2015
03.13

目指すのならば宇宙の果てを。『幕が上がる』感想。

maku_ga_agaru
2015年 日本 / 監督:本広克行

あらすじ
ゼーット!



高校の弱小演劇部の面々が、元舞台女優の教師と出会うことで全国大会を目指して走り出す。劇作家の平田オリザの小説をももいろクローバーZ主演で映画化。主演がももクロ、監督が本広とくればナメる人も多いことでしょう。僕も最初は正直ナメてました。

すんません、すんごく良かったです!と言うか完全にやられました。演劇部の女子高生たちが年一回の大会に賭ける姿が描かれるんですが、本当は諦めたくない熱意、自分が進みたい道が見えない不安、言葉に出せなかった気持ち、家族への思い、大好きな仲間たち、そんな感情の機微がバシバシ伝わってきます。演劇を通して自分自身を見つける過程がとても丁寧。

何よりももクロですよ。ももクロはあまり詳しくなくてメンバーの名前もうろ覚えなんですが(赤の子、とか色で呼んでたくらい)、そんな僕でさえ彼女たちの魅力には参りました。あまり期待してなかった演技についても全く問題なし。彼女たちは撮影前に原作者平田オリザのワークショップにも通ったそうで、その成果はしっかり出ているようです。役柄もうまくハマってるし、メンバーそれぞれの見せ場やメンバー同士の絡みもバランスが良いです。アイドル映画なのはエンドロールだけ。それから教師役の黒木華が抜群に素晴らしい。彼女の話す言葉、表情、動きとどれを取っても魅力的なのが作品に厚みを加えています。

部員が全員女の子なので余分な恋愛要素がなく、むしろ女の子同士がイチャイチャしながら、でも切磋琢磨していく感じがとても好ましい。前半は入れすぎに感じたナレーションも後半に活きてくる。カメオ出演の有名人たちがちょっとウザいけど、それさえスルーすれば素晴らしい青春映画です。

ちなみに劇中の他校の演劇部は実際に高校演劇をやってる人たちだろうな、と思ったらやはりそれっぽいですね。エンドロールに地元の青森中央高校の名前を見たときは嬉しかったです。ちょっとしか映りませんがずいぶんネイティブな津軽弁だなーと思ったらガチの地元民でした。

↓以下、ネタバレ含む。








カメオ出演の有名人は本当にノイズですね。特に終盤の鶴瓶とか松崎しげるとか、別に面白いわけでもないし嬉しくもない。三宅アナくらいはまだ我慢してましたがそれでも映り過ぎだし、ももクロのタオルを持ってたりする小ネタが逆にちょっとイラッとします。何言ってるか分かんない天龍にはちょっと笑ってしまいましたが。あとうどんのカットは本広監督作のうどんをテーマにした自作のアピールに思えちゃうのでやめた方がよかった。あの夢の話は投げる用の灰皿が山積みとか、せっかく面白かったのに台無しです。演出面ではいただけない部分が多いですね。逆に溝口先生役のムロツヨシはウザさはかなりのものだけど、皆に無視されてもあまりかわいそうという心境にならないのであれはあれでいいんじゃないでしょうか。

「本気で勝ちに行くなら楽しいだけじゃすまされない」と宣言する黒木華の吉岡先生は、最初は自分が歩んできた道を押し付けてる感がしなくもないです。それこそ演劇への未練があるんじゃないかと勘繰ってしまいます。でも本気で取り組むことがどれだけ大変で、その分どれだけ充実感があるのかを教えたかった、というのもあるのでしょう。それは溝口先生のように「頑張った」「頑張れ」だけでは得られないものです。でも決して正解をそのまま教えたりはせず、各々の良い点を伸ばす提案をしながら決断は生徒に任せる。その厳しくも暖かい目線がとても良いです。

それに答える生徒たち。百田夏菜子のさおりは最初はモノローグが煩わしいですが、思っていても言えないことを先生と同じ考えだと知ることで自信に繋げていきます。演出に専念してからはどうすればメンバーを活かせるか、どうすればもっと良くなるかをそれこそ夢に出てくるほど考える。時にはプールで頭を冷やす(と言うか落ちる)。そういう頑張りの後で国語教師に誉められるシーンはじわりと来ます。しかしこの国語教師役の志賀廣太郎という人はいつも思うんだけどイイ声だよねえ。調子こいて壁ドンまでしてたけど。

玉井詩織のユッコが転校生をライバル視するところは、さおりがそちらになびくことが気に入らないというのもあるのでしょう。でも二人でベッドに寝ながら「さおりに手が届かない感じ」と自分の心情を口にした時点で、彼女もまたさおりが本気でやってる場所まで辿り着けるんですね。転校生である有安杏果の中西さんも滑舌の悪さを気にして吉岡先生と同じように一度引退した身ですが、さおりの熱意にほだされ復活する。秋に転校してきて参加するのが夏前と、意外と長い時間をかけてるのがわざとらしさを軽減してる気がします。高城れに演じるがるるのようなムードメーカーが場を和ませ、佐々木彩夏演じる後輩の明美ちゃんの存在でこの経験を一時のものではなくこの先も続いていく遺産として示します。

本作はアイドル映画として観なくても大丈夫だけど、ファンならたまらんだろうなと思うんですよ。ももクロのこれまでの軌跡が劇中の部員たちとリンクして見えちゃうと思うし、全力で立ち向かったあと、終盤で遂に5人揃って並ぶ姿にはモノノフじゃなくとも感涙です。つまりアイドル映画として見ても良く出来てるということです。物語を通して彼女たちの今までとこれからを思わせるももクロの本作は、リアリティから彼女たちの夢と挫折を描くAKB48の『Documentary of AKB48』とはまるで違います。どちらが良い悪いの話ではなく、そこには物語の持つ力というものを感じるのですよ。

『銀河鉄道の夜』になぞらえ、光の早さで広がる宇宙の、それでもその果てを目指す決意。物語を通して迫ってくる彼女たちの一生懸命な青春模様は、それを指導していた大人にさえ再び情熱を取り戻す。そこに刹那のきらめきだけではない感動があります。また、タイトルが出るのはエンドロール直前だろうなというのは読めますが、何となく横書きだと思ってたのが縦書きで出たのが思いのほか良かったです。幕が上がり、彼女たちはそこに立っている、そんな感じが良いのです。


幕が上がる (講談社文庫)幕が上がる (講談社文庫)
(2014/12/12)
平田 オリザ

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