2015
03.01

その引き金が救い、奪うもの。『アメリカン・スナイパー』感想。

American_Sniper
American Sniper / 2014年 アメリカ / 監督:クリント・イーストウッド

あらすじ
非公式では255人。



イラク戦争に四度出征し公式戦果で160人の敵を殺した、元シールズ隊員クリス・カイルの自伝『ネイビー・シールズ 最強の狙撃手』を映画化。監督は御年84歳のクリント・イーストウッド。『ジャージー・ボーイズ』が公開されて間もないのに次がこれというのはスゴい。

凄まじい戦闘シーン、死と隣り合わせの緊張感。でも印象としては結構淡々としています。戦争をことさら美化も批判もせず、ただ現実的な積み重ねを映し、愛国心に駆られた一人の男が戦争の闇にじわじわと侵食されていく様を描きます。なぜカイルは海軍特殊部隊に志願したのか。なぜ何度も戦場に戻るのか。戦争が国ではなく個人にもたらす影響、例え死を免れても残る傷跡があるんですね。

伝説の男クリス・カイルを演じるブラッドリー・クーパーがエラいマッチョ化してて、その一回りデカい肉体はシールズ隊員としての説得力十分。スナイパーと言いつつ中盤は突入部隊と行動したりするのはエリート集団シールズって感じです。アカデミー音響編集賞も納得の、前後左右から襲い来る音響も迫力。

観終わったあと近くのカップルの女性が「伝説っていいながら一人で160人って少なくない?」と言ってて彼氏が「第二次大戦じゃないんだから」とたしなめてました。一人でそれだけ殺してまともな方がおかしいのです。アメリカンと銘打ちながら全くアメリカ万歳映画ではなくて、イーストウッドはただ何かを突きつけてくるだけ。それをどう受け止めるかは観る者次第です。死の静寂のようなエンドロールが本編より重くのし掛かります。

↓以下、ネタバレ含む。








狙撃シーンは最初こそ観測手が付いているものの、以降は風とか距離とかあまり厳密に気にせず意外にサクサク撃つので、スナイパーを描く映画としてはちょっと粗い気がします。シールズの訓練シーンからしてそれほど尺は取っておらず、本物のシールズ訓練風景を使った『ローン・サバイバー』と比べるのは違うとしても、ちょっとあっさりしている気がします。『フォックスキャッチャー』もアメリカの抱える闇を描いてますが、スポーツの世界を描いたはずのそちらの方が戦争映画であるこの作品より重いというのも意外と言えば意外。「国のため」がどこに向けての言葉かの違いかもしれません。だから重視すべき点は細部のリアリティではなく、カイルが4度も戦場に赴いてどうなったかという事実であり、死線を彷徨う戦場と平穏な自国の家庭が電話線一本で繋がっている理不尽さなのでしょう。

ブラッドリー・クーパーが映画化権を買い監督がイーストウッドに決まった頃にクリス・カイルはこの世から去ったそうで、まだ生きていたらどういう結末になったかは分かりませんが、PTSDに関してはやはり描いただろうな、とは思います。戦場では伝説と言われ味方の命を救うことに誇りを持ってはいるものの、場合によってはまだ幼い少年も撃たなければならない。カイルの場合は最初の戦場でまさにそんな場面に遭遇し、仲間を死なせないためには撃つしかないが、決して逡巡しないわけではない。現にロケット砲を抱えた少年という二度目の場面では撃たずに済んで激しい呼吸を繰り返します。家にいてもテレビの戦地の映像に見入ってしまう。自分ではそんなことはないと思っても帰国するたびに妻に「あなたはここにいない」と言われ続ける。「君のパパは英雄だ」と子供に語る仲間の言葉に素直に喜べない。人の命を奪うというのはそういうことだ、ということです。

敵スナイパーであるムスタファは原作での記述は1行くらいしかないそうですが、それを膨らませて描いたことには意味があるでしょう。伝説の男と対になる脅威としてパワーバランスとなる存在です。迫り来る砂嵐のなか、そのムスタファ相手に一発の銃弾で劇画的にケリを付けるシーンは実にヒロイック。しかしまるで『ウォンテッド』のようなその場面だけが全体からあからさまに浮いています。これはヒロイックなシーンを誇張して描くことで、逆に戦争におけるヒーロー譚の嘘くささを浮き彫りにしているように見えます。しかもムスタファもカイルと同じく妻子があることを描いており、スナイパーとしての立ち位置だけでなく人間としてもカイルと対になるように描かれます。カイルにはイラク兵を「蛮人」と呼ばせながら、同時に敵側も同じ人間であると言っている。実際にムスタファを倒したのはカイルではないそうですが、そこを敢えてファンタジー性さえ感じる対決シーンにしたのもそのためでしょう。

カウボーイになり損ねたカイルは父の教えに沿って羊を守るための番犬になりたかったわけですが、スコープごしに覗いた敵は果たして狼だったのか。彼らもまた羊であったり、それを守るための番犬ではなかったのか。人の命を奪う一部始終を見続けなければならなかった男が優先すべきは、果たして本当に「神、国、家族」の順番だったのか。同じようにイラク戦争を舞台にした『ハート・ロッカー』では戦場にとりつかれた男の悲しさを、ビン・ラディン殺害までを綴る『ゼロ・ダーク・サーティ』では敵を殺しても残る空しさを描いてましたが、『アメリカン・スナイパー』では国同士の戦争であっても結局は前線に立つ兵士のパーソナルな部分に帰結する、ということを改めて描いている気がします。エンドロールの無音は追悼であると同時に、観る者への思考を促しているように思えるのです。


アメリカン・スナイパー (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)アメリカン・スナイパー (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
(2015/02/20)
クリス・カイル、スコット・マキューエン 他

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