2014
07.06

人工知能は愛する妻の夢を見るか。『トランセンデンス』感想。

Transcendence
Transcendence / 2014年 アメリカ / 監督:ウォーリー・フィスター

あらすじ
生きてるってなあに?



死に際の科学者の意識をコンピュータ上にインストールし人工知能として蘇る、というSFスリラー。主演は白塗りじゃないジョニー・デップ。進化した人工知能が人類を「超越(Transcendence)」し、やがては人類を支配するのではないかという脅威に怯える話です。少なくとも表面的には。『ターミネーター』のスカイネットみたいなもんですね。

異なるのは、コンピュータが自我を得るのではなく、ウィルという科学者の意識を人工知能にアップロードするという点。だからそこにあるのはウィルの自我であり、彼と関係のある人はまるで彼自身と話しているように思えるのです。そこに人工知能の危険性を主張するテロ組織や人工知能に対する懸念を持つFBIが絡み、物語はきな臭い方向へ向かっていきます。

でもそんなのは表面的な話なんですよ。本筋はあくまでウィルとエヴリンという一組の夫婦の物語だと思うのです。そこには人の本質とは果たして何か、記憶なのか意識なのか肉体なのかという問題があり、それを分かりやすくしたのがコンピュータ上の人格です。逆に、意識しかない存在は愛する人に対し何をするか、そのためには持てる能力の全てを使っても許されるのか、という問いかけもあります。そういう意味では純粋なラブストーリーと言えなくもないでしょう。

監督はノーラン組の撮影監督の人なのもあって、自然物の美しさからナノマシンが宙に舞う壮大なショットまで映像で引き込む力は見事です。徐々に高まる人ならざる存在に対する恐怖、それでも断ち切ることが出来ない想い、といったことをちょっとしたカットと丁寧な描写を使い分けて見せてくれます。それにしてもどこに行ってもそこにいるジョニデというのは、使い方によっては『マン・オブ・スティール』のラッセル・クロウみたいで便利そう。とんだ巻き添えを食らうポール・ベタニーと、意外と小さいキリアン・マーフィーが良かったです。モーガン・フリーマンはいつも通り。あとネットジャンキーみたいなこと言う『パシフィック・リム』のテンドーさんことクリフトン・コリンズ・Jrが面白いです。

SF設定は単なる舞台装置で要は夫婦の話だと思います。思うんですが、それにしては人工知能とは、生命の倫理とは、みたいな比重も大きく、結果的にどうも半端な印象が残ってしまいます。

↓以下、ネタバレ含む。








人の脳も実態はシナプス間の電気信号のやり取りなので、それを解析しAI化してコンピュータ上にインストールするのは、実現性はともかく設定としてはありだと思います。でもそれには膨大な計算性能を持つ超スーパーコンピュータが必要だと思うし、実際それは劇中に登場するんだけど、ウィルの意識をアップロードするのはそのうちのこっそり持ち出したごく一部のコアだけなので「容量足りるの?」と思ってしまう。また、最近の人工知能分野でどういう捉えられ方をしてるのかは知らないんですが、何をどうアップロードしたのかがよく分からないのでそれがソフトウェアなのか何なのかが良く分かりません。そして最大の問題と思われるナノマシン、筋力増加や人体の欠損を再生するのは良いとして、人を操れるというのはいくら何でもナノマシン万能過ぎと思ってしまう。

僕も観たときは「雑だな」と思ったんですが、このコンピュータ周りの話は別にこれでいいのかな、とも思うんですよ。と言うか、SF設定はあえて濁していたのかなと。容量やら性能やらは些末な問題で、要はウィルがコンピュータ上にいる、という理解でいいと思うんです。ナノマシンはスリラー要素を高めるための小道具であり、人体を治すという奇跡、人を操る洗脳技術、という神にも等しい力を畏れた人々が未知なるものへの恐怖に駆られて襲ってくるということなんでしょう。

結局ウィルがその神の力を行使するのは全て奥さんのエヴリンの理想とする世界のためであることが分かります。ラブラブな夫婦なので、エヴリンはそれが世界にどういう影響を与えるかなんて考えてない。ウィルは行く先々に現れては脈拍や体温で相手の精神状態まで計る。ストーカー的に思えますが普通に心配してそこに持てる力を使っちゃってるだけなんですね。これ、序盤でいい大人であるウィルのシャツの袖ボタンを止めてあげるエヴリンと、約束すると答えるときちょっと斜め上を見るエヴリンの嘘を見抜くウィルに重なるんですよ。結局ウィルが生きてるときと同じようなことをやってるんですね。

……という感じでまとめようと思ったんだけど、ここで困ってしまうのです。と言うのは、じゃあ思考があればいいのかというとウィルは肉体を得てしまうし、エヴリンは結局ウィルス流してシステム止めちゃうし。あとその周囲、人工知能に対する論拠が曖昧すぎて過激な行動の根拠もよく分からないテロ組織、そしてそれをスケープゴートがどうこう言って利用しようとするFBIがマヌケすぎる。いきなり2年が経過するのは経過観察していたとか色々準備していたとかまあ理由を付けれなくもないとは思いますが、でもその2年でウィルのほうはとんでもない力を身に付けているわけなので、やはりマヌケに見えてしまう。

夫婦の話がメインだとは思うんだけど、論点があちこちに飛んでるように感じてしまい、どうにもちぐはぐ感が否めません。夫婦愛か生命の倫理観か超越の恐怖か哲学か、もっとどれかに寄せた方が良かった気がします。


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