2014
06.13

スターになれなかった男の諦念。『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』感想。

inside_llewyn_davis
Inside Llewyn Davis / 2013年 アメリカ / 監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン

あらすじ
ちょ、ちょっと、あーッもう!(と猫を追う)



ボブ・ディランに影響を与えたというフォークミュージシャンを描く、コーエン兄弟監督作です。2013年カンヌでのグランプリ受賞。

1961年のNY、ライブハウスで歌うミュージシャンのルーウィンは何をやっても上手くいかず、知り合いの家を転々として覇気のない目で日々を過ごします。孕ませた女性には罵倒される、発表したアルバムの印税を当てにするも事務所の社長にはぐらかされる、寒いのにコートもない、そして歌うのは生活のためだとうそぶく。それでも音楽に対する情熱やプライドを失わないルーウィン。それは表だった主張ではないけれども、彼が歌うたびにそれは垣間見えます。ツキに見放されながらも歌う彼を見て、実力だけでは上手くいかない人生の無情さを感じ、それでも音楽の力に少し救われた気になります。

主演のオスカー・アイザックの歌がスゴくイイ。冒頭とラストの意外な繋がり、そしてその差異で見えてくるルーウィンの想いというのが沁みます。キャリー・マリガンのブチ切れかたは意外と迫力(でもカワイイ)。そして安定のジョン・グッドマン。あと猫がイイんですよ。追いかけてきたり、逃げ出したり、間違えたり、置いてきてしまったり、起こしに来たり。その自由さはルーウィンの求めるものにも思えるし、その存在は何が起こるか分からない人生の投影にも思えます。これが行き詰まってどうしようもない閉塞感にちょっとしたアクセントを加えていてイイ。象徴性は高いですが、単にニャンコに翻弄されるルーウィンを楽しむのもあり。

ルーウィンのモデルはデイヴ・ヴァン・ロンクという実在の人物で、この物語は彼の回顧録にインスパイアされたものだそうですが、本作自体はユーモアを交えつつもやるせなさを描くコーエン兄弟らしい仕上がり。これからフォーク全盛の時代が来るというなか、ルーウィンは早すぎた才人なのか。それでも人は生きていくのです。

↓以下、ネタバレ含む。








もしやジョン・グッドマンとの旅路で何かが変わるのかと思いきや、結果は何も変わらないですね。あのくだりはグダグダでちょっと長いなあと思ったけど、誰かの力で大きく変化するとは限らないってことなのかもしれません。寝てる以外はずーっと喋ってるジョン・グッドマンですが、偉そうなことを言いながら何も成してないし何も言ってないも同然の、ただいるだけ感ね。人生そんなことだらけなわけですよ。そんな三人での旅から帰ってきた後ルーウィンが目にする映画のポスターが『三匹荒野を行く』なのが面白い。置いていかれた3匹の犬猫が引っ越した飼い主を求めて旅をする話で、これはハッピーエンドなんですけどね。ポスターを見るルーウィンの「だからなに?」って顔がウケます。

ヘルプで参加した友人の曲はヒットし、シカゴまで行きながら金の臭いがしないと言われる。友人の彼女を妊娠させるというのはもちろん自分の責任ですが、こと音楽に関してルーウィンはツイてないのです。半分死んだような目で食っていくために仕事をし、プライドもあるけどあまり相手にされず、時折忘れかけた情熱が表に出る。周囲に流され、トイレの落書きに煽られ、別の道を模索していく。ああ……もうね、このやるせなさがまんま自分を見ているようで刺さるんですよ。何のために歌っているのか?本当は好きだから歌っているはずなのにそうは言えない。「古くて新しけりゃフォークソングだ」と自虐的な笑いを取る。おかしみはあるけど悲しいです。

でもルーウィンからはそれほど悲壮感を感じないんですよ。実は子供がいたなんていう驚きの事実も発覚するのに、そこから話が広がるわけでもない。だから淡々としているように見えるし暗くもならないんだけど、実は結構劇的ではあるんですよね。傍から見たら劇的でも本人としてはそれを重大事と見なせない。ルーウィンのツキのなさはそんな掴み取るべきことを手繰り寄せない諦念にあるのかもしれません(それでも猫だけは追いかけるのはやはり追い求めるものの投影なのかも)。

彼の諦念の理由はラストに明らかになります。恐らく最後になるであろうステージで最後に歌った曲は、自身のアルバム『Inside Llewyn Davis』の曲、ではなく、かつてデュオを組んでいた相棒マイク・ティムリンと歌っていた曲『If We Had Wings』。同じシーンを描く冒頭では流れなかったこの曲を最後には流したことからも、この曲への思いが本当に重要だったことが分かります。かつての相棒が橋から身を投げたことにルーウィンはどれだけの絶望を抱いたのか。詳しいことはほとんど語られませんが、それ以来ルーウィンは諦念から逃れられなくなったのかもしれません。

ラストにルーウィンはヤジった女性歌手の旦那に殴られ、彼が去って行く間際「あばよ」と言いますが、あれがそれまでの生活や諦念との決別でもあるとしたらそれは喜ばしいことなのか悲しいことなのか。ライブハウスを出てくる直前に歌っていたブレイク前のボブ・ディランが輝けるフォークシーンの「スター」の象徴なら、ルーウィンはその他大勢の人々に近い「普通」の象徴です。そんなスターになれなかったルーウィンでも、自身の愛する音楽を奏でるときの姿は素晴らしいし感動的。それは大部分の「普通」の人にも存在する瞬間なのかもしれない。そこが大切なんだと思います。


インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌 [Blu-ray]インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌 [Blu-ray]
(2014/12/17)
オスカー・アイザック、キャリー・マリガン 他

商品詳細を見る


インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌 [DVD]インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌 [DVD]
(2014/12/17)
オスカー・アイザック、キャリー・マリガン 他

商品詳細を見る

スポンサーサイト
トラックバックURL
http://cinemaisland.blog77.fc2.com/tb.php/786-ac4faae2
トラックバック
back-to-top