨人が現れる。諫山創の大人気コミック『進撃の巨人』を実写映画化した2部作、その前編。監督が特撮と言えばの樋口真嗣、脚本に映画評論家の町山智浩も名を連ねているということで話題でした(もう一人の脚本が渡辺雄介なんだけど……)。

原作も読んでるしアニメ版も観ましたが、実写映画化は極力別物として観るべきと思っているので(上手く観れないときもあるけど)一本の映画としてどうかが重要だと思うんですよ。と言うか最初に言ってしまうと「原作に忠実である」ことを期待すると発狂するレベルだと思います。そのため映画化に際しての取捨選択、アレンジ、結果的な完成度がどうかというのを見た方が正しいです(精神衛生的にも)。原作者も関わっていることだし、そこは割りきるべきですね。

『進撃の巨人』という物語のポイントを挙げるなら、巨人の恐ろしさと謎、世界に翻弄される若者たち、世界観の独自性や立体起動装置によるアクション、といったところでしょうか。まずは何と言っても巨人の不気味さ。人をヒョイとつまんでは食いまくる巨人の群れはまさに地獄絵図で、これは素直に凄いです。完全CGではなく実際の人物を撮ったものを加工して仕上げた巨人の姿は半端にリアルなのが生理的嫌悪感に繋がっており、加えて食らいつき引きちぎるという容赦ないゴア描写によるおぞましさが恐怖感を煽ってきます。隣に座ってた小学生男子(PG12だからいてもおかしくはない)が思わずという感じで「気持ち悪い……」と声を漏らしてたくらい。容姿や動きも様々で、巨人のなかに江頭2:50(奇行種)が混ざってそうで無駄にハラハラしてました(なに言ってんだ)。

そんな巨人に平和な生活を奪われ命懸けで戦うことになる若者たち。エレン役の三浦春馬は個人的に好きなのでさほど文句ないです。ミカサ役の水原希子も演技はともかく雰囲気はあると思うし、アルミン役の本郷奏多もかなりアルミンでした。石原さとみのハンジは原作以上にマッドで危なっかしい。なぜかドジッ子属性が付いててちょっと余計だなという気はしますが……。あと長谷川博己のシキシマはリヴァイ兵長の変化形なんでしょうが、実際は大分違うので別人という扱いにしたことは正解だったでしょうね。ただそんな彼らの演技がどうこう以前に、脚本的に、または演出的に引っ掛かる点が多いです。それは原作の改変とは別の話で、展開は早いのにテンポは良くないとか、行動原理の不可解さや台詞の練り込み不足もかなり目に付きます。二部作の前編なので後編で明かされそうな点、例えば巨人の秘密やシキシマの行動の理由などは保留するしかないですが、それにしても描くべきところ、省くべきところのチョイスが上手いとは言い難く、それがドラマ部分の多くに見られるのが非常に気になります。

それでも特撮を駆使したアクション部分に見られる、圧倒的戦力差に対する無力感、仲間が食われていく絶望感には必要以上のこだわりが感じられます。立体起動装置のシーンは思ったよりは良いし、ラストの特撮アクションのカタルシスなどは素晴らしかった。何よりアクションシーンではあまり停滞せず走り続けるのがいい。尺の長さや予算の関係での制約は当然あるでしょうが(予算的に尺が短いという可能性も)、邦画のアクション大作としての独自性は十分以上あると思いますよ。

↓以下、ネタバレ含む。








そりゃアニメ版のスピード感には遠く及ばないけど、それでも立体起動装置は思ったより良いです。 思ったよりと言うのは、それを使う場面が想像以上に少ないため「物足りない」と思っちゃうんですよ。エレンが散々焦らしてついに飛ぶシーンはとても良いんだけど、ハンジなどは指導する立場なのだからもっと飛んで欲しかったし、サシャも弓射ってる場合じゃないよ飛ぼうよ。皆で一斉に飛ぶというアガるシーンが逃げるところだけというのも寂しい。あとミカサらが上方へ飛んでいく姿を真後ろから映すカットはちょっとマヌケだったりして、もう少し丁寧に描いて欲しかった。それから調査兵団ではなく壁の修理要員という設定もあるかもですが、団員たちがいまいち強そうに見えないし、チーム感も薄いんですよね。せっかくアクション出来る面子を揃えているのにそれを披露する機会がないというのもありますが。武田梨奈なんて一応車内で格闘はするものの、あれだけでは無駄使いと言われてもしょうがない。巨人を倒すには立体起動装置しかないと言ってるのに弓矢や斧を使うのもちぐはぐだし、巨人を背負い投げってのは巨人は意外と軽いという設定があるんだっけ?その台詞を一言入れておけば「そんなバカな」にならずに済むのに。シキシマもミカサも思いの外戦う場面は少なく、特にシキシマは裏があるからかもしれませんが目の前で仲間を見殺しにしすぎです。巨人と戦うことによるスペクタクルが足りないわりにはエレンとジャンの争いには必要以上に時間を取ったりしてて。なんで乳首で口論してるの?乳首男爵が怒るよ?

