2014
07.09

渇きに喘ぐ奴らを嗤え。『渇き。』感想。

kawaki
2014年 日本 / 監督:中島哲也

あらすじ
ぶっ殺してやる!



失踪した娘を探す元刑事が辿り着く真相とは――このミス大賞受賞作を映画化。役所広司演じる主人公の藤島と、娘の加奈子の3年前の話が交互に語られます。この藤島が、娘を探すためには手段を選ばないかなりのクズ。そんな中でコンビニ強盗捜査に巻き込まれ、警察には疑われ、不良グループにはボコられ、ヤクザにもボコられ、どんどんボロボロの血だらけになるのが面白くてですね。もう不死身ですよ。正義感の欠片もないジョン・マクレーンですよ。そして子汚い顔面アップが多いのでかなりの役所エキスが溢れてます。

その他の登場人物もかなりイカれていて、常にニヤニヤ顔が貼り付いた妻夫木聡の見事なハネられっぷりも、オダギリジョーのごく普通に見える顔が不意に歪んだときに見せる狂気もイイ。でも不思議なことに、観終わって振り返ったとき浮かんでくるのは、劇中のあらゆる男が惑わされるという設定で「それほど魔性かなー?」と思ってた、小松菜奈演じる加奈子でした。役所広司と対を為す役どころとして大したもんです。二階堂ふみ様の扱いが酷いのはちょっと憤慨ですが。

この作品で特徴的なのは、とにかくカット数が多く2、3秒ごとに切り替わること。長くても5秒くらいなんですよ。エンドロールさえも流れるのではなく切り替わる、という徹底ぶり。この細切れ具合に、まるで劇中のドラッグと同じようなトリップさえも感じます。また過去への切替え方も最初は「3 years ago」と出ていたのが徐々におざなりになり、遂には現在とイメージを重ねる構成も観る者を惑わせます。グラインドハウス的タイトルバックはさすがにどうかと思うものの、ポップでクレイジーなパーティーシーンや『Free!』かと見紛うアニメシーンなども含め、中島哲也的な演出をさらに極端にしたような実験的かつ大胆な手法。ただ、この細切れ感のために体感時間が物凄く長いし、観てて結構疲れます。

残酷描写やバイオレンスシーンも多いので、耐性のない人が人気俳優が出てるからと言うだけで観るのはツラいでしょう。特に『仮面ライダー鎧武』のミッチでお馴染み高杉真宙のアレなんかは、叫び声の凄まじさもあってスゴかったから、エグいとかグロいとか言われるのも分かります(もっとグロい映画は山ほどあるのは置いといて)。ただ本当にエグいのは、娘のことを何も知らない父が、恫喝も暴力も本能のままに使って真相に迫るという過程自体に親子の繋がりを見つける、その構造の方だと思うんです。

↓以下、ネタバレ含む。








藤島は捜査能力は残したまま、刑事としての枷を外し解き放たれた男です。多くの刑事ミステリーのような「腐っても刑事」ではなく、その存在は完全にアウトローであり、どんな行動をするか分からないのが却って惹きつけられ目が離せない(逆に目を背ける人もいるでしょうが)。突然ブチ切れたり自分のことは棚にあげてクズをクズ呼ばわりしたりする。仕事も家庭も滅茶苦茶で、悪態を付きまくり後先考えず実力行使する姿は、常に何かにイラついているように見えます。最初から「渇いてる」んですね。そんな藤島が加奈子の捜索を始め、手がかりを元妻に話すとき「笑ってるわよ」と言われる。無意識のうちに渇きを癒す事件だと感じているんでしょう。そこには娘に対する心配なんてないんですよ。

でも捜索をするうちに加奈子に対する様々な評価を聞くようになります。仲間だったり憧れだったり、忌まわしい存在だったり指標だったり、天使だったり悪魔だったり。でも関わった人全てに破滅をもたらすことは一貫しており、愛する人を失った渇きを癒すためにあらゆる手段を使い他人を壊していく。そのためにはまだ中学生の少女がシャブ漬けになるのも何とも思わない。もはや本能での行動にしか見えず、本当に自殺に追い込まれた少年の恨みを晴らすためだったのかさえ疑わしくなります。でもそれはいくら復讐に励もうが彼が生き返るわけではなかったから、つまり加奈子の渇きが決して癒えることなく続くためだったからかもしれません。

それはやり直したいと願いながら決して叶わない藤島の思いと重なります。真相に近づくためにはオダジョーの家庭を嬉々として壊す。加奈子と同じように人々を壊していく過程で娘との繋がりを感じていき、「あいつは俺と同じ、あいつは俺なんだ」と言う。「トリッシュに対するナランチャか!」とも思いますが、もはや現実か妄想かも分からない「娘に愛してると囁かれたこと」を拠り所とする藤島は哀れとも言えます。ここはミステリーとしてはミスリードの役割もある「僕」とも重なりますね。

でもそんな渇きに喘ぐ人々を、所々に現れるシニカルな笑いで嘲笑っているかのようにも思えます。妻の不倫相手を殴ったらヅラが「スポーン」って飛んでいくところとか。妻夫木聡の人を食った「ハイ、かくほ~」からのかっ飛び!とか。そしてその嘲笑っているのは、雪原のどこかに埋まってもはや渇きから解放された加奈子のようにも思えるのです。


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