2014
06.22

シャレた箱にはビターなケーキ。『グランド・ブダペスト・ホテル』感想。

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The Grand Budapest Hotel / 2013年 イギリス、ドイツ / 監督:ウェス・アンダーソン

あらすじ
コンシェルジュって大変。



仮想国ズブロッカ共和国の格式高いホテル、グランド・ブダペスト・ホテルのコンシェルジュが、富豪マダム殺害事件に巻き込まれるコメディ・ドラマ。監督は『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』などのウェス・アンダーソンということでその独自の作風を期待してしまいますが、これが期待を裏切らないどころかさらに上を行く出来。細部までこだわったカラフルで絵本的なポップさを持つ映像、独特のテンポの良さ、シンメトリーな風景や美術、横スクロール&縦スクロールのカメラ、そして少しの毒気とウェス・アンダーソン世界が全開で、これがもう楽しくてしょうがない。

計算しつくされた箱庭世界に個性的な人物たちがてんやわんやの大騒ぎ、次々出てくる豪華キャストのチョイ役ぶりも目が離せません。しかし全編甘そうな映像で魅せながら、実は戦時下というシビアな背景がそこにはあって、単純に甘いだけじゃないのが深い。時代ごとに画面サイズが変わるのだけは少し解せなかったけど、ちょっとした良いシーンが挙げきれないほどあって最高です。

主演のレイフ・ファインズはお客のマダムにはベッドでもサービスというコンシェルジュ、グスタフ役が大ハマり。ロビーボーイのゼロを演じたトニー・レヴォローリ君もイイです。あとシアーシャちゃんがもう可愛くてね!他にも似てると思ったら本人だったジェフ・ゴールドブラム、はまだマシで、ティルダ・スウィントンは『スノーピアサー』に続いて全く気付かなかったほどの変身ぶり。ウィレム・デフォーも凶悪なのにどこか笑えます。カメオ出演は誰が出るか知らずに観た方が楽しいかもですね。寄りの画が少ないので気を付けないと「あれ?今の誰だった?」ってなりかねないので注意です。

映像はスイートながら実はビターな話でもあって、サラッと残虐シーンなんかも混じってるので「カワイイ~♪」ってのだけを期待するとちょっとしたしっぺ返しを食らいますが、そこも含めてイイんですよ。個人的には同監督の前作『ムーンライズ・キングダム』より断然好きです。ちなみにエンドロールが超カワイイので最後まで観た方がいいですよ。

↓以下、ネタバレ含む。








キャストで言えば他にもエイドリアン・ブロディの胡散臭さとか(特にヒゲ)、わりと真面目なエドワード・ノートンとか、誰だか分かんなかったハーヴェイ・カイテルとか、メイド姿がたまらんレア・セドゥとか、ビル・マーレーやオーウェン・ウィルソンも出てる!とか印象深いです。またちょっとしたカットが良かったりしますね。例えば「当時のコンシェルジュの話をしよう」と言ったときに現コンシェルジュがついっと顔出すとか、ロビーボーイが描くヒゲの雑さとか、ケーキの箱のパタパタタンっていう開き方とか(うまく説明できない)。かと思うと冬季オリンピックみたいなふざけたスキーシーンがあったり、まさかの銃撃戦があったりと、派手というかあえて大げさにしてるシーンもあったりして愉快です。

指スパーン!とか刺殺シーンとか、あと生首ドン!などのシーンでは劇場のあちこちで「ヒッ!」と声が上がって面白かったです。可愛らしくオシャレな映像の中に冷酷なシーンもサクッと入ってるわけで、これはコメディの体裁は取ってるものの背景にシビアな世界情勢が絡んでいるからでしょう。現にゼロは戦争で家族を殺されたと言っているし、列車を検閲に来る軍人たちはナチがモデルだろうし。グスタフが各ホテルに電話連絡をまわすのも戦時下だからこその連絡経路なんでしょう。

これ、現代、過去(60年代)、過去(30年代)という三重構造の昔語りなんですね。画面のアスペクト比が時代によってシネスコ、ビスタ、スタンダードと切り替わって、個人的には画面が狭くなるのでちょっとなあと思ったんですが、時代性を画面サイズで表してるんでしょう。ともあれ現代で本を読む少女、本の中で老人ゼロから物語を聞く作家のジュード・ロウ、そしてグスタフの本編と物語は過去へと入っていき、30年代の冒険とグスタフの紳士っぷりを描いたあと60年代に戻り、さらに現代に戻って本が閉じられる。その本はホテルの鍵がぶら下がった石碑のようなものに置かれてエンド。そこにはゼロの思い出と、その思い出を共有した作家、さらに本によって思い出を共有した少女、というように受け継がれ語られていく物語を感じます。この構造が、正史では分からない戦時下の人々の歴史を形作っていく、そんなふうに思えるのです。

また思い出だから美化されて色鮮やかであるというのが理に叶ってるし、先に上げたスキーや銃撃戦がどこか現実味がないのも推測や伝聞だからと考えると腑に落ちる。物語の構造が特徴的な映像の理由付けにもなっているんですね。まあ映像の特徴は元々監督本来の味でもあるからそこは狙いかどうか分かりませんが、良い具合に作用してると感じるんですよ。今作が特に気に入った理由もそこにあるかもしれません。


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