2015
01.23

それでも世界は色相を保つ。『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス』感想。

PSYCHO-PASS
2014年 日本 / 監督:塩谷直義

あらすじ
システムの海外輸出奮闘記。



人々の精神を数値化して管理する「シビュラシステム」が導入された近未来の日本を舞台に、犯罪者を取り締まる公安局刑事課一係の活躍を描いたテレビアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』の劇場版。一係の常守朱は密入国したテロリストの黒幕を探るため海外へ飛び出します。

最初に言っておくと、テレビシリーズを観てないとまあ理解できなくはないでしょうがツラいと思います。少なくとも第1期を観てないと狡噛の立ち位置や槙島との比較が分からないし、他の登場人物たちも色々な変遷を辿っているので。第2期を観てないと霜月のウザさはあんなもんじゃないというのが分かりません(まあそれはいいか)。テレビ版は近未来警察サスペンスとして良く出来ていて面白いのでそちらをお先に。

で、この劇場版の主な舞台はSEAUn(東南アジア連合)という仮想国になります。常守朱、初の海外出張!ただ、うーん何だろう。シビュラ社会という箱庭から飛び出したことで、世界観が少し変わった印象があります。正確にはお馴染みの舞台を離れてお馴染みの面子も置いてけぼりのため、シビュラやサイコパスを巡る公安一課の物語とは別の流れ、より常守朱個人に近い視点の物語、と言う感じでしょうか。シビュラの支配をまた別方向から描いてはいてそのまとめ方は上手いと思うんですが、尺の都合か若干都合のよさも感じなくはないです。

一課の面々はもうちょっと活躍してほしかったですが、これは物語上しょうがないか。常守はすっかり貫禄の監視官ぶりですが、一方で堕ちた監視官こと宜野座はどんどん髪が伸びてセクシー度が増してます。元祖セクシー担当、分析官の志恩さんが怒られてちょっとシュンとするという超可愛らしい場面も。目玉は1期以来の狡噛の再登場ですが、個人的には狡噛にはもっと劇的な設定が欲しかったです。

ちょっと先の未来みたいな、現状をそのまま発展させたらそうなる的ギミックやドローンなどのメカは面白いし、シラットを取り入れたアクションシーンは意欲的ですが、ちょっとモヤモヤする内容ではありました。


↓以下、ネタバレ含む。








舞台が海外というのは、日本以外の国がどうなっているのかという物語世界の疑問に答え、かつシビュラで管理された社会とは真逆の弱肉強食の世界という対比になってるんだけど、一方でよくテレビドラマが映画化したら張り切って海外ロケやっちゃうみたいな嫌らしさも感じなくもないです。シラットも『ザ・レイド』があったから入れたのは明白だし。などと思うのは総監督がドラマ畑の本広克行だからという偏見でしょうけど。

ただそれだけいつもの面子の活躍が少な目に感じてしまうのです。ホロ担当コミュ障の雛河君なんてちゃんと執行できるようになったのに台詞すらほぼないですからね。でも弥生さんが鬼強いというのはよく分かりました。そして狡噛と宜野座の邂逅がやたら熱い。二人で共闘して石塚運昇の殺し屋相手に闘うとか燃えます。狡噛がシビュラから逃げてたまたま巻き込まれて戦ってるように感じられてしまう残念さはそれで帳消しにしましょう。BL展開も意識してそうですが、そういう妄想はその筋の人におまかせします。あとあれだけ話の中心に据えてたドミネーターが全然目立たないな!と思ってたらクライマックスで暴れまくりだったのと最後に喋りまくってたのは面白かったです。

シビュラの管理に対し、システム導入に際して「サイマティック・スキャンに引っかからなかれば犯罪ではない」という開き直りの策を施すというのはシステムの根幹を揺るがす裏切り行為ですが、それを見抜いた上でシステムの海外輸出のため黙認し次善の策まで施すシビュラは、社会管理だけでなく政治的駆け引きでも一枚上手であることが描かれます。そのためにシビュラ管轄外の地がいくら荒れようが気にしません。それでも人々はシャンバラフロートへ向かい、潜在犯は管理の首輪を付けてでも楽園に住もうとします。一方で自由を守るために戦う人々がいる。この対比は紛争という形で分かりやすくしています。ちょっと乱暴な図式ですが、アクションもメカも投入できるし都合はいいですね。

また、常森の友人がシステムの選んだ人と結婚するというエピソードがあって、常守は祝福しつつも複雑な顔をします。「ぴったり合うと言いつつ色々あったけどね」という友人の言葉には「結果的にはオッケーだったけど」という言外のニュアンスを感じますが、それでも一組の夫婦が誕生し新たな家庭を築いていくわけです。シビュラは幸福をもたらすと見せかけその実自由を奪う管理社会であると描いてきたわけですが(主に反体制側の言い分として)、主人公である常守がそれでも狡噛のように野に下らず公安に居続ける理由は、最後に自ら言っているように「それでもシステムは進化するという意思」のためでしょう。結婚する友人のように幸福に暮らせる人もいる。でも単なる数値化で切り分けるとそこには歪みが紛れ込む。まさに今までシリーズ通して描いてきたことであり、それは安易にカテゴライズされる現代社会へのアンチテーゼにもなっているのでしょう。

でもやはり少しモヤモヤします。テーマ自体は別に目新しいものではないけど細部まで詰めた設定などが丁寧で好感が持てるし、ハッキリ決着を付けない終わり方なのも先に言ったような常守の考えを示すことでキチンと締めてるし、サスペンスとアクションのバランスも悪くないと思うんですが、一気に世界を拡げすぎて少しばかり隙を感じちゃうからかなあ。悪徳軍隊の組織がよく見えないとか。まあ色々議論も出来ると思いますが、どちらかと言うと細かいことは気にせず観た方が楽しめる作品だとは思います。


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関智一、花澤香菜 他

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