2015
02.12

激しさと優しさを拳に乗せて。『激戦 ハート・オブ・ファイト』感想。

gekisen
激戦 Unbeatable / 2013年 香港 / 監督:ダンテ・ラム

あらすじ
果たしてダンスおばさんの恋の行方は!



借金に追われ逃げて来た元ボクシング王者チン・ファイと会社が倒産した父親を抱える青年スーチー。総合格闘技MMAの大会に出ようとジムを訪れたスーチーはそこで雑用として働いていたファイに鍛えてもらうことに。香港電影金像奨で11部門にノミネートされたダンテ・ラム作品。

大事な人に想いを伝えるため戦う男、愛する者を失い正気を失いそうな女。師弟話と家族話という二つの軸が、過去を乗り越え今を取り戻すために戦う男に集束して、最後に爆発するさまに熱いものがこみ上げます。一つ一つのエピソードの積み重ねが不器用な男たちのドラマにリアリティを与え、観る者に勇気を与える素晴らしい出来。

結構人情話だったり、少女の存在がとても可愛らしかったりするんだけど、それらがいやらしくないです。さらに意外とガッツリ絡んでる格闘技シーンのアクションの魅せ方が上手くて、アングルやカットの繋ぎがとても見やすいから没入度も高い。これだけ手に汗握って、かつ思わず体が動いちゃう作品も久し振りでしたよ。ファイ役ニック・チョンもスーチー役エディ・ポンも仕上がりまくった筋肉が美しく、トレーニングやファイトシーンの熱さも抜群。

ちょっと疲れちゃったな……と人生諦め気味の中年にはこれは響きます。もちろん格闘技好きは言わずもがな、裸の男同士がくんずほぐれつウホッてのが好きな人がマウントの取り合いに興奮してもいいでしょう。『百円の恋』で戦う女に心震えたばかりなのに、今度は戦う男に魂が揺さぶられる。ダンテ・ラム作品は初の鑑賞でしたが、熱いし泣けるしエキサイトするしで最高でした。

↓以下、ネタバレ含む。








アバンタイトルでスーチーの気楽な放浪ぶり、ファイのダメさ加減、クワン親子の悲劇が描かれ、彼らがメインであることが察せられます。

スーチーは落ちぶれて荒れる父親に「お前は何も成し遂げてない」と言われてジムに通い始めますが、格闘技を始めた本当の理由はそんなことを言って現実から逃げている父親に「自分でも出来るんだから」と言いたいがため。指導されたことをそのまま吸収しひたすらトレーニングに励む愚直さと、若干天然な憎めなさ、あまりファイターという感じがしない試合中の苦しそうな表情もあって、なんか犬っぽいです。そんなワンコなスーチーを最初はうるさがってたファイが、徐々に心を開いていくのも微笑ましい。チュッチュしちゃうしな!それだけに首から垂直に落ちての敗北には息を飲みます。それがファイが試合のセコンドに付いていない時にです。

一方幼い息子を失ってから精神が不安定となったクワン、ファイが風呂のフタを開けたときの絶叫や息子の生まれたときに植えた木を嵐から救おうとする姿にそれが表れてますが、娘のシウタンが仕切り屋で強気なのがその母を守るためというのが泣かせます。ファイの足を踏もうと頑張ったり、母親に赤ずきんの芝居をやって見せたり、本当に健気で愛らしい。罪悪感で潰れそうな母を何とか守ろうとするあまり他人にも厳しく当たる。そんなシウタンが事情を教えることでファイとの距離が縮まり、徐々に心を通わせていくのがこれまた微笑ましい。やがてそこにクワンも加わり、月餅や天上修理やらで信頼を深めていく。ベタつかない絶妙な距離感、それでいて楽しげなのがとてもイイんですよ。それだけに階段から落ちて血溜まりに横たわるシウタンには衝撃を受けます。ファイの借金取り立てに巻き込まれたがためにです。

スーチーの負傷、シウタンの負傷、父親引き取りによるクワイの悲嘆、そして自ら捨てたプライド。それら全ての悲劇を背負い失ったものを取り戻すため、試合を決意するファイ。かつてスーチーに言った「戦う理由を忘れるな」は己への檄になり、クワイに送ったヘッドホンで聴く「サウンド・オブ・サイレンス」は己を鼓舞するテーマとなる。それまでの細やかな人物描写、ユーモアあるやり取り、敵役の傲慢ぶり、スピーディーなトレーニングシーンに鍛え抜かれた体と、最後の試合への持って行き方にはこれ以上なく力が入ります。実に巧み、そしてエモーショナル。

これらの試合への準備からラストにかけて、細かい点の反復がイイです。ファイがクワイと同じようにヘッドホンを付ける、シウタンがファイの足を踏む、再びのブレーンバスター、脱臼、ついでにファイとスーチーのチュッチュなどなど。過去の場面を思い出させ今の闘いへと結び付けることで、スリルや熱さに繋げています。過去の自分の弱さに打ち勝って勝利するファイ、死んでくれるなと思わずにいられなかったスーチーとシウタンの元気な姿にも涙。原題である「Unbeatable」は「打ち負かすことのできないもの」であり、それはファイにとっては激しい思いと相手への優しさだと受け取れます。それらは投げやりな人生に沈んでいた中年に成し遂げる力を与え、大事なものを手に入れさせる。エンドロールの幸福な写真に泣けます。

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