2013
04.10

不安定さの臨場感。『ゼロ・ダーク・サーティ』感想。

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Zero Dark Thirty / 2012年 アメリカ / 監督:キャスリン・ビグロー

あらすじ
ビンラディンを追え!



アメリカCIAの若き捜査官マヤを中心に、米軍がビンラディンを追う姿を実話に基づいて描いています。この「実話に基づいて」というのが曲者で、どこまでが事実でどこからが脚色なのかが分からない。特にこの話は軍事機密に関するものだし、しかもビンラディン殺害は2011年5月、ついこの間のことで、例えば1979年を描いた『アルゴ』とは扱いが全く異なるはずです。現にアメリカ本国ではいろいろと紛糾もしたようですが。

でもプロパガンダ云々は映画を観ればナンセンスだと分かるし、そもそも政治的視点を持ち込むことは率直な観賞の妨げになるので、スクリーンで起こることをそのまま観ることにしました。そういう意味ではそれなりの心の準備が必要かもしれません。

とにかく臨場感に圧倒されます。冒頭の真っ暗な画面のまま音だけで9.11の記憶を蘇らせるところからもう凄い。捕虜の尋問、情報の収集、爆弾テロ。観ているうちに、自らがこの案件に関わり、パキスタンに赴任しているかのような感覚に囚われます。

ビグロー監督の前作『ハート・ロッカー』もとんでもない臨場感でしたが、直接命の危険を伴うそれとは少し異なる。それは間接的に存在する危険や、不穏な空気が醸す落ち着かなさです。その不安定さに観る者を陥れる。カメラがいろんな人の視点に切り替わり多角的に見せることで、それが気のせいではないと分かり不安定さは増幅する。物語が重いという話ではなく、そんなリアルさが身に迫る緊張感・焦燥感が凄まじいのです。

余計な脚色が少なく本当に無駄なく感じます。現場の意見と上層部の言い分のやり取りさえも必要なセンテンスでしょう。自分が時にはマヤの同僚に、時にはシールズの一員であるとさえ錯覚する。終始スクリーンに釘付けで、エンドロールが始まってもしばらく動けない。

「Zero Dark Thirty」は軍事用語で午前0時30分を指すとのこと。この時間に遭遇する結末を観る者がどう捉えるか。凄い作品でした。

↓以下、ネタバレ含む。








ここにあるのはもはや正義だ悪だの観念的な話ではありません。それは建前としては必要かもしれない。しかしマヤに関してはそれは怪しい。それでもマヤがどういう思いで動いていたのか、明確には分かりません。テロにより失われた仲間の敵討ちという思いは当然あっただろうし、それを示すシーンも見受けられますが、ではラストにマヤが流した涙は何だったのか。敵を討った安堵の涙とも、目的を果たした達成感の涙とも思えません。

マヤが捉えきれない脅威に焦りながら、屍を乗り越え、邪魔な上司さえも策略で陥れて、それでも守るべきものは何だったのか。

思い出すのは序盤の捕虜の尋問シーン。拷問に近い執拗な尋問にあった捕虜が、飲み物をもらって涙を流します。死んでも口を割るつもりはないと思いつつ、プリミティブなところでは命を長らえることに安堵している。あれは生きていることへの歓喜による涙ではなかったでしょうか。

ラスト、周りが祝勝ムードにあふれる中、マヤはビンラディンの亡骸を見ても特に感慨も見せず死体袋を閉じます。そして帰りの輸送機で考えることはなんだったか。命を奪うことで終結したミッション。思えば同僚の女性もテロで亡くなった人たちもビンラディンも命を落とした。しかし自分はまだ生きている。自分は生き残ったが失った命を取り戻せるわけではない。その虚しさ。守るべきものが何だったのかさえ見失っている。このミッションが半ば人生そのものになっていた彼女にとって、得たものを実感できない結果は虚しいものだったでしょう。マヤが流した虚無の涙は、あの捕虜の流した歓喜の涙と同じにはなりえなかったのです。

この映画の製作中に実際にビンラディンが死亡したことで話の内容がそれに合わせて変わったと言います。もしビンラディンが今も逃亡中だったら、結末は全く違っていたかもしれません。でもそうなるとあの興奮の突入シーンがなかったわけで、それは寂しいですが。

それにしても、話を聞きながら自分でも全く同じことを考えていたので、思わず笑ってしまった「ガンダルフみたい」は名セリフですね。


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