2015
08.05

与えよう、殺しの許可を。『パージ』感想。

The_Purge
The Purge / 2013年 アメリカ / 監督:ジェームズ・デモナコ

あらすじ
ALS○Kが儲かりそうです。



安全維持のため政府が定めた「1年に一晩、12時間だけ殺人を含む全ての犯罪が合法になる」という法律「パージ」。ジェームズは妻と子供二人と共にパージの夜を完全セキュリティの家でやり過ごすはずだったが……イーサン・ホーク主演のサスペンス・スリラー。製作の一人にマイケル・ベイがクレジットされてますが、派手な爆発などはありません、一応。

「12時間だけ殺人さえも合法になる日」という設定はかなり無理があるとは思うんですよ。しかしながらそれが世間に浸透しているというのを印象付ける手腕や、細かいところを展開の早さで押し通す力技がなかなかのもので、ついつい見入ってしまいます。また舞台となる一軒家という閉鎖空間での想像できる一通りのスリルをブチ込み、かつ意外性もあって良いです。特に二つの事件が同時に始まるのはスリリング。合法だから殺人の是非は問わないのかと思ったらちゃんとその辺りの人道的側面も入れてきてて、意外と真っ当です。

ただ複数のドラマが同時進行しているはずが片一方が置いてけぼりになり、それが急に戻って来るのはちょっと気になります。あと顔のアップが多すぎる画作り。観る者の視界を限定するための敢えての演出なのかな?という気もしますが、ちょっと顔面率が高すぎる気もします。でもまあイーサン・ホークが胡散臭いながらも戦う父ちゃんとしてちゃんと魅せてくれるので良しとしましょう。あと奥さん役のレナ・ヘディは『300』『ジャッジ・ドレッド』での勇猛さが印象深いためオロオロする妻役としてちょっと引っかかりましたが、最後まで観たらなかなか良いキャスティングでした。息子が関暁夫にしか見えないのには参りましたが……。

殺人が合法なら人はどう行動するのか、シチュエーション・スリラーの系譜ながら人の闇を描く心理サスペンスとしてもなかなか面白いです。狂気と狂気の交錯の行方、そして「新たな建国の父」というおぼろげな背景の不穏さ。既に続編が公開されているので続けざまに観てみたいところです。

↓以下、ネタバレ含む。








一晩の野生の解放だけで犯罪率は減り、経済も上向きになっているというのはいくらなんでも、と思いますが、そういった設定自体はSF的で悪くないかな。パージが始まるに至った経緯や背景というものはほとんど語られず、その夜は警察や消防などの救急サービスもすべて停止となり、人々はにこやかに「安全を!」と挨拶を交わす。この殺し合いが「当たり前」となっている世界はひとつの狂気の体現であり、それがどう崩れていくかというのが良いですね。パージに懐疑的な息子により悲劇が始まるというのは皮肉ですが、その息子の行動が観る者が当然思う疑問の答えとなって物語に入り込む余地を作り、かつ物語の推進にもなる。息子が黒人の男を助けたのは間違いだったのか?おとなしくやり過ごすべきだったのではないのか?という人道的な揺さぶりをかけることに成功しています。

主人公のジェームズ・サンディンが人を蹴落とす成金なのか真っ当な神経の持ち主なのかが微妙にハッキリしないため、家族を危険にさらしてまで戦おうとするのはちょっと違和感がなくもないですが、演出的に物足りないところはイーサン・ホークの演技が上手くカバーしてくれるのでそこまで悪くはないです。一旦は暴力の脅威に屈しクズどもと同じことをしそうになりながらギリギリで立て直す父の姿は、悲しい結末とはなるものの理不尽な暴力への対抗として熱くなれるものだし、世間のパージへの信奉に逆らってまで追われる男を助けたことが結果的に家族を守ることを成し遂げます。

息子のラジコンがもっと役に立つのかと思ったらそうでもないとか、彼氏を殺された娘の父への心境が怒りか後悔かがしばらくハッキリしないとか、解除したら全てのドアや窓が開いちゃうセキュリティシステムの使い勝手の悪さとか、ちょいちょい粗いところはあります。そもそも人を殺すことで社会が安定するというのは懐疑的にならざるをえないし、ご近所で殺しあったらその後の気まずさが半端ないし、殺せないと言ったわりに奥さん傷口グリグリしすぎじゃない?とも思います。とは言えひとつの密室劇としては見るものがあるし、ご近所の嫉妬心も身近にあるダークサイドとして理解できるものになっているんじゃないでしょうか。

パージ=「粛清」という意味であることを考えると、そこに選民思想や新たな道徳感が生まれる危うさを感じます。優秀でまともだと言い張る若者たちが心底パージを楽しむ姿の恐ろしさ、気に入らない金持ちをこの機に葬り去ろうとする善良なはずのお隣さんの歪み。既に狂っているのかもしれない世界で、それでもその狂気に乗ることを拒否した奥さんが最後に見せる渾身の一撃、これに満足できたので良いのです。

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