2015
06.18

逃げない自分が見る世界。『ソレダケ that's it』感想。

soredake_thats_it
2015年 日本 / 監督:石井岳龍

あらすじ
デストロイ!



戸籍を奪われ底辺で暮らす大黒砂真男は裏社会の調達屋から金を奪った際に個人情報の入ったハードディスクを見つける。これで勝負に出ようとする大黒だが遂に捕まってしまい……『狂い咲きサンダーロード』石井岳龍監督がロックバンド「bloodthirsty butchers」とのコラボ企画から発展させ完成させたロック映画。主演は染谷将太。

轟音の奔流と共に走り続ける冒頭から鷲掴みにされます。疾走感、というより爆走感。戸籍を失った青年はただ復讐のためだけに生き続け、乾いているのか湿っているのかも分からない世界で駆け出そうとするその姿はどうしようもなくドン底で投げやり。それを象徴するかのようなモノクロ映像に、生の証である血だけが赤く色付きます。強奪して捕まり、監禁され拷問され、それでも「逃げない自分」になるために立ち向かう。微かに灯る淡い希望も、銃弾と共にブチ壊していく。これは強烈。

死んだ目に時折激情を映す大黒役の染谷将太の存在感はさすがと言うしかないでしょう。能天気な明るさがウザイ恵比寿役の渋川清彦、お付きの女が羨ましい猪神役の村上淳もとてもいい味。千手役の綾野剛が一人大げさに芝居がかって見えるのもむしろ面白い。特筆は阿弥役の水野絵梨奈です。パンツ見せながらの熱演も素晴らしいですが、ぎゃあぎゃあ言い合った後の大黒に囁く「大丈夫だよ」が優しすぎてゾクゾクしました。

どこか異次元感を伴う映像に、体を掴まれて揺さぶられるような大音量の音楽。底辺の匂いと炸裂するバイオレンスに浸されながら、追われる者から追う者への決意のシフト。現実の厳しさを凌駕するまさかの熱い展開にシビれます。まさにロック。

↓以下、ネタバレ含む。








戸籍がない、ということはこの社会において何者でもないということです。大黒は自分を虐待し戸籍を売り払った父親をブッ殺す!と息巻いていますが、本当は殺したいわけではなく話をしたいのだ、というのが分かります。この心情は阿弥と過ごすなかで吐露しますが、阿弥の存在は大黒に多くのことを思い出させます。手にしたハードディスクを売り払うと言う大黒にそれは同じように戸籍を失う人がいると思い出させるし、夢にも思わなかった「違う人生」が存在する可能性も思い出させる。大黒は阿弥に決して優しい態度は取りませんが、それは彼が部屋を出入りする小さな窓のように入り口が狭いだけで、淡いながらも夢を見せてくれる女として受け入れています。自分に対する拷問は耐えても阿弥が爪をはがれる姿には折れるし、敵地に乗り込むときも阿弥のことは残そうとする。でも何者でもない「幽霊なんだ」という自覚があって、そこを打破するのが優先になってしまうんですね。

前半でモノクロだったのが突然カラーになる後半。現実ではないんだなとは思いましたが、本来の世界がモノクロで虚構の世界がカラーというのはここからが本番ということで俄然ヒートアップします。俺は生きている、逃げない自分になるという思いは現実では叶わない思いをやり遂げるパワーとなり、恵比寿と猪神まで取り込んでクライマックスまで駆け抜けます。親殺しの機会を奪った千手は兄でもあるわけですが、戸籍だけでなく忌むべき血縁をも断つことで自由になろうとするんですね。千手の拠点へ殴り込むときはランボーばりのカモフラ装備で、銃は手にガムテープでグルグル巻きにする。次々と現れる敵を二丁拳銃でガンガン倒していく。「デストロイヤー」というコミックのように荒唐無稽な鬼となって撃ちまくる。冒頭から見せていた大黒の全てを撃ち倒したい欲望がこれでもかと実現していきます。しかも恵比寿と猪神が助けにまで現れるという少年漫画展開。千手を倒し自分たちも死んでいくなか、最後に阿弥の手を取ろうとするシーンは絵に描いたようなドラマチック。

正直そこで終わってもいいくらいですが、ちゃんと現実に帰って来るからこそ、この物語が本当に言いたいことが見えてきます。手にした二丁拳銃は空想だったけど、その空想の銃が最後に火を放つ。逆らい続けた運命を遂にブチ殺す。夢想を現実に変えるのは逃げない思い、やり遂げるという強い意志だけ。ただそれだけ。そして最後は生き返った幽霊が己の目で再び現実を見ます。血を流すことでしか色付かなかった世界、しかしそこはもうモノクロの世界ではなくなっているのです。

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