2014
03.28

踏みにじられた12年間。『それでも夜は明ける』感想。

12Years_a_Slave
12 Years a Slave / 2013年 アメリカ / 監督:スティーヴ・マックイーン

あらすじ
ヨルダン川は流れ行く。



1841年、ワシントンに住むバイオリニストのソロモン・イーサップが、ある日突然拉致され奴隷として南部に送られた実話を元に描くドラマ。2014年アカデミー作品賞受賞作。

原作はソロモン本人の手記である『12 Years a Slave(12年、奴隷として)』。つまり奴隷視点から描く奴隷制度です。これはキツそう、ということで相当覚悟して観ましたが、ホラー映画並のゴア描写を覚悟してたためビジュアル的にはそこまで残虐でもない……そんなことないか。直接描いてない描写も多いだろうし、肉体的よりも精神的にかなりキます。自由黒人だったソロモンがいかにして奴隷となったのか。支配とは相手を精神的に屈服させることである、というのが嫌でも分かります。観てる途中で思わず「今すぐ『ジャンゴ 繋がれざる者』を観てスッキリしたい」と思ってしまいました。

主演のキウェテル・イジョフォーはとてもいい顔してるなあ。この人スゴくイイ。あとマイケル・ファスベンダーの狂った農園主ぶりと奇跡的なコケ方も素晴らしい。ベネディクト・カンバーバッチのいい人そうに見えて結局そもそもの価値観が異なるという見せ方も良いです。チョイ役ですが重要な役割でブラッド・ピットも登場。

ソロモンが拉致されたのが1841年、それから12年間というと1853年ですか。『リンカーン』でも描かれていた「奴隷解放宣言」はそれから10年も経ってから、1863年になります。

↓以下、ネタバレ含む。








「ここで逃げれば」って場面が何度もあって、実際逃げようとするんですよ。でもその度に失敗して繰り返されるんです、絶望が。最初の方でソロモンと同じく捕まった人が「奴隷の州に入ったら終わりだ」って言うけどまさにその通りで、これは南部では価値観が根底から違うからなのです。黒人は人間ではなく家畜かペットなのです。捕えられた建物のすぐ背後にはホワイトハウスが見えているというのが恐ろしい。

延々と続く首吊りのシーンは背後が普通の日常なだけに凄まじいです。でも誰も助けようとしない。吊られるのさえ日常の範囲内だからなのか、見ないようにしているからなのか。それはソロモンがポール・ダノ演じるティビーツに連れていかれる女性に何もできないのと同じです。こうして保身のための見て見ぬふりが習慣になっていく怖さ。奥さんや家の者も見てはいるが何もしない。殺されそうになるのを助けたのは奴隷が所有物であり、家畜が死ぬと労働力が減って困るからです。ようやく助けたご主人のカンバーバッチに自分が自由黒人であると訴えても更なる絶望が待っているわけです。

スティーヴ・マックイーン監督の演出で際立ってたのは「ずーっと見せる」こと。「全てを見せる」わけではないんですよ。前述の首吊りシーンもそうだし、最初捕まってムチで打たれるシーン、ここも長い。え、まだ続くの?もうよくない?と思っても続く。それから死者を悼み奴隷たちが「流れよ、うなるヨルダン川よ」を歌うシーン。印象的なメロディが延々と歌われるなかソロモンのアップがしばらく続いたと思ったら、それまで奴隷たちと一緒には決して歌わなかったソロモンが遂に一緒に歌ってしまう。彼が耐え切れず屈服した瞬間です。その後に大事なはずのバイオリンを破壊しても激情も何もなく、ただ壊れたバイオリンが映されるだけ。臨場感ではなく観る者に染み入らせるための長回しにより、これが否応なしの現実であると認識させ、反抗心が諦念へと変わっていく経緯を示しているのですね。

もうひとつ異様な長回しとして、終盤のソロモンのアップを延々と流すシーン。これはどうやら長い時間の経過を表していると思われますが、この表現の仕方には驚嘆。恐らく敢えてだろうけど、どのくらい年月が経ってるのかハッキリするシーンってあまりないんですよ。季節が巡ってまた収穫時期が来るってのはありますがそれも何年目なのか分からない。だから最後に馬車に乗ってる時のソロモンのアップで、髪に白いものが混じっているのを見て初めて12年もの歳月が流れていたことを知ります。奴隷としての生活を「ずーっと見せられて」いたせいで、12年で終わると知っているにも関わらすこれが延々と続くのではないかと錯覚してしまったのです。安堵を感じるより、取り返しのつかない時間のやるせなさだけが胸に残ります。

ラスト、成長した子供たちに再開するソロモン。しかしそこには夢にまで出てきた奥さんの姿はありません。語られませんが亡くなったんでしょうか。だとしたら更にやるせない。人類にとって本当の意味で「夜は明けた」と言えるのはそれから何十年も後のこと。いや、実際は未だに夜の闇は続いているのかもしれません。


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