舞台をヨーロッパ調の街並みではなく軍艦島でのロケによる廃墟にしたのはキャストが日本人ということもあるし正しい選択でしょう。この廃墟を戦いの場にし、厳しい生活の果て家族と別れての兵役で、若い命が次々と散っていく、というのを見ると、これはもう戦争映画なんですね。性的ニュアンスを盛り込むのも、死地の中で生を際立たせるためと考えれば理解できます。あまりそういう見かたをすると「心臓を捧げよ!」という本来高揚すべき台詞も軍国主義のスローガンみたいに思えてきてちょっとげんなりするんですが……。それでも人類のためという大義名分はあるのに戦う理由は各個人によって違ってくるのもそれを強調しています。

特にエレンの「戦う理由」の変遷はキモですね。原作のように「母親を目の前で巨人に食われた」の方が巨人に対する憎しみは圧倒的に強いとは思いますが、それを敢えて「好きな娘を失った」ことを原動力にさせ、かつ実は生きていたものの他の男との関係を匂わせることで再び失うというように改変したことで、エレンは戦う理由を見失ってしまうんですね。しかもその恋敵は上官な上に大人の男で「お前は狼か家畜か」とプライドを揺さぶるように煽ってくる。さらに水崎綾女に言い寄られる場面は性=生を感じるべき場面ですが(だから彼女の尻と乳が必要以上にインパクトあるのは良いのです)そんな性的場面まで死に直面するカタストロフィにすり変えられてしまう。序盤で壁の外なり内地の都会なり、とにかく外の世界に飛び出したいと言っていたエレンの若さは、巨人を防ぐ壁とはまた違う壁によって阻まれ、ぶつけようのない怒りは世界そのものに対しての鬱憤となってはち切れんばかりなわけです。もう敵地真っ只中でも叫ぶしかない。でも何一つ解決しない。アイデンティティまで揺らぐ。挙げ句手足を失い、行き着く先は死の充満した巨人の胃袋。だから「世界は残酷」。そう考えるとエレンの「駆逐してやる」という言葉には「巨人を」という目的語が欠けているんですね。

だからエレンという一人の青年の溜まりに溜まったフラストレーションが一気に爆発するクライマックスが痛快であるのは当然で、それはエレンが戦ってる相手がもはや巨人だけではなく自分を取り巻く世界そのものになっているからです。矮小な自身から一皮むけて(一皮どころではないけど)ブチ破って出てくるリボーンな場面は最高にアガるし、蹂躙される一方だった巨人をステゴロでブチ殺していく姿は、巨人化という現象に自己の肥大した暗黒面の解放まで投影しているかのようです。もうこれ、原作以上に明確にエレンの物語なんですね。あらゆるイニシエーションを経て爆発した青年の話ですよ。

一方でミカサについては謎が多すぎます。エレンがミカサを助けられなかったのは不可抗力なのにミカサが敵意剥き出しなのが謎だし、赤ん坊だけ食われてミカサは腹にちょっと噛み傷が付いただけで助かったのも謎だし、エレンたちがいまだ訓練生なのにミカサがいくら優秀とはいえ既に班長として活躍してる経緯も謎。シキシマとの関係をリンゴで表すというのはエロいというよりは野暮ったいし、エレンのマフラーを右手に巻いてるのでまだ思いはあるんでしょうが、うーん。巨人化エレンを助け出すときなぜかやるべきことを分かっているのも謎ですが、ピエール瀧まで「うなじを切れ」とか言い出すのでこれは何か彼女たちだけが知っていることがあるのかもしれません。と言うか瀧は巨人役じゃなかったんだね!

謎と言えば巨人に関しても色々謎を残したまま前編は終わりますが、最も解せないのは赤ん坊型の巨人ですね。「え?」という感じです。ひょっとして巨人も成長するという要素があったりするんでしょうか?なんか普通に泣いたりするので巨人としては異質。巨人はあまり騒ぎ立てずに淡々と人を食っていく印象だしその方が怖いので、やたら唸り声を出したり笑い声を上げたりするのは余計だと思うんですけどね。水崎綾女が命令に従わず赤ん坊の泣き声にフラフラと引き寄せられるのもいくら何でもアレだし。それに女型の巨人も普通に巨人集団のなかで歩いているので、原作に出るような特別な女型は出ないのかな?というか巨人が歩き回ってるさ中でいきなりエロいこと始めるバカップルなんなの?そしてそれが丸見えの位置にいるままのエレンたちなんなの?あとシキシマの「本当の敵は安全」という意味深な言葉はなんなの?ちゃんと意味あるの?機械文明やら爆薬泥棒やら色々出てきますが、そもそもそういう伏線だの謎だの後編で全部回収できるの?

……ちょっと取り乱しました。後編は前編よりも尺が短いし申し送り事項も多いので非常に不安は残るんですが、さらなる謎が明かされたときエレンは一体どうなるのか、彼にとって世界はどう変容するのか。前編の出来からすれば特撮アクションは期待できるので、後編には多少の不満は覚悟するから納得できる収束か終末を見せて「こんなのはじめてぇぇッ!」と言わせてほしいところです。

スポンサーサイト
トラックバックURL
http://cinemaisland.blog77.fc2.com/tb.php/957-30c9456f
トラックバック
back-to-top