2014
06.26

流され消えゆく神との絆。『ノア 約束の舟』感想。

Noah
Noah / 2014年 アメリカ / 監督:ダーレン・アロノフスキー


あらすじ
舟を出せ!ヨーソロー!(とか言ってる余裕ない)



世界一のベストセラー、聖書(正確には旧訳聖書の「創世記」)の中でも最も有名なエピソードのひとつ「ノアの方舟」を、長年企画を暖めてきたというアロノフスキーが映画化。主演のノア役はラッセル・クロウ。

聖書由来でも説教っぽさはあまりないですね。そういえば洪水の後ってどうなるんだっけ?という微妙にあやふやなところに色々とブチ込んで新たな解釈を成そうとしたアロノフスキーは見事だと思います。もうあらゆることが大変なんですよ。ノアは大変な目に遭うし、そもそも彼の扱い自体に家族が大変。目玉である怒涛の大洪水は超スペクタクルでもちろん大変。ヒャッハー世紀末感が満載の人間たちも容赦なくブッ潰されて大変。造形が『ロード・オブ・ザ・リング』や『ネバー・エンディング・ストーリー』を彷彿とさせる異形の番人たちも重労働で大変。ローガン・ラーマン演じるノアの次男はDTをこじらせて大変。おいおいどこかに心安らぐ要素はないのかい、おっと妻役のジェニファー・コネリー、あるいはイラ役のエマ・ワトソンがいるじゃないか!と思ったら、一番癒されるのがまさかアンソニー・ホプキンスだとは意外です。

そんな大変な世界の終末でノアの一家が辿る道が描かれるわけですが、いまいち心に響いてこないというのが正直なところ。これは神というものに対する認識の違いかもしれません。宗教的な基盤が知識のみというのと実際に信仰心を持っているのとではノアに対する印象は違ってくるでしょうね。

それでもぼんやりと疑問だったことが色々と描かれてて良かったですよ。そんなデカい舟どうやって作ったの?とか、あらゆる生物が乗ってて暴れたりしないの?とか。世界を覆う洪水なんてどこから来たのかと言えばどこからともなくドカーンって来るんだなとか。そして忠実な神の僕ノアがどういう思いで舟を作ったのか、そしてある意味人間らしいカインの役割は何か、そういったところが実はキモだったりします。派手な映像で魅せながら本質は全く違うところにあるのでしょう。

↓以下、ネタバレ含む。








ここは神が実在し、カインとセトの子孫たちが存在するという世界です。神は絶対的な創造主なので「人間ダメだわ。やっぱ滅ぼすわ」と思って洪水を起こすわけですね。でも劇中でも言われるように神は自分に似せて人間を作った、それだけにワンチャン与えようとしたんでしょう。ノアに実際にビジョンを見せて方舟を作るよう促すのです。

だから神と人間の話かな、と思うんですが、しかし実際描かれるのは人間そのものなんですよ。洪水から逃れようと方舟に殺到する人間たちの保身。ノアよりよほど人間くさいカインの最後まで神の選択に反抗する驕り。イラは腹の傷が治った途端に速攻子作りという、子孫を残そうとする本能。なによりノアは漂流後には神の声を聞いてないんですよ。以前はビジュアルが湧き出てきたのに「もういいだろう」という訴えに対しては神の返答はありません。その後は全て神の意志に従うという建前のノア自身の決断であり、神の使命か家族への愛かは人間ノアの選択なのです。次男ハムも神の使いを倒すのではなく家族を守ることを選ぶ。神懸ったホプキンスのメトシェラ爺さんは野いちごと共に濁流に消え、番人たちも光と共に天に帰って行き、もはや神話の世界は消えてなくなります。洪水後、ノアの行動に人類の行く末を委ねた神はそれ以降出てきません。人類の神との決別とも見れるわけです。実際原作(と言うとアレですが)では「今後は人間滅ぼすような洪水はもう起こさないよー」という約束もするそうで。

かくして救われた動物たちと共に人類は生き残ったわけですが、肝心のノアは新天地に辿り着いた後は泥酔して全裸で行き倒れるくらい罪の意識に苛まれるんですよ。なぜノアだったのかと言えば最後にイラが「善か悪かをあなたに選ばせたのよ」としたり顔で言い出しちゃうので(それはどうなんだと思うけど)まあそうなんでしょう。で、ようやく家族の大切さを再認識する。ここでやっと神から解放されるんですね。

あと原作では3人の息子にはそれぞれ妻がいたようですが、なぜにハムはぼっちのDTという設定なのか。洪水で他の人間は全滅したはずですが、それでも次男ハムは嫁さんを求め、神の使いだった親父の元から去っていきます。人間の罪の象徴である蛇、その蛇の皮を持っていたハムが一人旅立つことは再び人間の世界が拡がっていく象徴であり、嫁さん探しは人類を繁栄させるという目的の象徴に見えます。そして嫁さんどころかまだ子供の末っ子とイラの双子の娘はこれから人類がどうなっていくかという不確実性の表れであり、そこに未来への希望も含めているんでしょう。人間に対する容赦のなさを描いて、最後に人間賛歌のように終わる。これ美談のようにも見えますが、全人類に対する贖罪を背負って一人壮絶な苦悩を抱えるノアがわりを食ったように思えて、ノアは一番の犠牲者だよなあと少しせつなくなるのです。


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