2015
06.25

変わりながら、受け継ぎながら。『海街diary』感想。

umimachi_diary
2015年 日本 / 監督:是枝裕和

あらすじ
鎌倉に住みたくなります。



幸、佳乃、千佳の姉妹は15年前に鎌倉の家を出ていった父の葬儀で山形に行き、そこで出会った14歳の異母妹すずを家に迎えることにする。四人姉妹の生活を通して家族の絆を描く、吉田秋生のコミックを是枝裕和監督が実写映画化(原作は最初の方チラッと見ただけなので言及してません)。良いです。とても良いです。

大雑把に言えば新たに出会った妹との絆を深めていく家族の話ですが、心暖まるだけの物語ではないんです。最も顕著なのは「別れ」を描いているということではないでしょうか。死別に別離に破局、人生は別れに満ちていて、でもいなくなった人とも繋がりはあったし、その繋がりがあって今の自分がいる。何よりそんな別れを補って余りある「出会い」がある。それは日常のちょっとしたやり取りが実はとても大きく愛しいものだと教えてくれるんですね。だから大きな事件はなく日常的なエピソードの積み重ねに見えるけど、実はそんな些細なことが十分大きな事件だとも言えます。「別れ」も「出会い」も均等に描き、その中で受け継がれるものをちゃんと描く、だから暖かいんですよ。

四姉妹はみんな本当に素晴らしいです。しっかりしながら色々抱え込んでしまう長女・幸役の綾瀬はるか、奔放でちょっとエロい次女・佳乃役の長澤まさみ、のんびりした変わり者の三女・千佳役の夏帆、そしてとても良い子だけど複雑な立場の四女・すず役の広瀬すず。この姉妹が色んな人と接しつつ仕事や学業の中で直面する様々な出来事を経験しながら、日々を営んでいきます。性格も考え方も違うし、それぞれが父に思うところも微妙に違うんだけど、観てるうちに顔立ちまでよく似た姉妹に見えてくるというのが不思議。特にポテンシャルという点では広瀬すずは実に良いです。遠慮がちだったり明るく笑ったりサッカー上手かったり本当に魅力的。あんな子が自分のクラスに転校してきたら学園ラブストーリーが始まる予感がビンビンしちゃいますね。堤真一、加瀬亮、鈴木亮平、リリー・フランキー、風吹ジュン、樹木希林、大竹しのぶといった脇を固める芸達者たちもうまくハマっています。特に大竹しのぶのイラつかせ具合ね。

色々な語り口があるし、菅野よう子の主張しすぎない音楽をこれ以上ないタイミングで流してくるのにもやられます。とにかくもう四姉妹が愛しくてですね、四人が揃って映るシーンはずっと泣きそうになりながら観てました。何だろうこの感情。ゆったりたゆたうようなカメラワークもあって、いつの間にか亡くなった父親の目線で見てしまったのかもしれません。ああもう大好きだ。何度でも観たい。

↓以下、ネタバレ含む。








予想外に長くなってしまったので章立てにしました。

◆四姉妹と父

綾瀬はるかの演じる長女の幸は、父の葬儀ですずに挨拶をさせようとする者に「それは大人の仕事です」とキッパリ言う正しさに見るように、常に大人として振る舞います。しかししっかりお姉さんな姿は、その裏に家を支えるため10代の日々を捨てたことも見え隠れしており、それは堤真一演じる恋人が指摘する通りなのでしょう。だから葬儀の場で健気に振る舞うすずを引き取るのも、佳乃の言うとおり母親への当てつけがあったとしても、幸が自分を重ねて見てすずの苦しみが分かるから、いう方が大きい気がします。一方で「奥さんのいる人」と関係を持っており(正確には別居中ですが)、「優しいけどダメな人」に依存している。正しさの中に歪さが見える、拒否しているはずの父親を心のどこかでは求めているという矛盾が幸にはあります。綾瀬はるかが時折かすかに見せる戸惑いの表情がとてもイイ。

長澤まさみの足!寝姿!ブラ姿!投げキッス!とエロス爆発の後でタイトルという、予想外にもほどがあるオープニング(最高)が象徴するように、長澤まさみの演じる次女の佳乃は姉に比べてかなり正直で奔放です。仕事で昇進しても「これ!買ったんですよ!これも!」とはしゃいじゃったりする(カワイイ)。でも正反対に見えながら幸のことを一番よく分かってるのが佳乃なんですよね。千佳が「いざとなったらあの二人結束するから」と言うし、しょっちゅう口喧嘩するわりにはやり取りは阿吽の呼吸。特に佳乃が酒の勢いで「ちょっと仕事のことで相談が~」と来るシーンでは、姉を思っているからこそ怒ったり放っておけなかったりといった関係性が見えます。ここでの長澤まさみの細かい目線や表情の動きがスゴくイイ。幸のシャツを佳乃が着た時に「ババくさい?」と言う佳乃に「もっとチャラチャラしたの着なさいよ」と返す幸、というシーンも好き。父親についてはよくも悪くもドライですが、幸に対し「そんな男お父さんと同じじゃん」と吐き捨てるあたり思うところはあるようです。ちなみにラストの砂浜でさりげなく樹木希林のモノマネをしてる?

