2015
07.09

粛清は救済たりえるか。『悪党に粛清を』感想。

the_salvation
The Salvation / デンマーク・イギリス・南アフリカ

あらすじ
乗合い馬車には気を付けろ。



1870年代、デンマークからアメリカに渡って7年のジョンは故郷に置いてきた妻子をようやく呼び寄せるが、そこで悲劇に見舞われる。死ぬのは自分か奴らか。マッツ・ミケルセン主演、復讐の西部劇。

荒野を吹きすさぶ風の音も荒々しい西部の田舎街。街にいるのは市長やシェリフも逆らえない横暴な権力者。罪なき人が見せしめに殺される世界で、町外れに住む銃の腕が立つ兄弟がその矢面に立たされます。殺すだけの理由はあるのに正当な裁きなどない。罪とは何か、法とは何かを暗に問いながら、泣き寝入りをするのか追われることになっても引き金を引くのかを迫られます。一方で権力者の元にいる一人の女性マデリンがどう動くのかもキモとなってきます。

主人公のジョンを演じるのはマッツ・ミケルセン。口数少なくあまり表情を変えないだけに、苦悶の演技が胸を締め付けます。序盤の展開はかなり嫌な気分を味わうし、馬車を追って走るときの絶望感が凄まじい。それだけに終盤はもう「やったれ!」って感じですよ。姫と呼ばれる悪党の嫁マデリン役のエヴァ・グリーンは原住民に舌を切り取られたという凄惨な設定のために一言も喋りませんが、代わりにあの大きな目だけで心情を語るのは凄い。口に付いた切り傷も印象的(あとおっぱいも)。悪役としての存在感が見事なクズ野郎、デラルー大佐を演じるのは『ウォッチメン』のコメディアンを演じたジェフリー・ディーン・モーガン、弟思いのワイルドな紳士、ジョンの兄ピーターは『ホビット 竜に奪われた王国』のビヨルン役ミカエル・パーシュブラントでした。

若干説明不足なところはあるけど、そこは想像力を刺激してくるところでもあります。復讐の理由となる描写が丁寧すぎてカタルシスよりいたたまれなさのほうが残るけど、搾取する者の横暴と虐げられる者の歪みをタイトな尺に無駄なく詰め込んでいます。

↓以下、ネタバレ含む。








この街ではシェリフが牧師、市長が葬儀屋を兼ねてます。牧師でありながら人を死に追いやり、葬儀屋でありながら埋葬する人を自ら増やす。建前としての役職、本音としての職業。これはデラルー大佐もそうで、建前は街の用心棒として弟を殺された兄として犯人を見つけろと言いつつ、これを機に恐怖を見せつけすぐさま用心棒代のアップに繋げる計算高さを見せます。弟の嫁とやっと結ばれた感を出しても、その実は手込めにしただけ。街のために力を尽くすという顔をしていた市長はデラルーと結託しており、縛られたジョンのブーツを平気な顔で奪っていくし、シェリフは「デラルーはいい奴だったが原住民を殺しすぎておかしくなった」と自分に言い聞かせている。欺瞞に満ちた人々が徐々に本当の姿をさらけ出していきます。

ジョンとピーターの兄弟は実際何の仕事をしてるのかはよく分かりませんが、街の人とは顔馴染みではあるようです。しかし元軍人ということで銃の腕は立つものの、デラルーが街にのさばっていることからも恐らく街の実情は知りながら見て見ぬふりをしてきたのでしょう。それが結果として再開したばかりの妻子を失い、その復讐を果たすものの犯罪者として捕まることになります。兄の助けで逃げれたはいいけど、その兄もデラルー一派に捕まり殺されてしまう。自分たちが口を出すことではないという建前のために全てを失ってしまいます。あとはもう恨みを晴らしたいという本心のみが残り、それが悪党への復讐という形で表出します。

クライマックスは地べたに這いつくばっての銃撃、屋根からの狙い撃ちなど緊迫感を持って魅せてくれますが、終わってから感じるのは爽快感というより侘しさ。ジョンは正義感や義憤から悪党を粛清したわけではないし、雑貨屋少年はあっけなく命を落とす。何も得たものはないのです。シェリフに至っては全てが終わった後に来て「いつか君のような者が現れることを望んでいた。よくやってくれた」とぬかしやがります。「これで善人しかいなくなった」と言うシェリフですが、悪人と卑怯者が死んだあと街に残っているのは臆病者だけです。そして裏で町を手に入れようとしている者たちも変わらず存在しており、そのうち新たなデラルーが現れて臆病者はまた怯えて過ごすことになるのでしょう。ラストになって姿を現す巨大な石油採掘場はその象徴に感じられます。

ジョンも雑貨屋の少年もそこに至る動機は報復であり、全てを失った後の行動ですが、そう考えると現状を打破しようと行動した者はマデリンだけです。家にいる者を皆殺しにして逃走しようとするし、ジョンが乗り込んできたときも機を見て男たちを撃ち殺していく。原題の『The Salvation』は「救済」という意味ですが、救われたのは誰かと言えばマデリンでしょう。あるいは、マデリンの撃った弾でデラルーが膝を付きジョンがトドメを差したことを思えば、マデリンがジョンに救済を与えたと見ることもできます。ジョンがマデリンと一緒に去っていくのも、彼女に救われたからというのが理由なのかもしれません。
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