2013
04.03

フィルタリングした過去。『横道世之介』感想。

yokomichi
2013年 日本 / 監督:沖田修一

あらすじ
普通な男、横道世之介は今日も普通に生きていく。



1980年代後半を舞台に横道世之介と彼にかかわる人たちの日常が描かれます。そのテンポは実に「まったり」。大学生活を始めるため長崎から上京し、何気ない日常が展開されます。

ホントに何気ないんですよ。かつて大学生活をした人なら「ああ、そういうことってあったよね」と懐かしむような、高校生以前の人にとっては「ああ、そういうことありそうだな」と思わせる。ごく普通なんですよ。

でもじゃあそんな普通の大学生あるあるをドラマ化したものなのかというと、そういう単純な話ではないわけです。そりゃ80年代に青春を過ごした人にとっては懐かしさを感じるでしょうが、それでもそこにあるのは単なるノスタルジーとはちょっと違う。その違いの起因は、時折挟まれる「現在」のパートですね。それにより、懐かしさを描くという他に「過去を振り返る」というポイントが現れます。

正直言うとですね、観てる時はちょーっとタルいかなあと感じなくもなかったんだけど、この振り返る、思い返すというポイントに則ってこの作品を思い返してみると、何とも言えない味わいがある。不思議なことに「そんな映画あったなあ。懐かしいなあ。イヤ観たばかりだよ!」とセルフツッコミかましちゃうんですよ。ついさっき観たのに過去に観た懐かしさのような感覚を味わってしまう。この「振り返る」という行為を観た者にさせてしまう、それにより何やら幸せだったあの頃を噛みしめる、というのが最大の魅力だと思うのです。

それにしても吉高ちゃんが可愛すぎるんだが。僕も「ごきげんよう~♪」って言ってほしいんだが。

↓以下、ネタバレあり。








内容はごくありふれたものばかりで、そんな大した事件は起きません。上京したばかりの新入生の痛々しさとか、初めて会う人とのコミュニケーションとか、あーあるよねという感じ。妊娠・出産は大事件だとは思うけど、まあない話じゃあないです。でも考えてみると、その時代の幸せだったところしか描かれてないですよね。加藤君は性癖のために何かしら苦労したかもしれないし、千春さんはドロドロした過去が山のようにありそうだし、倉持君と唯ちゃんなんてかなり大変だったはずだけど、そんなシーンは描かれない。そもそも世之介と祥子ちゃんはいつの間にか別れたみたいだけど、そんなことも微塵も描かれない。

あの頃はこんなだったなーと思い出し笑いしてしまう記憶。これらは別に美しいわけではないけれど、辛いことや悲しいことを抜きにした、美化された思い出なんですよね。そしてその美化された思い出は、横道世之介という一人の男により想起される。横道世之介は元彼女をして「普通すぎる人」と言わせる人物です。善人だけどアクは強くないし、煮え切らない態度もあるけど時に強引だったりする。加藤君には「変な奴」と評されるけど、そういえば変な奴だった、という程度。

この「絶対的普通の人感」を持つ世之介をフィルタリングして過去の記憶を呼び覚ましたとき、それはごく普通のありふれた青春時代として想起されるわけです。確かにありふれたことしか描かれていない。でも成長した彼らには、そのありふれた時間というものが二度と戻らない、かけがえのない時間だったことが分かっているのです。世之介と祥子が呼び捨てで互いを呼び合うシーン、初々しくてくすぐったいその思い出を呼び覚ますとき、横でそれを聞いているお手伝いさんの涙も同時に思い出すのです。

現代パートで世之介のその後がわかった時点から、この「二度と戻らない感」はさらに確実なものになります。だからこそ懐かしい。だからこそ普通の出来事でさえ美化された思い出にできる。そういうことなんじゃないでしょうか。そしてそんな思い出を持てることは、人生を生きていくうえでとても素敵なことだと思うのです。

ところで世之介のその後を知った時「え?これ実話だっけ?」と思ってしまいました。どこまでモデルにしてるのか分からないけれど、そこだけちょっと不自然さを感じました。


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