一番つかみにくいのが夏帆の演じる三女の千佳ですが、この子は趣味が変わってるだけで一番素直なんでしょうね。「シャッシャッ」とか「プスップスッ」とか擬音を言うことが多いのも物事をそのまま表現してしまうという感じがします。ただ、早くから親と別れたり姉たちの喧嘩を見たりしてきた千佳は寂しい思いをすることも多かったんでしょう、それだけに極力争い事は避けたいという思いがあるんじゃないでしょうか。姉たちが言い争っているときに「お腹へったー」とあからさまに話をそらそうとする姿などは涙ぐましいです。趣味が釣りというのも周りに気を使わず一人になれる安心感かも。彼氏がアフロ(ほとんどマリモですが)というのも見た目ではなく安心感が大事ということなのでしょう。生死をさ迷った山登りに未練がありそうな彼を「じゃあ釣りに行こうよ」と別のことで気を引こうとする姿がこれまた涙ぐましい。父親のことはあまり覚えてないと言いますが、一緒に水族館に行ったというピンポイントの楽しい思い出があるだけに父親に対する憧れのようなものは強そうです。すずから父が自分と同じようによく釣りをしていたと聞いたときの凄く嬉しそうな表情、この笑顔だけでも夏帆は十分イイです。

そして四女となる腹違いの妹すずは、複雑な家庭環境からくる多少遠慮がちな感じが、序盤の佳乃と千佳を駅に迎えに来るところから滲み出てます。幸に父を看取ったことで礼を言われ静かに流す涙には色々な思いが籠ってますね。だからあんなお姉さんたちが微笑みながら「うちに来ない?」と言ってくれれば、そりゃ即答もするし両手を振りながら電車を見送りますよ。あのシーンはすずを誘う幸の言葉に佳乃と千佳が一瞬戸惑いながらもすぐに笑顔になる、というのが凄くイイ。やがて香田家に引き取られ本来の明るさを徐々に見せていったり、意外とサッカー上手くて活動的だったりと色んな面が出せるようになってきます。それでもすずの父親に対する思いは複雑なものでしょう。「奥さんがいる人を好きになるなんて」と幸に言うシーンは香田姉妹に対する罪悪感のようなものを感じさせます(これは幸の現状を責める言葉にもなってしまいますが……)。それでも直近まで一緒にいただけに、父と姉たちを繋ぐ位置付にもなっています。


◆すずと海街の人々

すずは物語の軸であり、同名の役を演じる広瀬すずはその点パーフェクトと言っていいでしょう。誰もが同意するであろう桜のトンネルを走るシーンの表情の良さ。あそこで髪に付いた桜の花びらにカメラが注意を向ける瞬間があって、偶然かもしれないけどなんかいいんですよ。あと四姉妹で唯一入浴シーンまであったり、バスタオル全開のシーンでは「庭の梅の木になりたい」と思わずにはいられ……じゃなくて、幸に怒られるすずが嬉しそうなのが微笑ましい。姉たちが言い争ってるときに何をしてるかと思えば腹筋してたりとか。あと洗濯物の姉のブラジャーを見てボソッと「おっきいな」と言うシーンは綾瀬はるかか長澤まさみのおっぱいを想像させてくれてグッジョブと言うほかありません。

すずは一人だけ腹違いですが、それで区別されるようなことはほとんどないし、かと言って甘やかされたりもしません。最初は気を使い合ったりもしますが、やがて本当の姉妹のように打ち解けてくる。姉の呼び方もよっちゃんになり、チカちゃんになり、シャチねえになる。だからそんな四人が揃っているところを見ると、それだけで幸福感が溢れてきて泣けてくるんですよ。四人が集まるシーンはどれも良いんですが、特に浴衣シーンですね。みんなで浴衣を引っ張り出して匂いを嗅いだりしてるのも微笑ましいのに、帰ってきたすずを三人が浴衣で迎えて一緒に花火をするとかどんだけ仲良しなんだ!と泣けます。

すずと二人きりのシーンが姉妹みんなにあって、それぞれが父や母のことを思い出させるというのも良いです。すずと佳乃のペディキュアを塗るくだりでは佳乃の母との思い出、千佳はちくわカレーを食べながらすずから父のことを聞き、幸はすずと梅酒を飲みながら過去に思いを馳せます。

