2014
05.25

森と共に生き、ふんどしを締めよう。『WOOD JOB! 神去なあなあ日常』感想。

wood_job
2014年 日本 / 監督:矢口史靖

あらすじ
ニューヨークの女に気を付けろ!



大学受験に失敗し彼女にもフラれた青年・勇気が、たまたま目にしたパンフレットの表紙の女性に惹かれ1年間の林業研修に行くお仕事コメディ。いやあ、これは面白い!笑った。

主人公の勇気は、カワイコちゃんに会えるという期待だけで全く未知のジャンルである林業にやってくるという、それだけで十分にボンクラなんだけど、挨拶もろくに出来ない、鶏みたいな頷き方、言葉の言い出しが必ず「あのー」で始まるという、都会の若者のダメなところをまとめて体現したような人物です。ぶっちゃけて言えばこの主人公が林業という仕事を通して少しだけ変わる話なんですが、この「少しだけ」ってのがイイんですよ。劇的に変わるわけではないけど、今までと全く違う世界があり、土着的な慣習や信仰というものがあり、当事者でなければ理解できない仕事というものがあり、それらを受け入れることで「人生、悲観ばかりでもないかも」と思わせるんですね。

別に一人前の山の男になる話ではなく、そういう意味ではライトだから観やすい。かと言って軽いわけではなく、大自然の雄大な景色に心洗われるし、それでいて林業という職業をしっかり描いてそこに半端な憧れを抱くようにはしていないし、よそ者が簡単に受け入れられる土地でもないということも描く。そういう点がフェアですね。物語の展開が良い意味でストレートで、最初は全く肩入れ出来ない主人公にも徐々に気持ちが移っていくのも心地よいです。心地よいと言えばコメディとしての笑いもそうで、無理に笑わせるようなギャグではなく、日常の一幕だからこそ生まれる笑いと言うのがイイです。

勇気役の染谷将太の覇気のなさと序盤のムカつかせ具合が見事です。しかし何と言ってもヨキ役の伊藤英明、そのあまりにハマりすぎなマッチョ&ワイルドさが最高!最初に態度の悪い勇気にガツンとブチかますところとかイイですねえ。また、遠くから手前の車に走ってくるワンショットなんかは、その素晴らしい身体能力とタイミングに驚く名シーンです。しかもその後すぐ雨が降るんだけど、荷台に突っ立ったまま全く気にしない英明!あと特筆は手鼻です、あれ何気にすげえ!とにかくその野生児ぶりは必見。光石研やマキタスポーツなどの安定感も脇としてキッチリ支えてくれます。あと言うまでもないんだけど、ヒロイン直紀役の長澤まさみがカワイイです。ちょっと気の強いところとかね、他にもたとえば(この点に関しては長くなるので割愛)。ちなみに男衆はみんな本当にチェーンソーで木を切ってるんですよ。しかも切るときの腰の落とし方とか目線が木じゃなくて倒れるほうを見てるところとかの本職っぽさが実に様になってて、その安定感が画的に説得力を伴うんですね。そこから木が倒れたときの地響きの迫力とか、木を嗅ぐシーンでホントに新木の匂いが香ってきそうとか、随所で臨場感を感じるのがイイです。それでいてGPSを使ったりという現代的な側面もちゃんと描いてるのも良いバランス。

若干ご都合主義を感じるところもなくはないけど、山の仕事をしっかり描きつつ最初はムカつく主人公に共感できるようになっていきます。あ、でも世代によってどの登場人物に寄って観るかが変わってきそうですね。僕は伊藤英明寄りでしたが、学生なら染谷将太だろうし、もっと年配なら光石研とか。女性なら長澤まさみか優香か西田尚美で分かれるんですかね?そんな風に分かれるのも、それぞれがどういう人物かが良く分かるよう描かれてるからでしょう。細部までキッチリ作ってある感じも非常に好感を持てます。エンドロール後のちょっとしたおまけもとても爽やかでイイ。

ホラー映画に慣れきってる人には、チェーンソーは人ではなく木を切る道具だというのを再認識させてくれますよ!

↓以下、ネタバレ含む。








勇気は前述のように成長するのは少しだけなんですが、それらが正しい方向を向いているのが良いんですよ。例えば大学のスローライフ研究会がその場のノリで騒ぎ、知ったような口を利くただのピクニック気分なのを、腹を据えかねて追い返すシーン。また、トラックの荷台で他の者がやっていたように山の歌を歌い出し、そこに皆も苦笑気味ながら乗ってくるシーンとか。まだまだ足りないけどそれでもなんだか正しく成長してるな、というのが感じられるんですよね。そしてほかの面子との信頼関係もじわじわと深まっていきます。特にヨキとはニューヨークの女に関する秘密の共有もあったりして(ヨキは気にしてないかもしれないけど)。だからあれだけ勇気を怒鳴り散らしてたヨキが、別れのシーンで号泣するところとかね、そりゃこっちも泣きますよ。あと祭りの準備をしているとき「そうか知らないのか」と言って勇気以外皆がハッハッハーと笑うところ、あそこなんかは先輩たちが可愛い後輩をビックリさせてやろう的な連帯感があっていいですね。

勇気に関しては、パンフ表紙に長澤まさみが載ってるだけで林業研修なんか行くか?と思ったけど(長澤まさみなら行くかもしれないが……)、単にカワイイ子に会えると思ったというよりあれは一目惚れに近いんでしょうね。そう考えると、彼女の所在をしつこく尋ねるのも、最初の脱走時に駅まで行きながら電車に乗らなかったのも納得できる気がします。ただ、最後に直紀が「愛羅武勇」の手拭いを掲げるのはさすがにラブ度が早すぎるような気もしなくもないですけど。あと東京に戻って来た勇気が親の顔も見ずに戻ってしまうのは、ちょっと親をないがしろにしすぎな感じがしてどうかなーとは思いました。せめてハブ酒は直接手渡してすぐに旅立ち、そして残されたハブ酒を見て親が呆気に取られつつも息子の成長を喜ぶみたいな感じが良かったですね、個人的には。まあ些末なことですけど。

この物語で特に良かったのは、山に入るときは手を合わせたり、山神の日には山に入らないなど、山は神聖なものというのが土地に根付いているのをしっかり描いてること。だからそんな神聖な場所を軽々しく囃し立てる学生たちの軽挙に腹が立つし、「あの手」も不自然に感じないんですね。手のシーンについてはご飯粒で分かりやすくしてるのも逆に微笑ましいし、その後勇気が手のことを思い出して見比べるように直紀の手を握り、直樹がちょっとドギマギするという、恋愛方向の演出にもうまく働かせているのが上手いです。

そんな積み重ねがあるので、祭りに向かう男たちがこちらに歩いてくる姿は高潔な任務に旅立つようにさえ見えるんですよ。まるで人類を救うべく宇宙へ旅立とうという『アルマゲドン』のようです。ふんどし一丁だけど。だから祭りのラストのアレも決して下ネタではなく、五穀豊穣、子孫繁栄という昔ながらの大切な行事の一環として納得できるんです。さすがに「モロかよ!」と思わなくもないですが。でもデカさがハンパなくて豪快なので却ってイヤらしさがないですね。そんな勇壮な景観と勇気が木に乗って滑り落ちてるときのグッタリ感がこの物語のギャップの面白さを象徴していて、見事なクライマックスだと思います。


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