2013
04.25

壊れゆく世界と強き心。『ハッシュパピー バスタブ島の少女』感想。

Beasts-of-the-Southern-Wild
Beasts of the Southern Wild / 2012年 アメリカ / 監督:ベン・ザイトリン

あらすじ
ハッシュパピーが父と暮らすバスタブ島に、嵐がやってくる。



時代も舞台もハッキリしない世界。バスタブ島で暮らすハッシュパピーという名の少女と、父親や島の人たちとのエピソードが綴られます。

観賞前は自然の美しさや脅威の中で生きる親子の感動物語のように思えますが、そんな甘い話ではないです。確かに寓話的でファンタジックな情景が差し挟まれますが、原題が示す通り物語は実にプリミティブ。これはファンタジーの皮を被ったリアル志向の物語です。そのまんまストレートに生死を表す心臓の鼓動。死に直面し、それでも力強く生きる様。終始粗い手ブレ映像のなか駆け回るハッシュパピーは、躍動感あふれる生の象徴のようです。主演のクヮヴェンジャネ・ウォレス(超覚えにくい)は、当時わずか6歳でありながら、眼力(めぢから)の凄みが半端じゃありません。さすがアカデミーノミニー。

壊れかけた世界、父が娘に望むこと。襲い来る心の弱さに対峙するためのステップを踏んでいく少女。粗削りだけどフレッシュな魅力。要所で流れる音楽も効果的です。

ところで最初は「これ『もののけ姫』じゃね?乙事主も出てくるし」とか思って観てましたが、それだと物語の構造がどうも説明がつかないし、原題の意味もよく分からなくなる。結論としては別物だと思うのです。

↓以下、ネタバレ含む。








これは壊れゆく世界の物語です。住む者にとって、嵐で島が水没したり、住処を追い立てられたりといった今にも壊れそうな世界。

そんななか、父親はハッシュパピーに対して「お前をこの世界の王にする」と言います。ここでいう「世界の王」とは何か。この壊れゆく世界で王が成すべきことは何か。世界がなくなれば王も意味がありません。つまり世界の王とは、壊れゆく世界を止める力を持つことが必要なのです。

ただし幼いハッシュパピーにとっては、世界とはまずバスタブ島で父親と過ごす日々のはず。豚に餌をやり、トラックの荷台のいかだに乗り、父と日々を生きるのが彼女の世界。その世界が壊れることを止めなければならないということになります。ほんの少しの変化で南極の氷は溶け世界は滅ぶと語られます。ならばハッシュパピーの世界が滅ぶ変化とは何か。父親がいなくなることです。

父親は事あるごとに彼女に試練を与え、恫喝し、鼓舞することで、その力を備えさせようとします。その力とは既に自分の先行きを悟っていた父親が、自分が死んでも娘が生きていくための強い心に他なりません。つまり変化とはやがて来る父親の死であり、壊れ行く世界とは彼女の心なのです。

彼女は心の拠り所である母親に会うため海に出ます。辿り着いたのは舞台的にもこの壊れゆく世界で唯一のパラダイス。彼女はやっと会えた母(とは名言してないけども)と抱擁し、自分たちを助けてほしいと願いますが断られ、再び島に戻ります。これで彼女は自ら成長するしかなくなったのです。結果的にこれは甘えとの決別となる通過儀礼でした。

襲い来る巨大な獣は弱さの象徴です。これが狙っているのは父親ではなく、ハッシュパピー自身。これに対しハッシュパピーは、ここまでに培った強い心でそれを退けます。これによって、それまで父親に見捨てるのかと詰め寄っていた少女は、最後に「泣くな」と言われ「泣かない」と言い切り、父親の死を看取ることができます。涙は流れるけども、その目には強い心があるのです。弱さを乗り越え、ラストに島民を率いて歩いてくるハッシュパピーの姿は、強き心を持つ王の貫録十分です。

幼い少女に対してなんとむごい、という気もしなくはないですが、先にリアル志向の物語と言ったのはそういう理由です。現実の厳しさを身をもって娘に示した父の姿に涙します。


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