他の登場人物もその場に息づいている感じがとても良いです。風吹ジュンの「海猫屋」のおばちゃんはいつも朗らかなのに、すずのことを「宝物」と言った後一瞬虚ろな表情をします。子供に恵まれなかったのかも、という彼女の背景が伺えます。おばちゃんと仲のいいリリー・フランキーの店名が「UMINEKO-TEI」なのも、見えてる以上の何か深い関係があるんじゃないかと思ったり。父の話を聞きたければこそっとおいで、という言葉からもリリーはすずたちの父親と知り合いだったようだし、しらすトーストをリクエストしたのも父親だったのかもしれないという繋がりも仄めかします。そこにはまた別の「海街diary」があったのかもしれません。また、男子中学生の鬱陶しさも特筆ものです。前田旺志郎(まえだまえだの弟)が演じる風太がさりげなく同じ靴の色違いを勧めるとか、すずを好きなのがバレバレなのがなんかもう見てられない……意を決して言う「浴衣、結構似合ってるよ」のあと思わず目線を落とす仕草とか初々しいですが、でもきっと「よし!言ってやったぜ!俺やったぜ!」とか思ってるに違いないんですよ。思わず「うちの子に手を出すんじゃない!」と言いそうになります。

◆継承と変化

全編に渡り見られるのが、色々と対になっているシーンが多いということですね。千佳が朝帰りの佳乃に言う「勉強になります」は佳乃が幸に仕事のことを聞くときに同じ事を言うし、すずと佳乃が急いで出かけるとき幸が言う「すべるから危ないわよ」は梅酒を取りに戻る幸に母親が同じ事を言う。佳乃が彼氏に家を「女子寮みたいなもの」と紹介し、すずは樹木希林の演じる大叔母に「女子寮の一番下っ端みたいなもんです」と言う。酔った勢いで「お父さんのバカ」と叫ぶすずと、山の上で同じ事を叫ぶ幸。色んな人が時間の流れを経て同じセリフを言うのは、それが直接見聞きしたものでなくても言い回しや気遣いが受け継がれていることを表しています。この「受け継がれる」ということが、時の流れの中にあって途切れない繋がりを感じさせてくれます。受け継がれるものとしては食べ物もそうで、カレーやしらす丼、アジフライなどが引き継がれていく。梅酒は特にそれが顕著で、最初は興味津々で見るだけだったすずが、濃いめ薄めや甘め酸っぱめまで自在にブレンドできるようになってるのには思わず感動を覚えます。

同じように対になっているシーンでも、受け継がれるものではなく変化を描くものもあります。少しズラした形にすることで成長や理解を見せるんですね。すずが風太に「ここにいていいのかな」と不安な心情をこぼすと、別の場面で幸が「ここにいていいんだよ」とすずを抱き締める。葬儀で三人並んだときに幸が父について言った「優しいけどダメな人」は、ラストで三人がまた同じように並んだときに「ダメだけど優しい人」に変わります。このシーンはフレームアウトしたすずを見ながら言っているわけで、すずが来たことが三人にとっても幸せな変化となったことを示していて特に素晴らしい。対比的な描写は継承だけではなく新たな発見をも感じさせてくれます。そういえば姿は見せないものの幸の後輩看護師アライさんも、最初は尿の量120リットルと書くようなおたんこナースだったのが、生きてるかのようなエンゼルケアをするようにまで成長していたりします。


◆終焉から始まる前進

劇中では葬儀や法事の場面が3回もありますが、これは死という「別れ」を描くと言うよりは「出会い」に関して描いているように感じました。父の葬儀では三姉妹とすずが出会い、祖母の七回忌では母と再会し、おばちゃんの葬儀ではそういった出会いを振り返る、というように。人生は別れに満ちています。父との死別、母との別離、男との別れ、親しい人の旅立ち。いなくなった人には言いたいことも伝えられません。幸が母親と二人で墓参りしたり梅酒を渡したりするシーンが響くのは、終焉の場で再開した親子が関係性を一歩進めることができたから。幸はまた、無意識に求めてしまった父親と同じような男性への依存を断ち切りますが、それもまた前へ進むための別れです。

ちなみに、序盤は特にそうですが、「アレ」という言葉が頻出します。佳乃の彼氏との会話や慌ただしい朝の食卓、幸が大叔母にすずのことを言われて返すとき、千佳とアフロがすずと風太の関係を邪推するとき。皆まで言わずとも察してもらうという意味では便利な言葉ですが、それは曖昧な誤魔化しの言葉とも言えます。しかしこの「アレ」は徐々に使われなくなってくる。どこか残っていたよそよそしさが薄れ、誤魔化す必要がなくなってきたからでしょう。これも前へ進んでいるからこその変化と言えます。

終わりはいつかやって来る。佳乃が言うように、あの姉妹もいつか家を出ていくときが来るのでしょう。それが分かっているからこそ、そこで受け継いできたことを大事にしている。変化はしていくけど継承もしていく、それが家族であると言ってもいいでしょう。すずがあの家に背丈を刻むことも、以前とは変わったすずが家族の証を継承したということ。海の見える街で過ごす日々は、ゆったり流れながらも前へと進んでいきます。同じ父を持つ四人が砂浜を歩くラストショットは、そんな彼女たちの前進を優しく見守る父親の目線のようにも思えるのです。

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