2013
12.24

反転する滅びの美学、それは生への執着。『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』感想。

Only_Lovers_Left_Alive
Only Lovers Left Alive / 2013年 アメリカ / 監督:ジム・ジャームッシュ

あらすじ
血が飲みたいです。



デトロイトとタンジールを舞台に倦怠な日々を送る21世紀の吸血鬼たちを描きます。ジム・ジャームッシュ作品はこれが初めてで、もっとアートすぎてよく分からない感じなのかと勝手なイメージを持ってましたがそんなことはなかったです。吸血鬼ものと言ってもアクションは皆無で、吸血鬼らしさも血を飲まないと生けていけないとか昼間は出歩けないくらい。でもどのシーンを切り取っても絵になる耽美な世界がそこにはあって、不死身の存在ならではの持て余した感が全編を包み込みます。

トム・ヒドルストン好きは必見ですよ。ギター弾くトムヒ、バイオリンを掻き鳴らすトムヒ、上半身裸率高めのトムヒ、全裸で寝てるトムヒ。で、クールで孤高かと思ったら単にやる気のないトムヒというね。ティルダ・スウィントンは『ナルニア国物語』の魔女役もハマってましたが、血の気の薄い表情が吸血鬼っぽいです。この夫婦は様式美に沿っていて優雅でさえあるんだけど、ミア・ワシコウスカ演じる妹ちゃんはむしろ真逆、本能のままに動く駄々っ子。この対比が効いています。

雰囲気で観るシャレオツ映画のように思えますが、これが滅びの美学と思わせて実は生への執着を描いてるんですね。思い返すと、血を飲んだときの陶酔した表情が全てを物語っていたのかもしれません。

↓以下、ネタバレ含む。






何百年も同じものを着てるって設定はちょっとアホっぽというか「お金ないんかな?」とさえ思えますが、実際は血を手に入れるために大金を払っているので、これは「変わらないこと」の象徴でしょう。衣服にさえ不死性を表しているのです。また吸血鬼たちは昔はクラシック音楽やシェークスピア文学を生み出し、今は若者が熱狂する最先端の音楽を生み出しており、芸術は色褪せないという、これまた吸血鬼にも通じる不死性の象徴が伺えます。

一方ジョン・ハート演じる老吸血鬼が死を迎えるというのはそれとは逆の象徴。不死の者が緩やかに滅びの道を辿ることを匂わせています。悪い血を飲んだから死す、というのは昔はよかった的な懐古主義にも見えるし、それはアダムが年代物のギターを集めていることにも感じます。惜しむべき古き良きものが失われていくこと、不死とは逆の死の象徴です。

不死でありながら死に怯えて生きる吸血鬼が感じることは何か。それは諦めにも似た倦怠です。回るレコードと部屋がシンクロする冒頭からして、何百年も繰り返される気だるさが滲み出ます。人間のことをゾンビと蔑みながら、人間なしでは生きられない憐れさ。それがアダムとイヴの立ち位置です。これをさらに浮き立たせるのがミア・ワシコウスカ演じるエヴァの存在。自由気まま、暗黙の掟など気にもしないエヴァは、世界に迎合する主役夫婦より生き生きしています。変わらないもの、失われるもの、そんなものは意に介しません。

死を覚悟したアダムはたまたま見かけたレバノン人の女性ボーカルの歌を聴いて新たな才能の存在に満足し、イヴは有り金をはたいてモロッコの民族楽器ウードをアダムに買い与えます(アダムの金だけど)。美しいものはどこにでもある、決して滅びはしない。だから自分たちが滅びても問題ない、とでも言う様に。

ところがですよ!ここまで滅びの美学を延々と綴ってきておきながら、それをラストに根こそぎひっくり返すわけですよ。いやもうやっぱ血ィ吸いたいわ、と。転生させりゃいいよね、と。不変なる美を愛でるのも新たな才能を見出すのも、生きてなければできないとでも言わんばかりに、ここで吸血鬼としての本領=人の生き血を吸うという種としてのアイデンティティが一気に爆発するのです。全てを台無しにしかねない最後でありながら、ありのままの姿をさらけ出すことで、生きることこそ最優先という結論に反転させている。そうしてまた倦怠の日々が始まるのだとしても死ぬよりマシというような……うーん、ひょっとしてこんな葛藤をもう何度も繰り返しているんじゃないか?

そしてアダムは明日もギターを弾くのです。


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