2013
05.08

一大プロジェクトの群像劇!『大脱走』感想。

the_great_escape
The Great Escape / 1963年 アメリカ / 監督:ジョン・スタージェス

あらすじ
捕虜収容所から脱走せよ!壮大な計画が幕を開ける。



もう10年以上も前のことですが、クラシックな映画を食わず嫌いしていた僕に、友人が猛烈に勧めてきたのがこの『大脱走』でした。「とにかく観ろ」と言われるがままに観た結果「こんな面白い映画があったのか!」と驚き、また己の不勉強を恥じたものです。面白いものに古いも新しいもない、という当り前なことを学んだ一作でした。

今年2013年は『大脱走』制作50周年ということでブルーレイ化もされました。そしてちょうど「新・午前十時の映画祭」のラインナップにもなっていたので、初めて大スクリーンで観てきました。DVDも持ってますが、もう入り込み度が違います。ああ、何度観ても面白い。

第二次大戦下、ドイツ空軍の捕虜収容所から連合軍兵が集団脱走を試みる実話が元になっています。もちろん脚色はされているだろうけど、脱走の手順などは実際に沿っているとのこと。資源は乏しく、監視は多い。見つかれば銃殺、良くて独房行き。そんな収容所に移送されてきた連合軍の兵士たち、というところから物語は始まるのです。しかしタイトルに「グレートなエスケープだぜ」ってバァーーンッ!と付いてますからね。もちろん脱走が計画されるんですが、単に抜け出せ!って話じゃないわけですよ。

というわけで、改めてこの作品の面白さって何だろう?というのを自分なりに語ってみようと思います。つーか語らせてくれよ!

※クリティカルなネタバレはしてないと思います。たぶん。

● 陽気な空気感

脱走の目的は単に逃げ出し自由になるということではなく、敵に脱走兵確保のために人員を割かせ、それにより敵戦力を削るという後方支援が目的としてあるわけです。つまり軍人としての任務の一環なわけですが、それが責務からというより前向きにやってやるぜ!と見えるのがこの映画の魅力のひとつ。戦時下の話でありながら戦闘シーンがないため、ヘヴィさをあまり感じないというのもあります。むしろ密造酒を作って振る舞ったりして、どこか陽気。

しかしその裏には油断ならない現状があることも描かれます。実際は命懸けだし、長い拘留生活に心を病んでしまう人もいる。陽気さと対比するように陰惨さも描かれます。だからこそこの真剣勝負に賭ける姿が熱い。陽気さは不屈の態度を表すものでもあります。ヒルツがどんなに独房に入れられようがめげずに壁キャッチボールを続けるのもそこにあります。

あと忘れちゃいけない、エルマー・バーンスタインのメインテーマ「大脱走マーチ」。これこそが作品の陽気さを決定づけていると思うのですよ。この曲が流れてくると無条件に行進したくなるので困ります。実際はこのメロディは陽気さだけではなく悲しみの場面でも微妙にアレンジを変えて流れており、陰陽の対比が音楽にも表れています。

● 組織的なプロジェクト

で、実際の脱走劇ですが、最大の特徴はこの脱走計画が一つの大きなプロジェクトであるという点。先に上げたように敵戦力をこちらに多く向かせるほど効果が高いので、まとめて脱走したほうがよい。そこで脱走班リーダーのロジャーは脱出予定人数として250名という目標をブチ上げます。

これは一大プロジェクトなため、組織的に脱走計画を練る必要があります。まず脱走実行までの長期計画を決める。必要なタスクを洗い出す。スキルごとにチームを作って要員を割り当て、作業ごとに短期計画に落とし込む。各チームは時には他チームとも連携して成果物を上げる。リーダーは進捗管理を行い、リスクマネジメントも徹底する。そして迎える本番――こうして書くと分かる通り、現代の例えばモノづくりビジネス等の流れにバッチリ当てはまってしまうわけですよ(ちょっと現実に引き戻されてイヤな気分ですが)。

実際穴を掘って逃げるとしても、どこに穴を掘るか、どうカモフラージュするか、必要な道具はどうするか、掘った土はどう撤去するか、空気の供給はどうするか、と問題は山積み。例え脱出に成功したとしてもここは敵地、どの道をたどり、どの方向へ逃げるのか、着るものはどうするのか、検問をどう突破するのか、ということまで考えなければいけないのです。しかし捕虜たちは何人もが収容された初日に脱走を試みるくらいモチベーションが高いのでくじけません。限定された状況下でありながら、先の先まで読んだ念入りな計画の元、各人が役割を持って作戦に当たり、知恵と根気とスキルを最大限に発揮して事に当たります。そこにヒルツのような外部のヘルプ部隊が遊軍的に絡んできて、チームプレイの妙が堪能できます。そして限られた資源の活用の仕方、創意工夫満点の仕掛けといった仕込みの数々がまたイカしているのです。

