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2020
07.12

人生は喜劇という糧。『新喜劇王』感想。

shin_kigekioh
新喜劇之王 The New King of Comedy / 2019年 香港、中国 / 監督:チャウ・シンチー

あらすじ
プチ整形には気を付けろ。



映画俳優を夢見ながらもエキストラばかりの女性・モンが、落ちぶれたスター俳優と出逢い運命を変えていく、というチャウ・シンチーによるコメディ。

『人魚姫』以来となるチャウ・シンチー監督作は、1999年に監督・主演した『喜劇王』の主人公を女性に変えて復活させた現代版。元の『喜劇王』の内容は、能書きは凄いがもらえる仕事はエキストラばかりという俳優の男が、たまたま出会った水商売の女性と徐々に心を通わせつつ、何度バカにされたり現場から追い出されてもめげずにチャンスを掴むという、爆笑しながらもじわりとくるお話です。本作では主人公が女性に変わったものの、根拠のない自信と打たれ強さでエキストラから脱するべく奮闘するのは同様。ただし恋愛面やベテラン俳優との関係性で差別化してます。爆笑もあるものの現実のツラさも増し、それだけに苦難を乗り越えて迎えるラストの納得感が大きいです。負け犬ライジングものとして秀逸。

主人公ユー・モン役のエ・ジンウェンはこれがデビュー作だそうですが、堂々たるコメディエンヌっぷり。本来は美人なのに、絶妙にイケてない感じにちゃんと見えるのが大したもんです。かつてのスター俳優で、売れなくなった今は文句ばかりなマー・ホー役は『アイスマン 宇宙最速の戦士』『カンフー・ジャングル』ワン・バオチャン。これが意外にもコメディリリーフですが魅せてくれます。チャーリー役であるチャン・チュエンダンの、誠実なのか怪しいのかという絶妙なバランスもいい塩梅。また前作にも出ていたティン・カイマンがチョイ役で登場も嬉しい(しかも同じ目に……)。

監督、脚本、製作はチャウ・シンチーですが、共同監督として『SHOCK WAVE ショック ウェイブ 爆弾処理班』のハーマン・ヤウも参加。爆笑しつつもウェットさがあり、ツンデレ父の親バカっぷりなどの家族物語としての味もあります。オリジナル版を観てなくても特に問題なく観れますが、知ってると「あ、そのシーン!」となるところもあります。

↓以下、ネタバレ含む。








主人公を女性にしたら色々酷い目に逢ってもキツくて笑えないんじゃないかと危惧してましたが、モンのすっとぼけてて微妙にダメな感じが上手く中和してしっかり笑えるのはさすがチャウ・シンチー。とんでもない役でエキストラ出演したり、父親とは死体姿のまま大喧嘩になったり、プチ整形が危うく人外になりかけたりと大変ですが、役者が好きなんだなというのは随所で伝わりますね。現場で仲良くなった男が実は超リッチマンだったとか、ようやく出演が決まった作品がなぜかマーがヒロイン(?)役の『白雪姫 血のチャイナタウン』だったりとか、奇妙だけど実は重要な出逢いが彼女の後押しにもなっていきます。

本作はリメイクではないし、続編ともちょっと違っていて、強いて言えば別バージョンなんでしょうか。この世界ではオリジナルの『喜劇王』が映画作品として存在するんですね。つまり『喜劇王』を映画として楽しんでいる我々と同じレイヤーの世界ということになります。それがリアリティを増してるんですよ。ファンタジーではないんですね。それだけに現実のツラさも強まっていて、見た目だけで役者じゃないルームメイトの方がスカウトされたり、モンの悲恋(と言うかあれ犯罪では)やマーのドン底ぶりは結構キツい。でもキツいだけに、夢を諦めないというメッセージ性も終盤のカタルシスもすんなり入ってきます。アレンジが上手い。

でもテーマとしては、夢を諦めないということより、人はそれまでの経験を糧にして前に進める、ということだと思うのです。モンは恋人だと思っていたチャーリーが詐欺師であることを知り、役者としても自信を失って引退しようとするものの、マーの姿に励まされてオーディションを受け、あのときなれなかった自分を演じることで壁を乗り越えます。これはマーも同様で、かつての栄光にしがみつくからこそ尊大な態度を取ってしまったわけですが、拡散された自分の惨めな姿を受け入れることで逆にウケて再び脚光を浴びるのです。誰だって苦境に陥ったり失意に打ちのめされたりするけども、それさえも経験として進むことはできるのだ、自分で自分を救うのだという意思。ラストにステージで挨拶するモンの輝きは、喜劇であった人生をその王として自ら治めた証明なのです。

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