2013
10.15

いともたやすく行われるえげつない行為。『凶悪』感想。

kyouaku
きょうあく / 2013年 日本 / 監督:白石和彌

あらすじ
ある死刑囚の告発が、観る者までを闇に引きずり込む。



死刑囚が獄中で告発した殺人事件の真相を事件記者が調査して暴き出す、という現実の犯罪ドキュメントを映画化。悪人たちが金のため、あるいは自己満足のために当たり前のように人を殺す様子が、執拗に、じっくりと描かれます。なにも知らぬ無知なる者を自分の利益だけのために利用する、つまり「吐き気をもよおす邪悪」が延々と続くのです。殺人事件の裏取りなので、既に結果が分かっている現実を見続けなければいけない。これは胸糞悪い。なんというやるせなさ。

無邪気に笑いながら悪行を行う先生と呼ばれる男が、本性を現したときの別人のような表情。ブッこむことしか考えていない須藤が小賢しい作戦を練り、自分の都合のいいように見せる改心。そこにはリリー・フランキーとピエール瀧という本職の役者じゃない二人だからこそ醸し出すリアルがあり、人がその本質を表したとき見た目まで変わるということを語っているかのようです。まさに凶悪。

そこで終われば実録犯罪もので括れますが、スゴいのはその犯罪を調査した山田孝之演じる事件記者・藤井が、この凶悪さに完全に取り憑かれてしまうことです。部外者が正義感に突き動かされ、それ故に追い詰められていくところまで提示する。理不尽なことに「いともたやすく行われるえげつない行為」を糾弾する方もただでは済まないのです。正義だ悪だの観念以前に、人は誰もが凶悪さをうちに秘めているのか?誰もが木村や須藤に成り得るというのか?そんなことまで問いかけてくる。

胸糞悪いせいもあってちょっと長く感じましたが、先生と須藤の行動を必要以上に見せつけられ、さらに藤井の行動を追体験してしまうと、何が正しいのかさえ分からなくなる怖さがあります。特に藤井に感情移入すると地獄が待っている。いやあ、怖いですねー。

↓以下、ネタバレ含む。








悪を悪と認識していない須藤と木村は、もう殺しなんて当り前になってしまっているわけです。和気あいあいのクリスマスホームパーティーで、子供へのプレゼントであるランドセルから札束を取り出す神経。バラバラ死体を焼却炉で焼きながら美味そうな肉の匂い発言。爺さんの死体を冷やしたバスタブの横で平気でシャワーを浴びるという、まるでそれが日常にさえ見える風景。先生なんてなかなか出てこないくせに初登場が力いっぱい首締めてるシーンですからね。しかも罪悪感のかけらもない。須藤の告発の動機も結局は復讐と延命のため。散々ブッこんできたくせにキリスト教に入信しましたーとか言ってくるわけです。観ている者の神経を逆なでしてきますね。

藤井の存在は、最初は凶悪事件から一歩置かせるための緩衝材のような部外者かと思うんですが、調べるほどに浮かび上がってくる凄惨な事件に疲弊し、依頼者にブッ殺すと脅され、会社に否定されながらも取材を続け、家に帰ればボケた母親がおり、その介護に疲れ切った妻が自分を攻め続けるという、むしろ最も事件に影響を受け、かつ悲惨な立場です。さらには妻に母親を殴っていたと明かされ、気付けば自分の妻が凶悪予備軍になっている。散々ですね。おまけに上司に「ジャーナリストとして正しいことをした」と言われたのに、そこで自分がジャーナリズムで動いているのではなく単に自分の思う正義を貫いていただけだったと気付いてしまう。やるせないです。

ここまで来れば、藤井と一緒に行動してきたとも言える観客は、当然のように木村たちに殺意を抱くわけです。そこに至り、木村が最後に「本当に俺を殺したいと思っているのは」と言いながらガラスの向こうから指さしてくる。指先にいるのは藤井ですが、あれは明らかに観てる我々を指さしてます。悪人だから死ねばいいと思う、それは殺したいという念に他ならない。ならばそれは悪ではないのか?というのを、悪人が問い詰めてきているのです。さらには究極的な悪を登場させながら、身近な人の悪の片鱗さえ見せつける。歯止めが効く人とそうでない人が紙一重かもしれない、そこには凶悪な犯罪者以上の恐ろしさがある、と示しているのです。怖いですねー。


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