2015
03.03

誰がために歌う。『君が生きた証』感想。

rudderless
Rudderless / 2014年 アメリカ / 監督:ウィリアム・H・メイシー

あらすじ
川に放尿すると怒られます。



死んだ息子が残した曲を歌う父親とその歌に魅かれた青年が、音楽を通して人生に立ち向かっていく音楽映画。俳優のウィリアム・H・メイシーはこれが監督デビュー作ですが、これが素晴らしい。

とある事件で亡くなった息子の記憶から逃げるように暮らす父親サム。彼はやがて息子の作った歌を聴き、それをステージで歌うようになります。そんなサムの歌に共感した若者クエンティンと共にやがてバンドを始めるサム。現実から目をそらすように生きるサムと彼を慕うクエンティンとの微笑ましい疑似親子交流がイイです。悩める青春を歌う楽曲も良い曲揃いだし、ライブシーンも高揚感があります。しかし、これが終盤で分かるある仕掛けによって、歌の持つ意味がガラリと変わります。これには驚愕。そして歌を通して息子を知ろうとした父が受け入れる現実に涙します。

爽やかな感動、みたいな音楽映画ではないんですよ。それでも音楽シーンはとても良いし、敢えて描いたのであろう物語の根幹も深い。思い返せば様々な場面が全く違うものとして甦ります。素晴らしかった。ウィリアム・H・メイシーは初監督ながら見事な完成度。本人もイイ役柄で出てます。ライブでノリノリなマスターに好感。

主演のビリー・クラダップがとても良いです。イケメン中年だというのがステージのビジュアル的にかなりプラスに働いてるというのはありますが、頑なに現実を拒否しながらクエンティンを受け入れてしまう父親サムを好演。クエンティンを演じる『オッド・トーマス』ことアントン・イェルチン君も犬みたいで良かった。親しくなってからもボート乗るときには躊躇するのカワイイ。モーフィアスでお馴染みローレンス・フィッシュバーンも良い味出してます。

音楽映画でありながらミステリとして観ても秀逸。そして悲しみから立ち上がろうとする男の残す深い余韻が心に響きます。

↓以下、ネタバレ含む。








真相が分かってから思い返すと確かに少し変だったところが色々あって、普通に観てれば次のように思います。サムは息子を失った悲しみから社会復帰できずに逃げ出した。セレーナ・ゴメス演じる息子の彼女に「恥知らず」と罵られるのは息子の曲をさも自分のもののように歌っていることに対して。リポーターに追いかけられるのはマスコミが遺族にお涙頂戴コメントを求めている。ライブに誘われても実は息子の歌だから「事情がある」と言って断ろうとする。ーーこれら全てがミスリードです。

息子の曲の途中で入る「早くここから出なきゃ」の言葉に呆然とするのもふいに息子の声を聞いた驚きなどではなく、追い詰められていた息子の心情を知ったからであり、冒頭で無理やり食事に誘ってくる父に対して息子が「選択権はないの?」という問いも、思えばその追い詰められた結果の言葉だったかもしれない。そう思うとあらゆるシーンがまるで違って見えてきます。しかしこれらを不自然に感じさせない自然な作りが実に巧み。

バンド名として付けられたRudderlessは「旅する船」と訳されていましたが、本来の意味は「舵のない」とか「当てもなくさ迷う」です。これはそのまま父サムを指す言葉でもあるのでしょう。真相を明かして以降は彼が現実に向き合い折り合いをつけるまでが描かれることになります。結果的にクエンティンとは別れることになりますが、アドバイスが普通だと言われながら、それでも長く生きてきた分の実感としてある「諦めるな」という言葉を送ります。彼が息子ではないことを改めて認識しつつ一人の友人として送りたかった言葉。そしてそれは息子に送りたい言葉でもあったでしょう。息子の影を重ねて見ていたクエンティンと別れ、息子のいた大学に行って号泣し、遂に受け入れるサム。

サムが最後のステージで歌うのは息子が事件の直前に録音していた最後の曲。息子が助けを求めるような未完の曲に父が書き足した「息子よ」と繰り返す言葉。「前に進みたい」と言いながら逃げているだけだったサムはRudderlessを抜けて最後に歌うことで「当てもなくさ迷う」自分に別れを告げるのです。


君が生きた証君が生きた証
(2015/02/04)
V.A.

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