2013
06.02

カンフーの持つ美、力、心。『グランド・マスター』感想。

grandmaster
一代宗師 / 2013年 中国 / 監督:ウォン・カーウァイ

あらすじ
カンフーの流派統一の場に現れたイップ・マンだが……



ウォン・カーウァイ作品を観るのは『恋する惑星』以来ですが、アクションのイメージがないので「え、どうなるの?」って思ってました。しかも主演のイップ・マンを演じるのはアクション俳優ではないトニー・レオン。「え?え?」って感じですよ。ところがこれがフタを開けたら、もう最高!トニーもチャン・ツィイーも素晴らしい!

冒頭の「横か縦かだ」ってセリフだけでもうシビれました。もうね、台詞がいちいち良すぎる。そして役者の体術で見せるのではなく映像の積み重ねで魅せるカンフー。計算された一手一足が実に美しく、印象的なシーンの連続。踊るように美しいカンフー映画という点ではチャン・イーモウ監督の『HERO 英雄』なんかを思い出しますが、ライティングの妙やスローを巧みに使うことで、そこにカンフーの美しさだけではなく力強さを明確に刻み付けています。相当のトレーニングは積んだにしてもアクションが本業ではないトニー・レオンが物凄い強そう、というかほとんど無敵に見えるのが凄い。夜の雨の道端、娼館、列車のホームなどバラエティ豊かなバトルフィールドもたまらん!

予告の煽りで「最強の流派は誰か」という話に思われそうですが、タイトルの『グランド・マスター(一代宗師)』が意味するのはそういうことではなく、もっと言えばイップ・マンを描いた話というわけでもない。描かれるのはカンフーという武術を通しての様々なことです。カンフーを極めし者たちの人生。カンフーの技の裏にある心。カンフーの持つ美と力。全てはカンフーをフィルタリングして描かれ、同時にカンフーそのものを描いているのです。

ちなみにチャン・チェンのカミソリは何だったの?という人もいるかもしれないけど、雨のなか大勢を一人で倒すという点で彼はイップ・マンと対をなしているのです。ヒロインのルオメイを間に挟んで、八極拳の使い手は詠春拳の使い手と繋がっているのですよ。ちょーっと出番は少ないけどね。

↓以下、ネタバレ含む。








メインキャラは皆カンフーというフィルターを通して人生を語り、またその人生を踏まえてカンフーという武術の持つ精神性を浮かび上がらせています。

宗師の娘ルオメイは裏切者のマーサンを倒すため、全てを捨てて復讐に挑みます。そしてルオメイが最後マーサンを倒す技は、父親がマーサンに最後に放った技と同じ。「技を取り返す」と言っていますが、それはつまりゴン家の誇りを取り返すということ。カンフーによるフィルタリングです。彼女の父親もカンフーを通して北と南を統合しようとしたし、マーサンはカンフーにより日本軍に取り入ります。また、ルオメイがイップ・マンを愛するきっかけはカンフーによる手合わせのときでしょう。「拳で語り合う」と言うように、戦いのさなかにお互いを認めることから始まった思い。空中で顔が肉薄する美しいシーンが象徴的です。

カミソリはカンフーによる力技で国民党を脱退し、その後の理髪店でもカンフーにより追手を退け、それどころか広くその拳を広めることになります。カミソリとルオメイの縁はわずかなものですが、その縁でカミソリは命を救われ、引いては八極拳というカンフーの存続に繋がっています。

イップ・マンは言わずもがな。カンフーで生計を立てるため一人香港に渡った彼は、それきり妻とは会えないまま。しかしカンフーにより名をあげ、のちに詠春拳は世界に広まることになります。カンフーを通した精神主体の話であることを考えると、抗日戦争自体があまり触れられないのも頷けます。

また、イップ・マンは主人公でありながらストーリーテラーでもあります。冒頭のセリフから始まりラストのナレーションに至るまで物語を紡ぐ役割を担います。途中でルオメイが主役のようになっても、彼女の告白シーンで「六十四手をまた見たい」と言うことにより、そこまで描かれたルオメイのカンフー、引いては彼女の持つゴン家の「心」を引き継ぎ、ストーリーは語られていくわけです。

イップ・マンは武術界を俯瞰し世界に目を向けています。だから流派のこだわりや流派間の差異も関係ない。詠春拳、八卦掌、形化拳、港家拳、八極拳と様々な流派が登場するなか、中国の武術界だけではなくそれを世界に広めようとする思想を持つイップ・マンだからこそ、ゴン家宗師も負けを認めたのです。ラストに「流派がなんだって?」と言うのが如実に語っている通り、タイトルの『グランド・マスター』とは流派の頂点に立つ者のことではなく、頂点のその先に行く者のことなのです。だからこそ主人公はイップ・マンである必要があったのでしょう。つまり『グランド・マスター』とは武術を通した精神性自体のことでもあるのです。

それにしてもなー。ラストのダイジェストみたいなイップ・マン怒涛のアクションシーン、あれを長くしたら全体のバランス悪くなるとは思うけど、でもあそこはもうちょっと観たかったなー!


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