2014
10.29

守る、たとえ許されずとも。『泣く男』感想。

nakuotoko
No Tears for the Dead / 2014年 韓国 / 監督:イ・ジョンボム

あらすじ
ゲス兄貴、耐えるの巻。



幼い少女を殺してしまうという取り返しのつかない過ちに苦しむ殺し屋ゴン。そんな彼に追い討ちをかける非情な任務が言い渡される。『アジョシ』監督のイ・ジョンボムが主演チャン・ドンゴンで描くアクションドラマ。

殺し屋ゴンを演じるチャン・ドンゴンの壮絶なアクションがスゴいです。拳銃・ライフル・ショットガンとバラエティ豊かな銃撃戦を始めとして、ナイフでサクサクの玄関先での応酬、サブミッション格闘、渾身の飛び膝蹴りなどプロ同士の戦いが熱く、ハイクオリティ。特に団地で繰り広げる血しぶき飛び散る銃撃戦は手に汗です。車を盾に銃撃を避ける際、タイヤに対して縦に寝転んで凌ぎリスクを減らすってのがリアル。

『アジョシ』が子を救う話ならこちらは親を救う話であり、かつ贖罪の物語。ゴンと中国勢と韓国勢という機密ファイルを巡る三つ巴の戦いをベースとしながら、抑えきれない罪の意識で目がイッちゃってるチャン・ドンゴンが、ある決意の元に暴走します。ダークな色調の映像とやるせないストーリー、そしてタイトルの意味するところにシビれまくり。『アジョシ』のあのゲス兄貴も再登場。今回はゲスというより不運な男という感じではありますが、結果的にやはりゲスいという期待の裏切らなさ。トラックで押し潰すシーンはエグいです。

母親を失った男が娘を失った母親と邂逅するとき、残された者が失われた者を想い涙することが出来るのです。

↓以下、ネタバレ含む。








高度な戦闘スキルを持つ男とその男の人生に影響を与える少女という構造から『アジョシ』と比較されるのはやむを得ないでしょうね(監督はその比較論にウンザリしてるそうですが)。しかし、少女を救うために命を懸け「生」へと向かう『アジョシ』に対し、『泣く男』は少女を殺してしまった罪を贖うために命を投げ出すという「死」へ向かっており、ベクトルとしては真逆を向いています。だから少女を取り戻すというカタルシスを期待できる前者とは異なり、後者は始まりからして埋めようのない喪失感があります。

ゴンと少女の母親モギョンが会話を交わすエレベーターのシーンで、ゴンは「韓国は線香の匂いがする、銭湯の匂いがする」と言います。母親との思い出と母親の死に直結してるわけですね。廃墟の銭湯のカットは何だと思ったらそういうことだというのがラストに分かります。こきたない垢擦りが落ちてるなーとか思っちゃって何かすいません。この二人が唯一交わるエレベーターのシーンで「銭湯の匂い」という大事な思い出からの連想が口をついて出てしまうのは、己の母親との死別をモギョンと娘の死に重ねているからで、彼女の大事な繋がりを断ち切ってしまったという思いの表出です。ほとんど感情を見せないゴンの心情をここで知ることができるわけです。ゴンが組織を裏切るのは娘のビデオを見て泣くモギョンを見たのがきっかけですが、これも自分が同じように母を思い泣いていたからという対比となっており、「泣く男」の意味が分かります。

自分が殺した娘の母親が次のターゲットという時点で「殺しはしないだろう」というのは分かるし、己の罪を償う方向に行くのも予想はできるんですが、そこに至る経緯の説得力ですね。例えモギョンを守っても罪が許されないことは分かってるから娘を殺した男だと言って撃たせます。最後に殺されるつもりなんだなってのは予想はできるんだけど、ヒゲの人がゴンの行動を理解してモギョンを殺さない、という展開があるのが良いです。ヒゲの人はゴンとはわりと親しかったのでしょう。ゴンが敵を皆殺しにして自分も死ぬというようにはせず、罪を償ったことを見届ける友人がいたという展開にする。これにより魂の救済を感じさせるという決定的な味を出せたと思うのです。『ウルヴァリン:SAMURAI』にも出てたヒゲの人、ブライアン・ティーが良いですね。つーかよく生きてたなヒゲ。

引っかかる点もあります。プロの殺し屋にしては正直罪の意識を感じすぎという気はしなくもないし。あとコメディっぽく出てきたお掃除おばさんの役割が、モギュンがセキュリティカードを手にするためだけというのも味気ない。それに例え命が助かってもモギュンが救われることは決してないため、実質的にはどうやってもゴンの自己満足にしかならない話なんですよね。でも男同士がぶつかり合う気合の入ったアクションで彩ることにより視点をゴン側へ固定し、罪を問い罰を受ける物語へと自然にシフトしている。そこが上手いと思うのです。


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