2014
10.24

響き渡る魂の叫び。『誰よりも狙われた男』感想。

A_Most_Wanted_Man
A Most Wanted Man / 2013年 アメリカ・イギリス・ドイツ / 監督:アントン・コービン

あらすじ
スパイはつらいよ。



ドイツのテロ対策チームを率いるバッハマンがイスラム過激派に対抗するべく暗躍する、リアル路線のスパイもの。原作は『裏切りのサーカス』ジョン・ル・カレ。主演はフィリップ・シーモア・ホフマン。これが彼の最後の主演作になります。

スパイものながら派手なシーンはほとんどありません。ホフマン演じるバッハマンも決して感情的にならず淡々としているように見えます。でもノートPC越しの鋭い眼光、揺れ続ける紫煙、人を説得するときの固定カメラでの緊張感などにより、進行する事態の重さや心を削ってのやり取りが表されています。

過去のダメージを抱えながらもテロを防ぐためにあらゆる調整をし、排除し、時には利用するバッハマン。役者たちの息づかいやため息が聞こえる臨場感。目的のために手段を"選ぶ"人間性。味方を敵に回してでも進もうとする棘の道。仲間内や国家間の思惑も絡み合うなか、ある目的を持って辛抱強い諜報活動を続けるバッハマンのチーム、そしてターゲットのイスラム青年と女性弁護士、彼らが繰り広げるドラマに釘付け。

フィリップ・シーモア・ホフマンはその存在感が際立っていて本当に素晴らしい。夭逝が残念でなりません。レイチェル・マクアダムス、ウィレム・デフォーなどの脇を固めてる面子も良かった。ドイツが舞台ということで『ラッシュ』ニキ・ラウダことダニエル・ブリュールも出てますね。

激昂の叫びが響き渡り、苦みと共に余韻が残ります。

↓以下、ネタバレ含む。








ほとんど激情を表さないバッハマンですが、どこでも煙草を吸い続け、コーヒーにまで酒を入れる。騙し合い、化かし合いのストレスなのか気分を落ち着けるためなのか、とにかくギリギリの状態であるのが伝わってきます。

邪魔を排除し、調整し、無理をして、それでも長期的平和的に進めようと慎重に積み重ねてきた塔を、一気に崩される苦み。同僚もアメリカさんも梯子を外してそれきりというところに冷徹な諜報活動の本質が見られます。結局利用されたのはバッハマンの方であり、そこに至ってタイトルの意味も分かるのです。それまで淡々としていただけに、最後のホフマンの渾身の「Fuck!」には魂の震えさえ感じます。あの一言に込められた思いの表現が素晴らしい。ラスト、さらなるダメージを食らったバッハマンの悟ったような諦めたような表情、そして車を降りて何処かへ去っていく苦さ。

なぜこの仕事を続けるのか。CIAの女性は「世界を平和にするためだ」と自嘲気味に言います。それを受けて作戦の説明の場で同じ言葉を引用するバッハマン。これがジョークでもポーズでもなく本心だったのでは、と感じさせるのが余計苦いです。


誰よりも狙われた男 (ハヤカワ文庫NV)誰よりも狙われた男 (ハヤカワ文庫NV)
(2014/09/10)
ジョン・ル・カレ

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