2013
04.13

停滞から進歩へ。『君と歩く世界』感想。

De_rouille_et_dos
De rouille et d'os / 2012年 フランス・ベルギー / 監督:ジャック・オディアール

あらすじ
両足を失ったシャチのトレーナーと子連れ格闘家との出会い。



ストーリーはヘヴィです。食うものにも困るその日暮らしの子連れの男アリ。シャチショー中の事故後に目覚めたら自分の両足がないという絶望を味わうステファニー。出会って恋に落ちるには状況はかなり逼迫しています。ぬるいロマンティシズムは排除され、映し出されるのは徹底した現実です。甘いラブストーリーを期待すると痛い目に合うであろう異様な迫力があります。

それでも抜群にインパクトのある映像が要所要所で現れて、これが素晴らしい。重い話が時にフワリと浮くような印象さえ与えます。特にステファニーの、テラスで指示動作をする姿、ガラス越しのシャチに指示する姿。格闘中に車から降りてきた女神のような姿。アリの場合は氷中からの視点。これらの映像が挿入されるシーンは、物語の重要な転換点であることも示しており、音楽も印象的。

観た直後は、焦点が男の成長なのか女の救済なのか息子との絆なのかが少しボヤける気がしてたけど、主人公はあくまでアリである、と考えると腑に落ちます。

ステファニーを演じるマリオン・コティヤール、アリを演じるマティアス・スーナーツともに熱演が素晴らしい。原題は英語では「Rust and Bone」、錆と骨。「殴られて唇を切ったときの血の味」のことだそうで、このほうがビターな人間ドラマに合ってますね。

それにしてもマリオン・コティヤールは美しいな……(ため息)。あとエロいな……(ため息)。

↓以下、ネタバレあり








アリという男は、眠けれゃ寝る、ヤりたきゃヤるという本能の赴くまま行動するヤツです。息子に興味がないわけではないけど、世話は基本姉に任せっきり。それより自分の時間のほうが大事なのです。仕事も用心棒から夜警、果ては違法盗聴器の設置までしますが、特に賭けストリートファイトに血が騒ぐ。金のためだけではなく好きだからやるのだと。己のやりたいようにやるだけです。ただし単なる自己中になっていないのは、彼が相手をナチュラルに思いやるという性質を持っているからです。金が入れば息子にオモチャを買って帰ったりもする。

だからアリは相手に足があろうとなかろうと気にしていない。自分がどうしたいかだし、ナチュラル故に相手に対する特別視がない。そんなアリをステファニーは「優しい」と評します。足のない人を海で泳がせてるときに居眠りするのが優しいか?とは思うけど、そうではなく自然に接してくれるのが彼女は嬉しかったわけです。だからクラブで自分を障害者として見るナンパ野郎相手には彼女はブチキレます。

死んだような眼をしていたのが、泳ぎ、踊り、義足を付け、どんどん生気を取り戻していく。ステファニーはアリのナチュラルさに救済され、進歩していきます。

対してアリは停滞したままです。格闘に明け暮れる日々。ステファニーとの関係を深めようとするわけでもなく、恋人と言うよりほぼセフレです。息子との絡みは時折思い出したように映されるだけ。姉が自分のせいで仕事を失ったことでようやく自分の馬鹿さ加減に気付くものの、前に進むことをしていなかったアリはどうしていいのか分からない。結果、彼女も子供も放って逃げ出すしかなかったのです。

それでもようやくまともに試合をするボクサーとしての道を歩き出します。ついに停滞から一歩踏み出す。しかし息子を氷の上に残したまま放尿するという、またもや本能のまま行動した結果、息子を失いかけます。

停滞していたために、進歩していたステファニーとは距離が空いてしまった。だから「見捨てないでくれ」というセリフが出てきたのです。その距離は大事な人を失うには十分な距離。息子が3時間も生死を彷徨い、大事な人を失う恐怖を思い知ったいま、アリは自分の本心に気付き、愛の言葉が自然と口をついたのです。

アリがステファニー同様進歩した結果として、あのラストシーンがあるのでしょう。やはり主人公はこの男だったようです。


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2012年 フランス/ベルギー 両足を失ったシャチの調教師の女性と、格闘が取り得の粗野な男との物語。飾り気のない素顔のマリオン・コティヤールが良いです。でも、それ以上に個性的な味を出していたのは相手方のマティアス・スーナールツでした。ベルギーの俳優で『ブラック・ブック』にも出演していたよう。填まってます。近年の、このようなヒューマンドラマの類の中では、かなり高評価したい作品。単に恋愛映画と...
君と歩く世界/心閉ざす男が愛を乞うまで dot 映画・世界史から探る気になる人々dot 2015.08.06 20:28
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