2014
09.10

孤独な密室、それでも彼は戦う。『フライト・ゲーム』感想。

Non-Stop
NON-STOP / 2014年 アメリカ / 監督:ジャウム・コレット=セラ

あらすじ
リーアム・ニーソン、飛行機で暴れるの巻。



飛行機に乗るビルの元に「1億5000万ドル送金しなければ20分ごとに乗客を殺す」という謎のメッセージが。リーアム・ニーソン主演のサスペンス・アクション。

舞台のほとんどが飛行機内、しかもよくある荷物置き場や車輪近辺といった人がいない特殊な場所を使わず、あくまで舞台は客席、操縦席、CAスペースという同フロアのみ。それでいて停滞感はなく、客席を前から後ろへ滑らかに移動し時に飛行機の外へも視点が移るワンカットや、LINE的なツールでの犯人とのやり取りを浮かび上がらせるシャーロック方式と映像に工夫があって飽きさせません。

何より山のようなミスリードによるミステリーとしてのフーダニットの興奮。飛行機という密室にさらに密室が重なったりする閉鎖空間での事件。そして20分に一人誰かが死ぬというカウントダウンのスリルが緊張感を持続させており、物語の組み立てが非常に上手いです。謎が解けるシーンは久々に背筋が震えましたね。主人公が飛行機内で孤立するという構成は『フライトプラン』に似てるけど、後半が熱い。犯人が分かってからも失速しないんですよ。

ビル役のリーアム・ニーソンがさすがの、おっとこれ以上言わない方がいいかな。リーアム・ニーソンを存分に堪能できるとだけ言っておきましょう。ジュリアン・ムーアはもちろん、他のキャストの存在感も絶妙。粗がなくもないけど、観てる間はそんなことは全く気にならない、それだけ引き付ける面白さがまさにノンストップ。スリルとサスペンスにアクションとミステリー、ユーモアとヒロイックさと感動まで盛り込んだ、娯楽作のお手本のような一本です。

↓以下、ネタバレ含む。








最初の電話のやり取りなどで主人公のビルでさえ怪しいと思わせるんですよね。セキュリティでトレイに置くテープのようなものを意味ありげにアップにしたり。まあほどなくリーアムはさすがに犯人じゃないしテープは喫煙用の秘密道具だと分かるわけですが、そんな感じでとにかく伏線が豊富。タバコもね、やさぐれたリーアムの人物像を表すものと思いきや、犯人が何でもお見通しだぞと脅す材料にもなるし、2番目の犯行のトリック暴きにもなるというのが秀逸です。怪しいなって思う人物も最初に一通り見せますからね。見るからに怪しげなアラブ人とか、ガラ悪い黒人の若造とか、男といちゃつく美女とか、急遽入ったCA(ルピタ・ニョンゴ!)とか、人相悪いスキンヘッドとか。わざわざリーアムの隣に来るジュリアン・ムーアだって怪しいし、目配せをする副機長とCAのナンシーや、さらには「あの幼女もひょっとして……」とまで思わせます(思わないか)。

ところが黒人の若者はケータイ調べたら美女のおっぱい隠し撮りしてるただの小僧だし、その美女は二股かけたただのビッチだし、アラブ人は医者だしスキンヘッドは刑事だし幼女はただの超絶可愛い幼女だし、と分かってくる。分かりやすいのから意外なものまで伏線を張って、それを回収していく手際が見事。

見せ方も、ちょうど乱気流でガタガタ揺れることで誤魔化しながら壮絶なトイレの乱闘を繰り広げたりとか、リーアムが機内の人を延々と調べるシーンがずっとワンカットでスゲー!って思ったりとか、色んなアイデアが入ってます。騒ぐ乗客に対し「飛行機代をタダにする」で乗客を黙らせるなんてのも面白い(最後の「サンキュー」がイイ)。乗客が焦りを感じ行動に移すのが、急旋回したり人をエコノミーに集めたりというのが9.11と同じ状況だから、というのも説得力が高いです。

ミステリー部分については細かい点で「あれ?」みたいなところもあるので補足してみます(かなり好意的に)。第1の被害者の発生は偶然すぎな気がしますが、彼は秘密を暴露されて焦ってるし、麻薬のことがバレたら終わりだし、銃を持ってるし、それでいてビルが懐柔されないことは分かっているので、ある程度コントロールは出来たと言えるでしょう。万一ビルの方がやられたらターゲットを彼に変えればいいだけだし。ぴったり20分なのはまあご愛嬌です。第2の機長に関してはいつやったんだ?って感じですが、第3の被害者に毒が回るのにそれなりに時間がかかったことから、老婦人がトイレに行くより前に既にあの穴から毒矢を吹いていたと思われます。犯人がトイレから戻ってくるシーンが……えー、なかったかもしれませんが、座席の位置的にもトイレに近かったのは確かです。……やはりちょっと厳しいかな?犯人のヒントに関しては、例えば機長が死んで飛行機がふらつくことが分かってるからその前にさりげなくシートベルトを締めるとかありますね。まあでも分かんないですよ、一度容疑者から外しておいてアレですからね。二人目なんて「その職業にしてはマッチョ」くらいしかないですからね。正解率3.7%は伊達じゃないですが、でも「やられた!」っていう満足感があるので、ミステリーとしては僕はそれほど文句はないですね。

他にも気になる点を(これまた好意的に)補足してみましょう。犯人の動機がちょっとボンヤリしすぎてる、とは思いますが、これはあまり深い動機を与えても邪魔になるという判断があったのかもしれません。ジュリアン・ムーアを最初から信用しすぎじゃないかとも思いますが、あんなに離陸時にビビりまくる男に対しとても優しい対応してくれただけで女神に見えてもしょうがないんですよ。

と、面白かった作品だと実に都合よく補完してしまいますね。多分うるさがたのミステリーファンには細かいところで気に入らない点は多いと思うんですけどね、でも大体そんなこと観てる間は大して気にならないんですよ、ミステリーとアクションがシームレスに展開する構成にシビれちゃってるので。クライマックスなんて銃がフワッと浮き始めるシーンでゾクゾクするし、それを掴んで最高のキメ画で撃つリーアムには声が漏れそうでしたよ。リーアムが単なるヒーローではなく、心の傷を抉られても乗客たちを守るため敢えてそれを晒すという「傷付いた英雄」を貫いているのも魅力的。そして勇敢にも犯人に一発かますCAのナンシー、撃たれたり鼻折られたり医者に荒療治されたりとリーアム以上に傷だらけな刑事、そして力の入る見事なランディングを見せる副機長と、周囲の人物たちが単なる乗客という役割を超えて活躍するのが熱いのです。着陸後の乗客たちとのやり取りも泣かせるし(特に幼女の行為には感涙)、何よりこれだけのパニックものでありながら、事件を成立させるための犯人と被害者以外は誰も死なない、というハッピーエンドに対してそれほど不自然さを感じないんですよ。素直に「楽しかったー」と感じることが出来る。それはあらゆる王道が詰まってるということであり、そこがイイのです。

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