2013
06.22

笑いながら人生を考える?『俺はまだ本気出してないだけ』感想。

oremada
おれはまだほんきだしてないだけ / 2013年 日本 / 監督:福田雄一

あらすじ
俺、マンガ家になるわ。



バツイチ子持ちの大黒シズオ42歳は会社を辞めてバイト暮らし。ある日突然「マンガ家になる」と宣言して出版社に持ち込みを開始。果たしてシズオはデビューできるのか?という話です。原作コミックは未読ですが、とにかく笑える!腹いてえ!

40歳前後ともなると、それまでの積み上げとか将来を見据えてとか色々あってなかなか冒険できないとは思うので、脱サラして何かを始めるというのは一つのドラマに成りうるのですが、シズオの場合は特に何の展望もなく日がな一日家でゲームしたり近所を散歩したり、あるいはファーストフードでバイトして25歳の店長に叱られたりという日常。突然マンガ家を目指すも、父親には怒られ呆れられ、誘われた合コンでは女子大生にバカにされ、持ち込む原稿はボツばかり。でもシズオ自体は全く変わりません。おっさんの自分探しの旅なのに、成長はしないしゴールも見えない。反省はするけど学習はしない。全ては都合のいいように考える。ダメなのは運がないから。良く言えば超ポジティブ、悪く言えばバカです。まあ普通はそう思うでしょう。

しかしこの作品では42歳で漫画家を目指すことを特に蔑視はしないし、かと言って礼賛するでもない。バカにする人もいればそれに憧れる人もいる。あくまで可能性の一つとして描いているんですね。そのスタンスが気楽でいいのです。「明日から本気出す」と言って結局やらない典型的なダメ男ですが、そこにあまり重みはなく、ひょっとしてマジでデビューできるのでは!とさえ思わせる明るさがある。大人だけどバカだけど陽性、だからシズオが変わらないのは却って安心感を与えます。

むしろシズオの周りの人たちの方が、少なからずシズオに感化されて変わっていくというのが面白い。脇を固める俳優陣も何気に豪華です。特に幼馴染みの宮田(生瀬勝久)とバイトで知り合った市野沢君(山田孝之)がさすがに良いです。編集者の村上氏(濱田岳)、怒り過ぎて今にもポックリ行ってしまいそうな父親(石橋蓮司)、みんないい味出してます。しかし何といっても娘の鈴子(橋本愛)ですよ!もう!なんていい子なの!どうしてあんなバカにこんな出来た娘がいるの!橋本愛の美少女っぷりはスクリーンだと際立ちますね。そしてシズオ役の堤真一。これがもうとにかく最高!期待はしていたけど、期待以上です。バカすぎる!渋い声と言い回しで言うことがとことんバカ。もう堤真一が何やっても面白い。あと監督が福田雄一なので『HK 変態仮面』でも出てきたウンウンがウザい佐藤二朗、胡散臭さ爆発の不動産屋でムロツヨシも登場してこれがまた笑えます。ちなみにサッシーこと指原莉乃も出てますが、えーと、それは触れないでおきましょう。

ほろ苦くも希望があるし、時にはグッとくるシーンもあって侮れません。それにとにかく笑いっぱなし。でも「俺もマンガ家目指したい」とかシズオにシンパシーを感じたらヤバいです。感じそうになったけど。

↓以下、ネタバレ含む。








シズオの行動は常識に照らし合わせれば「無謀」「計画性がない」ですが、現実に苦しんでいる人には「自由」にさえ見えます。特に宮田と市野沢君。

宮田は元妻に引き取られた息子と月に一度会うのを楽しみにしています。息子は言葉少なでほとんど会話もない、それでも息子を優しく見つめる宮田の眼差しが沁みます。元妻が再婚を告げる時に優しく返そうとしても、息子と会えなくなるという現実からついに本心を出してしまう。そんな宮田はシズオに対し「お前がうらやましい」と言うわけです。脱サラを決意するのにシズオの影響があったことは否定できません。宮田のラストはちょっと出来すぎだろうとは思いますが、選んだ仕事が息子の好きなパン屋であるとか、息子が実は父のことを心配していたというのが泣かせます。しかし息子が帰ってくる理由が……あんな小さな子にまでダメ男だと知られているシズオ、結果オーライ。それにしてもシズオの考えたパン屋の店名「ミ・ヤータ」ってひどいな!

人生の目標を見つけられず、人づきあいが苦手なのもあって常に孤立している市野沢君も、図らずもシズオに影響を受けてしまう一人。この市野沢君が最初はやる気のないクズかと思わせて実は心優しい男だというのがグッと来ますね。サラリーマンもマンガ家の卵も「カッコいいっすよ」と言い、まともに就職活動までするようになる市野沢君、ラストに収まるべきところに収まるのがとてもイイ。

シズオの娘、鈴子は父親がどんなにバカでも金貸してって言ってきても決して卑下したりしません。でもホントに嫌がっていないのか、あまり気持ちを語らないし若干無表情なので本心がいまいち分からない。シズオの父が「諦められているのだ」と言うように観るほうとしてもそうなんだろうなあと思うし、あんな場所で父娘がバッタリ会った暁には「ああ……やっぱ裏ではそうなのか」って思っちゃう。ところがバイトする理由を話すシーンで、全国のお父さんは感涙ですよ。なんていい子なの!(2回目)この物語の希望の理由は、シズオの前向きさだけではなく鈴子の存在がとても大きいわけです。だから笑って観られる。だからシズオも生きていけるわけです。もう、橋本愛最高ですよ。「バイトやめなさい」と言われてはにかみながら「ハイ」とか言うの最高。それにしてもあの店で付いたのが娘じゃなくてホントよかったね……。

そんなわけでシズオの存在はいろんな人に影響を与えているわけですが、それでも「それが自由だ素晴らしい」とは決して言わない。シズオも自分がしていることがダメなことくらいは分かっているわけです。決してカッコ良くはない。でも苦しんでがんじがらめになってツライのだけが人生じゃない、とは言えるでしょう。あるいは反面教師として観ることもできます。例え娘に金借りても、酔って父親の布団にゲロ吐いても、「父さん、いま勢いがある」とか調子こいてても、シズオの生き方は「あり」なのです。……責任は持てないけどね。


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