2013
10.20

求めるのは飛翔する思い。『トランス』感想。

trance
Trance / 2013年 イギリス / 監督:ダニー・ボイル

あらすじ
盗んだ絵をどこに隠したか忘れました。



消えた名画を探して失われた記憶を辿るサスペンス。ダニー・ボイルのロンドン・オリンピック後初の監督作ということでどんな感じになるのかと思ったら、これが予想外に攻めてます。盗んだはずの絵画が消え、それを隠した奴がその記憶をなくしている。絵画はいずこへ?と、話の導入としては今までもあった記憶を扱う系の話なんですが、そこに催眠療法をからめ、周到な伏線をスタイリッシュかつ幻惑的な映像であちこちに散りばめて、見事なミステリとして完成されています。今のダニー・ボイルが『トレイン・スポッティング』を撮ったらこうだぜ!みたいな?ちょっと違うけど色々とブッ飛んでます(頭もフッ飛びます)。

現実と催眠の区別が、所々あやふやになりそうでいながらギリギリ判別が付く、境界線を渡り歩くかのような陶酔感、これが心地よいのです。そして脳に染み込みつつ鼓動を煽るような音楽がそれに拍車をかけます。メインとなる三人の関係性も目まぐるしく入れ替わり、何が真実か、誰が味方か、そもそも誰を描いた話なのかさえ分からなくなり、引き込まれてしまうのです。

つかみがゴヤ「魔女の飛翔」などの美術品であるというのが、単なる強奪事件ものよりも優雅さを感じさせる効果があってよいですね。しかもこの絵はストーリーを象徴するような絵にも見えるというのがまたニクい。個人的に絵画とか好きなので、フェルメールやレンブラントの名前が出るだけでちょっとアガります。失われた名画の部屋とかたまらんわー。

サイモン役のジェームズ・マカヴォイがなかなかアレな感じでいいですね。拷問監禁されたわりにはどこかお気楽なんですよ。あと欲望に忠実というか。自分の好きなものが眼前に現れると人は嬉しすぎて泣くんだなあ、とか思いました。何度も挿入される車の窓をコンコン叩くシーンに危うさを感じます。でもそれよりフランク役のヴァンサン・カッセルが、犯罪者でありながらどこか知的で色気があるのが嬉しい。催眠療法士エリザベス役はロザリオ・ドーソンですが、あの体の張りっぷりには驚いた。しかしボカシで台無し。あそこはお話的にもボカシちゃいかんとこでしょう!意味合い的に分かんなくなっちゃうよもう!それにしても皆気前よく脱ぎますね。脱ぐのはいいんだけど、ジーンズはく前にパンツはこうぜマカヴォイ。

↓以下、ネタバレ含む。








最後まで物語に関わるキーアイテム、ゴヤの「魔女の飛翔」。一人の男が空中の魔女たちに捕えられており、その下には目を背け逃げようとする男や、地面にうずくまる男が描かれます。絵自体の説明は本編では特にありませんが、ここに描かれたものが作品内の象徴となっている気がします。(ちなみにこの絵です→プラド美術館公式サイト

解釈は色々出来ると思いますが、飛翔する魔女が心の闇を示すと考えると、魔女に囚われた男は闇に覆われた本当の気持ち、つまりサイモンのエリザベスへの愛情と捉えられます。その気持ちに目を背け立ち去ろうとする男は、そうするとサイモン自身。本当の気持ちは飛翔する魔女によって飛び立とうとしている、つまり思い出したいと思っているのに、思い出してはいけない気がして立ち去ろうとしている。そんなふうに見えます。サイモンそのものを表す絵なのだと考えられます。

サイモンが求めるのは完全なる美です。ゴヤが「裸のマハ」でヘアを描いたことは完全さの欠如だと考えている。そしてエリザベスにも完全なる美を求めたわけです。しかしエリザベスはそのゴヤが描いた『魔女の飛翔』について、最後に「いい絵よね」と言っています。彼女は完全さなど求めていないのです。エリザベスがこの絵を求めたのは、魔女に捕われた、あるいは解放されようとしているその本心こそが大事なのだという思いなのでしょう。フランクと特別な関係となったのは、彼は真っ当な人間ではない、つまり完全ではないけども、それでも自分に対する愛情を示してくれたからではないでしょうか(まあストーカーになった男はどっちにしろイヤだろうけど)。

それにしても、前カレが暴力的とか、性癖を知っていたとか、催眠で人を操れるかというセリフとか、伏線はあちこちあるんだけど真相は気付けなかったですね。この真相を語るシーンがスルスルと繋がっていってまた気持ちがいい。精神的苦痛を埋めるために催眠を利用し、男たちを操って絵まで手に入れるエリザベスは、結果だけ見るとセラピーを覚えた峰不二子のようでイカしてますね。最後のフランクへの催眠確認も鮮やかでイイです。


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