2015
02.07

安い人生に戦いのゴングを。『百円の恋』感想。

hyakuen_no_koi
2014年 日本 / 監督:武正晴

あらすじ
買ったバナナは持ち帰りましょう。



山口県の周南映画祭で「松田優作賞」を受賞した脚本の映画化。どん底人生の女性がボクシングを通して変化していく。監督は『イン・ザ・ヒーロー』の武正晴。

公開からひと月以上経ってようやく観ましたが、何だよこれ凄いよ!30代コミュ障ニート女が安く見られた人生にボクシングで挑む話ですが、これが自分を見て泣き叫びたいときがある、そんな人の魂に響きまくり。終盤はもう泣きっぱなしで、終わってからも思い出すたびに嗚咽が漏れそうになりましたよ。

一子役の安藤サクラがとにかく凄い。ストレスだらけクズだらけの底辺の生活、憧れのボクサーへのほのかな恋心、そんな出口の見えない痛々しい前半は本当にツラく、歯を食いしばりながら観る場面も。でも本気でボクシングにのめり込んでから別人のように変わる一子。凄まじいステップとキレのあるフック。練習でシャドウに打ち込む華麗な姿に鬼気迫るものを感じつつも高揚感を押さえられません。そして迫力の試合シーンを経て、一子が本当に求めたものに涙。

どん底からのスタートといい、アガりまくるトレーニングシーンといい、試合シーンの迫力といい、これは名作『ロッキー』に張りますよ。まさかここまで感情を揺さぶられるとは思わなかった。一子が恋する狩野役の新井浩文も身勝手なクズっぷりが良かったです。地味なタイトルにいい意味で騙されました。素晴らしかった、本当に良かった。

↓以下、ネタバレ含む。








ダメすぎるニートの32歳、一子はモラトリアムなんて生易しいもんじゃない。「私は女を捨ててるから」に対し「女を捨てられないんだろ」と返される。妹と母親に追い出されるように家を出る。バイト先のコンビニはストレスを抱えた負け犬だらけ。断られなさそうだからという理由だけでデートに誘われる。空気読まないどころかもはや犯罪者であるゲス親父に犯される。ようやく結ばれたはずの好きな男には裏切られる。生々しいですよ。返事の代わりに「うー」と言ってしまう会話の苦手な一子は他人の理解を得られずいいように扱われてしまいます。不器用すぎるだけで弱いわけではない、吐き出したい思いもある、でも自分をうまく表現できない。周りの人の凡百の人生に埋もれてしまう生き方。

一子がボクシングを始めたのは、いつも見ていたバナナマンこと狩野が、負けたとはいえリングで輝いていたのを見たのがきっかけ。その輝きの理由を少しでも理解したかったのでしょう。でもこの狩野も結構なクズだからね。風邪引いてるヤツに肉の塊出すし。浮気相手と一緒のところ見つかっても平然と妹だって言うし。乳首攻められるの好きだし。対する一子は好きな男の前ではブリッ子したり、ごちそうと言えば肉なのか大量の手羽先を用意したりと可愛らしく、そんな冒頭のダメすぎる姿とは裏腹な健気さからも応援したくなってしまう作りになってるんですね。そして安藤サクラのプロ顔負けのシャープな動き。シャドウや縄跳びがどんどん上達するトレーニングシーンはカットの繋ぎも素晴らしくて興奮します。

試合シーンはダウンするたびにもうダメだろう、やっぱ甘くないよなと思っちゃうんですよ。相手はドレッドヘアーでめっちゃ強そうだし、一子の攻撃も徐々にしっちゃかめっちゃかになってきて実力の差は歴然。でもそう思いつつも倒されるたびに立て!って力入りまくるのです。そして立つんですよ。顔面ボコボコになっても立つ。得意の左フックさえもキメる。ダウンしたときのフラッシュバック、泣きそうな顔をしながらも一子を見つめ続ける両親と妹母子、思わず声をあげる狩野、そして遂に試合が終わり対戦相手に抱きつきながら言い続ける「ありがとう」。ボロ泣きします。

「なぜボクシングをやってるのか」という狩野の問いに「殴りあったり称えあったりするのがなんかこう……」とうまく言えない一子ですが、それだけじゃなくなるんですね。試合で百円ショップのテーマで入場するときに「私なんて百円程度だから」と漏らすように、負けっぱなしの人生だったわけです。最後に泣きながら繰り返す「勝ちたかった」は一子が唯一本心をハッキリ言うところ。ジムの会長が「自分に何もないことに気付いて何か燃えるものが欲しいとか言うのがいるんだよ」みたいに言いますが、見抜いているようでいて少し違うんです。負けっぱなしの人生、一度でも勝ちたかった。冷めていた会長が最後のラウンドでは自らマウスピースを入れてやるのはそこを感じたからでしょう。会長の「嫌いな試合じゃなかった」に泣けます。

この作品には負け組ばかりが出てきます。一子や狩野はもちろん、心を病んでる父親とか鬱病で辞めちゃった店長とかレジの金盗んでクビになった弁当おばさんとか出戻りの妹もそうでしょう。殴られちゃう新店長なんてちょっと気の毒なほど。あの店で普通なのはマジっすか!とうるさい若いバイト君くらい。でも一子は最後に恋だけは勝ち取ります。それは安っぽい百円の恋かもしれないけど、一子が自分と戦った結果手に入れたもの。だからこそ良いのです。

スポンサーサイト
トラックバックURL
http://cinemaisland.blog77.fc2.com/tb.php/879-ca86c8d8
トラックバック
back-to-top