2013
05.13

アナログで描く人間模様。『舟を編む』感想。

fune_wo_amu
2013年 日本 / 監督:石井裕也

あらすじ
新たな辞書作成のため、馬締君がんばる。



紙の辞書って最近使わないですね。分からない言葉はネットで調べてしまうし、電子辞書だってある。用例採取もネットでクローリングすればいくらでもヒットするでしょう。また劇中作られる辞書「大渡海」の編集方針は誤訳や最新の言葉も載せていこうというものですが、1995年という舞台を抜きにしても、様々な言葉が生まれては消えていく今の時代のスピード感にそぐわない気もします。

でもね、紙の辞書っていいんですよね。手に吸いつくような薄い紙の感触。物理的な分厚さから来る安心感。持ってるだけで知識が激増したような気分になる。これはデジタルの辞書では得られない感覚です。

劇中「相手の気持ちが分からないから話すんだ」というセリフが出てきます。話すことで相手との距離を知り、距離を詰め、繋がりが増える。一方辞書は相手に気持ちや思いを伝える言葉というものを整理し使い方を述べたもの。辞書も調べることで言葉の意味を知り、言葉の用途を覚え、知識が増える。人間関係と同じなわけです。つまり辞書と人間関係が表裏の関係で描かれているのです。

で、これ辞書を作るお話なんですけど、その作業自体が面白いですね。聞いたことのない言葉は用例採集としてすぐにメモを取る。既存の例を参考にしつつも自分の言葉で意味を説明する。例文である語釈を考え分かりやすく伝えようとする。これまた人間関係と同じで、人と出会い、自分の言葉で、相手に思いを伝えるために会話するわけです。

この映画で描かれるのは、そんな辞書作りを通して主人公の馬締(まじめ)光也が仲間や彼女と知り合い成長する物語。デジタルで割り切れない人との関係を、アナログな辞書を通して描いた物語です。主人公の馬締君が原作と少し異なるようですが(未読です)、思いを言葉にするのが下手な、一見コミュ障な人物にしたのも「言葉」の持つ思いをより明確に描くためかもしれません。言葉の海を渡る舟を作ることが、人生という海を渡る人間関係を編むことに繋がっているのです。

相手に気持ちや思いを伝える言葉というものに傾ける情熱が熱いです。基本的には物静かなトーンの連続なんだけど、底に流れるその情熱がまさに「血潮」として息づいているのです。そして思わず達成感を共有してしまう。イイこれ。すげー泣かされましたよ。コミュ障でも大丈夫!という力強いメッセージ、と言えなくもない、かも?

↓以下、少し内容に触れます。








「憮然」の本来の意味、僕は以前聞いたはずなのに忘れてました。どうしても不愉快な、とか腹を立てるみたいな印象ありますね。誤った使い方のほうが広まってしまうというのは面白いですがよくあること。「役不足」とか「煮詰まる」なんかもそうですね。自分も気を付けよう。ちなみに劇中で「それは自分には”力不足”です」みたいなセリフがあって、さすがにちゃんとしてるなと思いました。

さて登場人物がなかなか立ってていいですね。松田竜平の馬締君はいかにもいそうなタイプですが、なんで営業部に入っちゃったんだろう?あとちょっとね、馬締君壁に当たらなすぎじゃないか?と思わなくもないですけどね。香具矢との馴れ初めなんてくちアングリですよ。う、うらやましい!まあ、すっ飛ばした12年間に色々あっただろうし、あまり壁を描かれすぎてもシンドイのでいいです。

で、その香具矢ちゃんね。いいですねー。そりゃベランダ出て宮崎あおいがいりゃあ驚きますよね。月をバックにして名前は「かぐや」とかね、まあホレますよね。宮崎あおいだしね。「探しに来てくれたんだ」とか言われたら「そう、君をね」とか言いたくなりますね。馬締君がそんなこと言ったら台無しですけどね。(でも香具矢の問いかけにはそういう意味での伏線も込めてると思いますが)

オダジョー演じる西岡や新入りの女の子なんかは、最初は「この若造が!」と思うんだけど、観てるうちに「こいつらイイ奴だなー」ってなるのが素敵です。特に西岡の酒飲んでる時に泣いちゃうシーンね、もうやめてよ、泣かされたよ。契約社員の佐々木さんは事務的でスゴいできる女性なんだけど、時折見せる優しさがいいですね。

どの人物も好感が持てるような描き方になっているので、ストレスなく楽しめていいですね。ちなみに本の話だからか一瞬だけピース又吉が出てきますが、ホントにチョイ役なのでなんかウォーリーを探せみたいになってます。


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