2015
05.28

人と森とそこに在る命。『蟲師 特別編「鈴の雫」』

mushishi_suzu
2015年 日本 / 監督:長濱博史

あらすじ
いつしか総じて「蟲」と呼んだ。



人に妖しい影響を与えたり不可思議な現象を引き起こす、動物でも植物でもない異形の存在「蟲」。そんな蟲と人の間をつなぐ「蟲師」であるギンコが、旅の途上で出会う様々な物語。漆原友紀の原作コミックをアニメ化した『蟲師』、その特別編。

『蟲師』『蟲師 続章』と二度に渡りテレビアニメ化されたシリーズ、その集大成と言って良いでしょう。テレビサイズで言えば前後編が2本となる「棘(おどろ)のみち」「鈴の雫」の二本立て。蟲師そのものと、彼らが関わる理(ことわり)に大きく関係するエピソードは劇場で観るに相応しいスケール。特に後者は原作の最終話でもあるんですね。

『蟲師』は江戸と明治の間くらいの架空の時代を背景としています。登場人物は全員和装なので時代性を感じますが、これは自然の中にうつろう人智を越えた存在を描くのにちょうどいいんでしょうね。そのなかでギンコだけが現代的な服装、白髪に片目の隠れた姿で異彩を放ちます。基本1話完結で、舞台は村や山などの自然と共に暮らす場所が多く、心温まるものからシビアなものまで多くのエピソードがあり、全てに蟲とギンコが絡みます。独特の世界観と静謐な雰囲気、異形の蟲のビジュアル、蟲を通して描かれる人間ドラマと深い余韻にハマります。かつて大友克洋監督により実写化されたこともありました(ギンコ役はオダギリジョーでした)。

そしてこの特別編、「およそ遠しとされしもの」から始まるお馴染みのオープニングで一気にあの世界に連れていかれます。「宿命」に縛られた二つの物語、共通して描かれるのはその縛られた役割故のやるせなさと儚さ、山の豊かさと恐ろしさ、そして周囲の人々の想い。実際に山の中にいるような臨場感ある音響も素晴らしく「激しさを伴う静けさ」というものを実感できます。あのギンコが珍しい蟲見て「うおっ」て興奮するのが笑えたりもします。シリーズ未見でもおそらく大丈夫だろうし、シリーズを観てきた者にはこれ以上ないご褒美。良いです。

↓以下、各話について。内容に触れます。








●「棘(おどろ)のみち」

ギンコ以外の蟲師が登場、しかも由緒ある一族の者らしいです。他の蟲師仲間はあまり出てこないので珍しいですが、これがなかなかに凄まじい。蟲を操る以上のえげつなさ、その血脈に宿るやるせなさが語られます。長き時間をかけて人が行った残酷な慣習、しかしそれも仕える主を守りたいからこそという葛藤。

光酒(こうき)から作った人口の魂が「私が死んでも代わりはいるもの」とばかりに何の感慨もなく再び宿るのは物悲しい。それでも美しい風景を美しいと微かに感じることで、魂の残滓はあるかもしれないという僅かな期待で幕を閉じるのです。狩房家の娘、淡幽が再登場してくれます。

●「鈴の雫」

山の主とはその山のあらゆる生命を見てバランスを保つ存在。本来は山の動物がそれを担う役割に選ばれますが、これが人間だったらという話。山の主に選ばれた者は体から草が生えるということで、頭から草の生えたカヤは髪を編み込んでるようでビジュアル的に他の登場人物にはないエキセントリックさがあります。山の主は別エピソードで亀の姿で出てきたことがありましたが、確かにあれも草が生えてました。

そんなカヤを思う兄と、里心を抱いてしまうカヤ。超越した存在でも人であるからこそ人との繋がりを思い出してしまう。しかしそれは山の理にとっては不要なものとして処分される運命。この局面を救えるのはギンコだけだったわけですね。山と命と理、そこを渡るように生きる蟲師の運命まで描いた、まさに最後に相応しい名エピソード。鈴が鳴り響いて主の誕生を告げる、という美しい映像も見もの。最後に映った鹿が新たな主なのかな?

そしてエンドロール後にギンコが最後につぶやく「さて、行くかね」には、これからも『蟲師』の物語が続くことを期待せずにいられませんね。

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