2013
05.02

クズに叩きつけるもの。『藁の楯』感想。

waranotate
わらのたて / 2013年 日本 / 監督:三池崇史

あらすじ
クズを殺せば10億円。日本中を巻き込んだ追跡劇が始まる。



孫娘を殺された経済界の大物・蜷川(山崎努)が、犯人を殺せば10億円やるという新聞広告を打ちます。九州で逮捕した犯人・清丸(藤原竜也)を警視庁まで護送する銘苅(大沢たかお)や白岩(松嶋菜々子)らSPたちは、金に目がくらんだ人々からクズを守ることになります。原作は『ビーバップ・ハイスクール』の作者でもある木内一裕。

犯人の清丸国秀という男は、7歳の少女を暴行して殺したペド野郎。それだけではなく思考や言動が常に身勝手で救いようのない、まさしく人間のクズです。この点は執拗に描かれますが、あえて観る者の感情を逆撫でするように作っているのしょう。それは分かるんだけど、クズであることを徹底して描きすぎていて、もはや殺さない理由がないという錯覚を抱きます。それでいて、SPたちがこのクズを文字通り命懸けで守る、その意義は最後まで描かれません。結果、物語としては救いも教訓もないように思えます。

とはいえ、いつ誰が襲ってくるか分からない逃亡劇のスリル、なぜか居場所が知られてしまうサスペンス、そして清丸のクズ具合は見もの。そこまでクズならここではこういう反応するだろうな、というのが若干読めてしまった感はありますが、とにかく藤原竜也のペドロリっぷりはもう彼をそういう目でしか見れなくなりそうなくらい最高。あと個人的に本田博太郎が好きです。

救いも教訓もない。守ることの意義もない。ではこの物語で描いているのはなんだったのでしょうか。ちなみに原作未読なのでご了承ください。

↓以下、ネタバレ含む。








今まで親孝行してこなかったから賞金の一部を母親にあげてくれ、と言い出したのには、自分のことを棚に上げてよくもまあ言いやがる、って感じでしたね。最低ぶりを最もよく表すシーンでした。(まさか「清丸もいいところあるね」と涙する人がいたりするんだろうか)

さて、救いも教訓もないとなると、これはもうクズを描くとかクズを守るとかがメインではない、ということになります。そもそも清丸は最初から最後まで、死刑宣告の時でさえも全く変わりません。メインは彼ではありません。

銘苅は清丸の口に銃を突っ込みながら、死んだ妻が「守ることが仕事でしょ」と言ったというのはウソであることを明かします。正気を保つために自らに言い聞かせたフィクションであると。その話自体は第三者から語られており、つまり公式なエピソードとして通っているわけです。冒頭、仏壇の前で聞こえてくる妻のモノローグはオカルトではなく、銘苅の自作自演だったことになります。そこまでやっておきながら、銘苅はついに自分の本当の心情を吐露してしまうのです。言葉で心情を説明しちゃってるように思えますが、心の中では妻はそのセリフを言ったことになっているので、真実は言葉にしたうえで外に向けて吐き出す必要があったのです。銘苅の自己防衛は「藁の楯」であったが故にたやすく崩れました。

蜷川は日本中を巻き込んで孫の仇を討とうとします。彼が正気を保つには憎き犯人の死しかなかった。しかし結局目的は果たせず引き渡しまで清丸は生き延びます。そこでラストには仕込杖の刀を抜いて清丸を自ら殺そうとします。それこそが彼の吐き出したもの。結局は誰でもいいから殺してくれではなく、自ら手を下すことこそが本心だったと見てとれます。あの場にスナイパーでも仕込んて確実に殺すという選択をしなかったのはそういうことでしょう。

つまり二人とも正気を保つための方便が崩れ、やり場のなかった悲しみと怒りをクズ野郎に一旦全て叩きつける、という点で共通しているわけです。だからこそ叩きつける相手である清丸は徹底してクズに描く必要があったのです。

ラストで銘苅は蜷川に対し「こんなことをして死んだ者が喜ぶと思うか」と問います。うわ、ここに来てなんつう陳腐なセリフ、と思うんですが、銘苅はこれを言い訳にして自分の気持ちを抑え込んできた経緯があるので、同じように愛する者を失った境遇の蜷川もこのセリフで抑えこもうとします。銘苅は既に事実を明かし心情を吐露したうえで、それでも職務を全うしようとするのです。対して蜷川はこの銘苅の制止を無視し、清丸に切りつけようとします。

同じ傷を持つ二人が同じように思いを叩きつけるも、着地点は異なる。人はどちらにも成りうるというこの両者の二律背反こそがメインテーマだったのではないでしょうか。


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