2015
03.22

その理論は特異点を超えて。『博士と彼女のセオリー』感想。

The_Theory_of_Everything
The Theory of Everything / 2014年 イギリス / 監督:ジェームズ・マーシュ

あらすじ
白シャツはブラックライトで光ります。



ALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病と闘いながら現代宇宙論に多大な影響を与えた天才科学者スティーヴン・ホーキング、その半生と妻ジェーンとの関係を描くヒューマン・ドラマ。主演のエディ・レッドメインは第87回アカデミー主演男優賞を受賞。

難病ものはあまり得意じゃない方だけど、これは良かったです。最初こそラブラブ具合に「さっさとチューしろー」とか思ってたけど、病に侵されていく過程やそれに基づくやるせなさ、当事者や周囲の綺麗事だけじゃ済まされない状況というのはちゃんと描きつつ、それでも共に歩むとはどういうことかというのを「時間」というスティーヴンの研究テーマになぞらえて映します。思いやりと屈辱の間で揺れるスティーヴンと、揺れながらも決意をもって生きるジェーンの姿には好感を持ちます。

学術的なところは話の根幹に関わる必要最低限の大雑把なものでさほど難解ではない(と思う)けど、ブラックホールや特異点、量子論と相対性理論などのキーワードが出てくると、学問探求の話であるのとは裏腹にロマンを感じてしまいます。でもホーキング博士もSF好きで『新スタートレック』に出演したこともあるそうなので、まあいいんじゃないでしょうか。学問の内容はかなり平易な表現に置き換えられていると思われることからも、天才物理学者ホーキング博士を描くと言うよりはスティーヴンという人間を描く方向性なのは明らかであり、そこは意見が分かれるところかも。

エディ・レッドメインはこれでアカデミー主演男優を取りましたが、ALSによる体の不自由さの表現はもとより、動かせないからこその目や口元の僅かな表現力が良かったです。妻ジェーン役フェリシティ・ジョーンズの可憐さと気丈さは言わずもがな。若い頃も年取ってからも両方イイですね。ジェーンの自伝を元にしているので深掘りにも限度があるでしょうが、それでもここまで描き切ったのは大したものです。数々の印象的なシーンと共に、苦味と希望が共有されます。

ちなみに同時期の博士ものである『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』の主演、ベネディクト・カンバーバッチがホーキング役を演じたテレビ映画『ホーキング』というのもあるので、観比べてみるのも面白いかも。

↓以下、ネタバレ含む。








冒頭の自転車で走る疾走感が思いのほか凄いんだけど、これが後の動けなくなる姿との対比のように思えます。病気シーンは描かないわけにはいかないですが、観てて何がツラいって、階段上の子供のところまで行けないこと。三人目はもう抱くことすら出来ない、これがツラい。それでも周囲が変わらず接することは救いなのかもしれません。デヴィッド・シューリス演じる教授や、以前と変わらず接する友人。特に友人のブライアンは病気を打ち明けられた時こそ動揺を見せるものの、その後はスティーヴンの功績を喜んだりお姫様抱っこして銅像に一時置いたりと深刻さを感じさせません。それでいて最後のスティーヴンのスピーチを微笑んで頷きながら聞いてる姿が泣かせます。所々ユーモアが差し挟まれるのが作品のトーンを和らげる要素にもなっていて、人工音声を「アメリカ人の声だ」と言ったり、キップ・ソーンとの賭けに負けてペントハウス1年分を送るくだりとか笑わせてくれます。

ジェーンの支えようと言う決意は揺るぎないものであったろうし、現に自分のしたいことを抑えても尽くす姿が描かれますが、いくら心ではそう思っていても耐え切れない場面があるというのが現実的。ジョナサン登場には「これ絶対ヤバいな」と思うし、三人目は「もしや?」と思ってしまうんだけど、あくまでプラトニックを貫くジョナサンに次第に好感を持つようになってます。さすがに現旦那のことだけにその作りに疑惑を持つ人がいてもおかしくないですが、それは劇中のスティーヴンの母親と同じゲスの勘繰り。スティーヴンは最初に負担をかけたくないと言っていたし、他に面倒を見てくれる女性と知り合ったことでジェーンを解放する決意をするのですね。人工音声で別れを告げるときにボタンを押すのを何度も躊躇するのが印象的。それに対し「私はあなたを愛したわ」と過去形で話すジェーンの思いも偽らざるものであろうと思えます。

全ての苦難は最後のスティーヴンの演説へ向けて収束されます。我々は皆違うが、そこに境界はないのだと言うシーン。しかし演説の内容より、僕は立ち上がってペンを拾いに行くシーンにやられました。病気以降あまり表立って感情を表せないスティーヴンが、人生哲学を聞かれたタイミングで思い描くどうってことのない行動。そこまで歩きペンを拾ってあげたい、ただそれだけのことが出来ないという思い。あそこに全てが集約されていると感じます。

それでも時間は巻き戻り、別れや苦労を通り越し、二人の始まりまで戻る。それだけの人生を送ってきたし、これからも人生は続く。余命2年と言われたスティーヴンはそれを遥かに超えて生き続けています。また劇中では何年経ったかは明確に示さず、時間の経過を示すのは常に子供たちの成長になっています。受勲式後の美しい庭ですっかり大きくなった子供たちを見て「私たちの最高傑作」と言うセリフは月並みかもしれないけれど、そこには確かにひとつの美しい方程式が見られるのです。

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