2015
04.28

時代は巡るがラリっていこうぜ。『インヒアレント・ヴァイス』感想。

Inherent_Vice
Inherent Vice / 2014年 アメリカ / 監督:ポール・トーマス・アンダーソン

あらすじ
モット!パヌケーク!



元カノに「今カレが愛人とその情夫に精神病院に入れられそうだから何とかしてほしい」と頼まれるヒッピー探偵ドクの活躍を描くミステリー。トマス・ピンチョン作『LAヴァイス』を、監督ポール・トーマス・アンダーソン、主演ホアキン・フェニックスの『ザ・マスター』コンビが再び組んでの映画化。

70年代LAを舞台にしたダメ探偵のハードボイルドという雰囲気で、これがジワジワきます。予告では全編コメディみたいな見せ方をしてましたが、実際はそれほどでもなくて、ユーモア含んだサスペンス・ドラマという感じでしょうか。それでも他のPTA作品よりはかなり笑い増しではありますかね。怒濤のもみあげがウルヴァリンのようなホアキン・フェニックスが、流されながらも奮闘する探偵ドク役をグルーヴィに演じます。刑事であり役者でもあるビッグフット役のジョシュ・ブローリンも相当面白い。モット!パヌケーク!ハイ!ハイ!

内容はですね、とにかく非常に分かりにくいです。登場人物が多く、会話に名前が出た人物が後で唐突に出てきたりしてその関係性が把握しにくいんですよね。当初の目的がどこか行っちゃうため、一体何が言いたかったのかもよく分からない。また、つらつらと続く会話劇が多いため、若干寝不足もあって正直前半は少し眠気に襲われました。でも安心してください、中盤のおっぱいシーンで覚醒するから!

シュールでドラッギーで時にヴィヴィッドです。

↓以下、ネタバレ含む。








ジョシュ・ブローリンの「ハイ!ハイ!」とか指スポスポとかしつこくて笑います。写真を見て叫ぶドクとか何なの、バカなの?(爆笑した)そんな笑いも多々あれど、全体像は非常に掴みにくいです。ドクとビッグフットの物語と見れば色々納得できるかとも思ったけど、どうもそれだけじゃないんですよね。これは原作読まないと理解できないのかなと思いきや、原作も分かりにくいらしい。ピンチョンは名前くらいは知ってるものの読んだことがないので、その点解釈は浅いと思いますがご容赦を。

元カノのシャスタから恋人のミッキー・ウルフマンを救ってほしいという依頼の他に、刑務所で一緒だったグレンという男を探して欲しいと言う男、死んだはずのミュージシャンの夫コーイを探してくれと言う女性、と複数の捜査が並行します。グレンはウルフマンのボディガードで、コーイは失踪したウルフマンを見たと言い、少しずつ繋がっていくんですね。やがて最初に依頼してきたウルフマンと共に姿を消していたシャスタが突然現れたり、ウルフマンを軟禁しコーイを操っていた黒幕の存在が明らかになり、さらにその黒幕はビッグフットの相棒を殺した奴でもあったわけです。ドクは黒幕のところに乗り込み、後から来たビッグフットと奪ったヤクを分け合い、コーイを家族の元へ帰して、最後はシャスタとどこかへ旅立っていきます。人物はもっと出てくるけど大まかに言えばそういう話。

ドクは物語上出てくる全ての人物と絡みます。しかしそこにあるのは裏切り、騙し、諦め、投げやりといったネガティブな関係性が多いですね。それをダ・ヴィンチの「最後の晩餐」に似せたショットで見せるのも面白い。どんよりした雰囲気にならないのはコミカルなシーンが多いからですが、セックス、ドラッグ、ミュージックで彩るノスタルジックで心惹かれる70年代ポップ・カルチャーの画作りも大きい。きらびやかなネオンサインやラリってる人々の気だるい空気、突然女同士で始めるプレイ。そんな時代性を映した映像が一種別の世界に放り込まれたようなファンタジー性を感じさせます。

でもこの徹底した70年代の描写は同時にどこか閉塞的にも感じるんですよ。チャールズ・マンソン事件のきな臭さとかベトナム戦争の泥沼化とか経済危機とか、何となく時代の過渡期を思わせる背景。そんな時代の閉塞感と、(繋がりの多さという意味で)狭い範囲で閉じる事件が重なって感じられる気がします。そうなると複数方向に絡み合いながらそれでも解決を見た事件の話は、時代の転換期というものを匂わせているように思えるのです。

それを強く感じるのがラスト、ドアを蹴破ってきたビッグフットが「葉っぱを紙で巻くのに忙しいのか」と言ったあと二人が同時に謝るのは、それまでの争いの歴史の終わりと和解を思わせるし、さらに葉っぱバリバリ食ってしまうビッグフットにはドラッグ文化との決別を感じます。常にラリって流されてきたドクは、ヒッピー時代の象徴であるマリファナを食ってしまうというビッグフットの痛烈な行動を見て涙します。変わっていかなきゃいけない現実がすぐそこに来ている。スパイとして働いていたコーイは家庭に帰った。お前はどうする?ひとつの事件の終わりがひとつの時代の終わりを示します。そりゃ泣くでしょう、その時代に生きてるんだから。

冒頭の建物の合間から見える海の風景、あれがもうすぐ開く新たな時代の象徴に感じられます。この風景は終盤にも出てきますね。 占い師の女性がモノローグを語るのも「未来の運命」を示唆しているかのようです。最後、自らを「内在する欠陥(インヒアレント・ヴァイス)」と呼ぶシャスタを連れて旅立つドクはそれでも「ヨリを戻すわけじゃない」とうそぶきます。何と「ヨリを戻す」のか。それは時代が変わっても先なんて分からないということなのか。あるいは例え欠陥を抱えていても自分は変わらないぜという時代への挑戦なのか。カメラに視線を向けるドクのラストショットには後者の思いを感じるのです。


LAヴァイス (Thomas Pynchon Complete Collection)LAヴァイス (Thomas Pynchon Complete Collection)
(2012/04)
トマス ピンチョン

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