もちろんプロジェクトには思いがけないトラブルも付きもの。これにどう対処するかという醍醐味もあって、観てるこちらは首がすくむ思いです。あーヤバイ!ダメダメ!みたいなスリルがヤバイ。

余談ですが『20世紀少年』(漫画のほう)でオッチョたちがテレビ放送された『大脱走』を観て、次の日大興奮しながら続きがどうなるか(実際に1971年に前後編分けて2週連続放送していた)話をしているなか、ケンヂが土を捨てる仕組みをもう作ってきて披露する場面が笑えます。

● 群像劇の魅力

DVDパッケージなどでもよくマックイーンがバイクに乗って傾いてる写真が使われるので、マックイーンが単独主演のように思われそうですが(主人公ではありますが)、これ群像劇なんです。チームで事に当たる以上参加メンバーは多岐に渡るため、実に様々な人物が登場し、それぞれに印象的な見せ場があります。かなり多いですが役割込で見てみましょう。

英国空軍のトップはラムゼイ大佐(ジェームズ・ドナルド)。捕虜側の代表として収容所所長からも一目置かれています。大佐自身は脱走せず責任者として残り、サポートに回ります。優雅にお茶を飲む姿がいかにも英国紳士。実質的な脱走班リーダーはロジャー(リチャード・アッテンボロー)。一人だけ単独で連行されてくるように、ゲシュタポにも目を付けられている脱走のスペシャリストです。この人が脱走計画を実質指揮し、作業計画やトンネル使用可否の判断をします。どんぐりまなこがチャームポイント。ロジャーの右腕となるのがマック(ゴードン・ジャクソン)。通称「情報屋」。語学が得意で脱走予定者にフランス語やドイツ語での会話テストを行ったりします。油断したところを引っかけるというイジワル試験管ですが、これと対となるシーンがあるのがニクイ。

トンネル掘りを主に担当するのがダニー(チャールズ・ブロンソン)とウィリー(ジョン・レイトン)で、通称「トンネル王」。この二人はデキてます(ウソ)。逞しく穴を掘るガテン系ダニーのブロンソンが実にカッコいいぞ!ステキ!ダニーには実は秘密があるんだけど、それにまつわるウィリーとの友情話が泣かせる!

ヘンドリー(ジェームズ・ガーナー)とコリン(ドナルド・プレザンス)はルームメイト。この二人もデキてます(ウソ)。特に通称「調達屋」ヘンドリーは大活躍。盗ってもバレないようなところから物資を調達したり、人の良い看守を抱きこんだり、時には収容所所長の部屋からチョロまかしたりして必要なモノを揃えます。なんて頼りになるヤツ!ステキ!一方コリンは通称「偽造屋」として身分証などの偽造を担当。愛嬌のあるおっさんですが、偽造したブツのわずかなミスにも妥協はしません。全くタイプの違うこの二人が終盤見せる友情話もまた泣かせる!

通称「製造屋」のルイス(ジェームズ・コバーン)はツルハシや大型エアダクトなど、様々な道具を作成します。コバーンのふてぶてしさが全開。収容初日に真っ先に脱走しようとする一人です。ふてぶてしい!

そしてヒルツ(スティーブ・マックイーン)。ヒルツはアメリカ兵で、何度も単独で脱走しようとしては見つかって独房に送られることから、通称「独房王」(笑)。これでも大学生です。グローブとボールを持って冒頭から独房に入り、ずっと壁キャッチボールをしています。このシーンは終盤にも生きてきて、ヒルツの、引いてはこの物語の不屈の精神を表わすメタファーとなります。なぜかヒルツと共にコンビを組む、モグラと呼ばれるアイヴス(アンガス・レニー)。顔もモグラっぽいです。ヒルツと仲良く独房に入ったりしても脱走をあきらめませんが、そこには理由があるのです。アイヴスはヒルツが集団脱走に加わるきっかけにもなる重要人物でもあります。

他にも、掘った土の廃棄に画期的アイデアを提供する「土処理屋」エリック、ある意味こいつが一番の戦犯である「測量屋」カベンディッシュ、軍服やカーテンなどあらゆる生地をリフォームして私服をそろえる「仕立て屋」グリフィスなど様々。

最後にこの人は触れねばなりません、収容所所長のルーガー。もちろんヒルツたちとは敵同士なわけですが、この人は「ドイツ空軍」の大佐であり、親衛隊やゲシュタポとは基本的に違って、捕虜といえども人権は無視しないところがあります。「ハイルヒトラー」の挨拶も若干おざなりなところから、独裁制には不満があるのかも。敵ながら誇りを持って職務に当たっている様に威厳があります。

……ここまで見ればもうお分かりかと思いますが、この作品、見事なまでに女っ気ゼロです。いいんだよ!漢(おとこ)の物語なんだよ!

● 最後に

というわけで長々と書いてきました。ラストは「悲しいけどこれ、戦争なのよね」ってのを思い知らされたりもするんだけど、あのラストまで描ききったというのが凄いのだと思うのです。

あっという間の3時間、熱くなること間違いなしの名作です。


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