2013
10.26

父になる、の意味するところ。『そして父になる』感想。

sosite_chichini_naru
そしてちちになる / 2013年 日本 / 監督:是枝裕和

あらすじ
血のつながりか、共に過ごした時間か。



産院での子供の取り違えが発覚し、6歳になる息子が自分の子供ではないと告げられた家族を親視点で描きます。これが同時期に同じリリー・フランキー出演で公開の『凶悪』よりキツかった。自分の子に同じことが起こったら、と考えずにいられない。愛する者との別れ、愛すべき者との出会い、そこにはあるべき論では語れない葛藤があります。

一流企業に勤め生活水準も高いが、子供への要求も厳しい野々宮。冴えない町の電気屋だが、子供との時間を何より考える斎木。この両家が徹底して対照的に描かれます。これは何が重要なのか、どこに焦点が置かれるべき話なのかという点でとても分かりやすい。それだけに観る者を追い立ててきます。

子供たちの演技がとても自然なのがイイ。ピアノの発表会がシャレにならない慶多も良いですが、父親に似たがさつさで絶望的な気分にさせてくれる琉晴がまた良いですね。「オーマイガッ」がウザいところとか。しかし何といっても福山雅治の野々宮という役へのハマり具合が抜群。胡散臭いながらも人を惹きつけるリリーさん、良い妻、良い母であろうとする尾野真千子、気風が良く母性にあふれた真木よう子、みんなドンピシャなキャスティングで素晴らしい。真木よう子にあんなウインクされたらあの弁当屋通いますね。いやもう絶対通うわ。

キツい話ではありますが、野々宮の親としての成長がとても納得のいくもので、思ったよりも観賞後は重くないです。ピアノ曲などの音楽でやわらげているというのと、やはり愛情の表現があるからでしょう。終わり方もイイ。観た後にいろんなシーンに思い出し泣きしそうになります。

↓以下、ネタバレ含む。








どうも斎木家のほうが正しいみたいに見えちゃいますが、そうとは一概に言えないわけですよ。小さい子供なら一緒に遊んでくれたりオモチャ直してくれたりする方に惹かれるのは当然で、将来を見据えた躾をしようとする野々宮が間違ってるわけでは決してないのです。確かに子供と過ごす時間は大事だけど仕事だってしなきゃいけない。斎木家が将来苦労しない保証だってない。だって店の名前が「TSUTAYA」ですよ?ヤバいですよ。「やっぱりそういうことか」というセリフは確かに酷いけど、ショッキングな現実に対するいら立ちから、過去の事象を照らし合わせてうっかり出てしまっただけだとも取れます。

野々宮が子供に愛情がない訳でもないでしょう。問題は子供に自分の理想を押し付けていること。琉晴君が「なんで?」って何度も聞き、それに対して野々宮が答えられないのがそれを物語っています。これは斎木が指摘しているように野々宮自身の子供時代が影響を受けているのでしょう。明確には語られませんが、野々宮は恐らく父親の連れ子で、高橋和也演じる兄は母親には気安く父親に敬語なので母親の連れ子なのでしょう。ここで注目すべきは義兄だけでなく野々宮自身も父親には敬語で話すということで、この親子の関係が封建的だったことが伺えます。そのため父親、または父親的な人に無意識に従ってしまう。國村隼演じる上司に言われた「二人とも引き取っちゃえよ」とか夏八木勲演じる父親に言われた「時間が経つほど向こうに似てくる」とか、そのまんま言っちゃう。だから自分が父親に受けた態度を、そのまま自分の子供に対しても引き継いでしまっていると思われます。

そんな自身の封建的な親子関係を払拭し、子供と正面から向き合えたことが重要なわけです。琉晴と銃撃戦ごっこに興じ、テントを買い込んで室内キャンプをし、必死で打ち解けようとしてそれでも「帰りたい」と言われながらも「いいんだ」と受け入れたこと。そして慶多が残した写真で子供には子供の思いがあることを知って「ミッションは終わりだ」と告げ、劇中では唯一となる慶多を抱き締めるラスト。二人の子供に対する現実を素直に受け入れたとき、野々宮はようやく自分の父親からの呪縛を解かれ「父」となったのでしょう。

父だけでなく母も忘れてはいけません。特に目を引いたのは、尾野真千子が「二人でどこか行っちゃおうか」と言い、ちょうど電車がホームに入って真っ暗になるシーン。あれは彼女の絶望と愛情がないまぜになった心情として強烈でした。また真木よう子が「うちは二人引き取ってもいいんだよ」と、かつて野々宮に言われたセリフでやり返すのは痛烈。母親同士では電話でやり取りもしてなんとか現実を受け入れようとしている。男が父になる頃には、女はとっくに母としての強さを持っているのでしょうね。


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