2015
02.26

不器用なソリストたちのデュエット。『味園ユニバース』感想。

misono_universe
みそのゆにばーす / 2015年 日本 / 監督:山下敦弘

あらすじ
あンのッころーはー!



大阪のとある場所で行われていたライブ中、突然乱入して歌い始めた一人の男。記憶を無くした彼を居候させることになったカスミは彼に「ポチ男」と名付けて働かせることになるが――。関ジャニ∞の渋谷すばるを主演に据えた『もらとりあむタマ子』などの山下敦弘監督作。

混沌とした大阪の下町に響く歌声、という序盤の展開で見事に引き込まれます。これは不安定な人物関係に歌で形を与え、過去を失った男が歌で未来を垣間見る音楽映画。気持ちのいい引きのショットや台詞を入れずに新密度を深めるスイカシーン、「ポチ男ノート」の書き込み、記憶がないだけに素直に出てくる「ありがとう」など、さりげなくも印象深いシーンの積み重ねによりいつの間にか入り込んでしまいます。そしてヒロインのカスミがマネージャーを務めるバンド「赤犬」に主人公ポチ男が加わってからの演奏シーン、これがアガります。

主演の渋谷すばるは「関ジャニ∞のテキ屋みたいな人」くらいの知識しかなかったんだけど、かなりイイ。記憶を無くして茫洋と彷徨う様子やキレてる表情の出し方なんか良いですね。元々彼に当て書きした役のようですが、とにかく歌がうまくないと出来ない、なおかつ結構難しい役をこなしてます。また二階堂ふみの関西弁も自然で、強気なカスミが時折一瞬だけ見せる弱々しさ、みたいなのが可愛い。あと彼女のセーラー服姿の破壊力と言ったら!な!?(同意を求める)そして「赤犬」のおっさんたちが最高!赤犬は実在するバンドが本人役で登場ということで、なるほど貫禄あるステージです。

色々スッキリしないまま終わるところもあるので思ったより爽快感は薄いけど、べたつかず、それでいて徐々に信頼度を深めていくポチ男とカスミの関係性、そしてポチ男に待ち受ける展開に、観てるこちらもハラハラしつつまったりしてしまいます。劇中歌われる「ココロオドレバ」やエンディング曲「記憶」と言った楽曲、和田アキ子の「古い日記」に込められた思いもイイ。観終わった後もじんわりと来ます。

↓以下、ネタバレ含む。








これは敢えてそうしてるのだろうとは思いますが、ちょっと整合性が合わなかったりあまり描かずに済ませちゃってるところも多いです。例えばポチ男こと茂雄は強盗傷害の罪で収監されていたようですが、塀の外に迎えに来たタクヤやショウと車の中で交わす会話には身代わりになった的なニュアンスもあり、でもそこは深く語られません。そもそもあんな思い切り頭殴られたら死ぬんじゃないかとか、カスミが赤犬のマネージャーだと言うのもハッキリしないとか、色々引っかかります。一番の問題はアレですね、ポチ男が絶体絶命の時にバット持って殴りかかるカスミ。直後の展開を見ると助けに来たように見えますが、なぜ場所が分かったのか、殴った後のあの場をどう収めたのか、その後どうやって美園ユニバースまで戻って来たのか全く分かりません。まあ監督曰く「カスミが助けに来たことが重要」だそうなので、そこは深く追及する点ではないということなんでしょう。

でも僕は分かってしまいましたよ……。カスミは実はあの辺り一帯を牛耳るゴッドマザーでありフィクサーなんですよ!タクヤさんが会社を頼まれたという知り合いも実はカスミであり、だからポチ男の居場所を知るのもあの場面を収めるのも容易いことだったのですよ。赤犬のおっさんたちがカスミに逆らえないのもカスミが裏社会の実力者だからなのです。ポチ男を助けた後「あんたは間違った選択をしてきた、でもあたしもそうだ」と言うのも、裏社会でのし上がるためにしてきた汚い仕事のことを思い出して……おお、意外と辻褄が合うな。言っときますがそんな設定はないです(多分)。

それにしてもカスミが調べた元同僚の評判もさることながら、記憶を失ってるときの幸福感から記憶が戻り自分がクズだと思い出した時のポチ男の急転直下ぶりはキツいものがあります。姉夫婦から向けられる恨みの視線、我が子には「知らない人」と言われる現実。出所後買ったオモチャの鉄砲が実は誕生日プレゼントだった、というのが細かくて良いんですが、これも受け取ってもらえない。記憶がないときには何度も素直に言っていた「ありがとう」も言えなくなってしまいます。このやさぐれた渋谷すばるのアイドル感のなさは大したものです(ホメてます)。そんな状況のなか、かつての自分を捨て新しい自分を手に入れられるのか、というのがひとつのテーマなんですね。

これはカスミにも言えることで、ポチ男との生活が心地よくなってきたカスミは、務めていた工場は潰れていたと嘘をついて過去には触れないようにします。でもポチ男とその父の会話が入ったカセットを捨てることまでは出来ません。おじいにうっかり聴かれてしまうのは自分が聴いたままステレオにセットされていたからでしょう。父親を失って以来時間が止まったままのカスミが「うちにはこれしかない」と言って立てる4本の指に寂しさが見られますが、いつの間にかポチ男ノートに書き貯められていた思いにより、ポチ男を5本目として数えようとします。それは指4本の世界が広がるということ。「過去がないなら未来を作ればいい」というカスミの言葉は自身にも影響を与えるのです。思えばカスミがライブ時にセーラー服なのは高校に行けなかった彼女なりのライブ衣装であり正装なのでしょうが、それは過去で止まっている彼女の象徴であるようにも見えます。そんなカスミの「しょうもな」というセリフにあった諦めや侮蔑のような響きが、照れ隠しのように変わってくるところが良いです。

それにしても赤犬の皆さんがノリノリ。ラストのステージはもちろん、ポチ男の処遇に困るカスミを置いてそそくさと帰っていくとか、カラオケでの反応とか、ライブ前にパンツ一丁の生着替えとか。かと思えばスタジオで曲のアレンジをテキパキと決めていくプロっぽさもあったり、やっと復帰できたボーカルの人が戻ってきたポチ男を見て自らダイブして引き継ぐのもイカしてます。見てないようで見ているおっさんたちとの距離感がイイ。それはポチ男とカスミの距離感にも言えます。スイカの種飛ばしの時点でも微かに微笑む程度だったのが最後にようやく照れ臭そうに笑うポチ男、そして静かに微笑むカスミ。不器用な二人のさりげなく嬉しそうな表情がとてもイイ余韻として残ります。


記憶 / ココロオドレバ記憶 / ココロオドレバ
(2015/02/11)
渋谷すばる

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