2015
06.11

追い詰めろ、冷静に、大胆に。『誘拐の掟』感想。

yuukai_no_okite
A Walk Among the Tombstones / 2014年 アメリカ / 監督:スコット・フランク

あらすじ
殺したら、殺す。



1999年ニューヨーク、元刑事マット・スカダーの元に誘拐殺人事件の犯人を探してほしいという依頼が舞い込む。事件を追ううちに猟奇的な殺人犯の姿が見えてくるが、そこで新たな誘拐事件が起こる……ローレンス・ブロックのマット・スカダーシリーズ10作目『獣たちの墓』を原作とした、リーアム・ニーソン主演のクライム・サスペンス。

主演はリーアム・ニーソンですがアクション主体の映画ではありません。敢えて言うならサイコ・スリラーですが、しかしこれがシブい上に面白い!裏世界ゆえに警察に届けられない誘拐事件を追うはめになった探偵スカダーが僅かな手がかりを元に調査や聞き込みを続けるうち、事件は思わぬ拡がりを見せ、やがて狂気を宿した猟奇殺人犯へと近付いていきます。心理的な恐怖と緊張感は抜群。ダメ兄とキレ者弟の兄弟の結末や、事件に関係する墓守、あと病弱だがネットに詳しい黒人少年TJなど登場人物もなかなか奥深いです。特にスカダーと少年とのベタつかない距離感での交流が、観ていてとてもイイです。

リーアム・ニーソンが「過去に傷を持つタフな探偵」という役がすごく合ってるんですよ。探偵役ってやったことあったっけ?と思ったらこれが初めてとのこと。コートの襟を立て、鋭い観察眼を持ち、銃口を向けられても冷静に対処する、このハードボイルド。シビれます。前々から感じてたけど、リーアム・ニーソンに常に無双を求めるのは間違いだなというのを再認識しましたよ。セガールやステイサムとはまた別次元で語るべき存在感ですね。

誘拐の話と聞くとどうしても『96時間』を連想するし、ニューヨークを舞台としたアル中の男と聞くと『ラン・オールナイト』と被る気がしますが、どちらとも似てるようで全く違うというのが面白い。それでいて『ラン・オールナイト』のクズ息子役ボイド・ホルブルックとは再共演、しかも開始5分で出てくるんですが、あちらとはまた別のダメっぷりがグッドです。

スリリングな交渉、ここぞというときの銃撃戦、直接は見せないのに十分おぞましい残虐シーンも見応えあり。影のある印象的なショットの数々がノワールな雰囲気を醸し出し、重厚感あるハードボイルドな探偵ものとして新たな地平を拓いてみせてます。

↓以下、ネタバレ含む。








階段を降りるスカダーの画に横書き単語が縦に並ぶタイトルの出し方からイイです。オープニングで寝そべった女性のアップが続き、そのふんわりした感じに「ラブシーンの回想?」と思ったら徐々に殺される直前だというのが明かされる残虐性に震え、全体的に抑えた色使いの中でのひときわ鮮やかなコートの赤は、後に少女を襲う残酷な血の色へと繋がります。屋上のシーンで墓守が鳩を解き放ったりして何か企んでそうだなと思ったら予想に反してダイブする驚きとか、雨の中歩きながら銃を取り出すスカダーの後ろ姿のカッコよさ、闇に浮かび上がる犯人の恐怖などもイイ。長身のリーアム・ニーソンが歩く姿を、全身が映るように横から撮るのも案外新鮮。

凄惨な事件に関わるうちに、胸に鬱々としたものを抱えた人たちがその心情をあらわにしていきます。ダメ兄ピーターが息を引き取る間際に「愛していた」と言ったのは弟ケニーのことではなくその妻のことでしょうが、ケニーは自分のことだと思って「俺も愛してる」と言います。業に縛られながら最後に吐露する心情が泣けます。

また、子供を誤射する過去に苦しみ酒に溺れたスカダーは、銃を撃つとき断酒の会での12の誓いを一つずつ思い出していきます。銃撃戦のさなかにシーンを止めてまでその言葉を流すことで、彼が割りきれない過去を乗り越えて進むための規範を持ち、必死で己の罪と向き合いながら生きているのが分かります。原題にあるように「墓石の間を歩いて」いるようなものなんですね。TJが無邪気に拳銃の説明をするのを実践的に戒めるシーンにも、そんなスカダーの思いが滲んでいます。

そのTJも活きがってはいるものの、病気を抱え、苛められ、居場所がないわけです。そんななか出会ったスカダーが自身の抱える過去を冷静に明かし、さらわれた少女を救うため命を懸ける姿にTJは奮い立ちます。時はY2K問題に沸く1999年、「どうせ全て終わる」という諦念を見せるスカダーに、そんなことはないと食い付くTJにはまだ未来があるんですね。贖罪のため探偵業を続けるスカダーと、スカダーをヒーローとして絵に描くTJ。過去に生きる男と未来に生きる少年。二人が眠りに落ちる部屋の向こうには、等しく新たな一日が始まるNYの街。そんなラストショットがとても良いです。

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