FC2ブログ
2020
04.06

踏みにじられた尊厳の行方。『スキャンダル』感想。

Bombshell
Bombshell / 2019年 カナダ、アメリカ / 監督:ジェイ・ローチ

あらすじ
テレビは視覚メディアだ!



アメリカのニュース放送局で視聴率NO.1を誇る「FOXニュース」の元キャスター、グレッチェン・カールソンが、TV業界の帝王と言われるCEOのロジャー・エイルズをセクハラで提訴し、局内は騒然とする。その騒動は看板番組を持つキャスターのメーガン・ケリーにも動揺をもたらす。一方で野心に燃える若手のケイラは、ロジャーに直談判するための機会を得るが……。実話を元にしたドラマ。

2016年にアメリカで実際に起こった女性キャスターへのセクハラ告発騒動を描きます。アメリカ一のニュースチャンネル、FOXニュースのCEOのロジャー・エイルズをセクハラで提訴したのは、FOXの人気キャスターだったグレッチェン・カールソン。テレビ界の重鎮のスキャンダラスなニュースに衝撃が走るアメリカのメディア界。FOXニュースで冠番組を持つトップキャスターのメーガン・ケリーは自身の過去を思い返し、ロジャーと直接対面するチャンスを得た若手のケイラも巻き込まれていきます。権力を笠に着たセクハラという胸糞悪い話ではありますが、スピーディーな展開のなか語られない本心と隠される真実の心理戦、権力による搾取と庇護のせめぎ合いなどがスリリングで、娯楽作としての体裁も保ちながら業界の腐敗を訴えるというバランスは凄い。大統領選に重ねることで権力の強大さをも増幅させてきます。これは見応えあり。

メインとなる三人は、メーガン・ケリー役に『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』シャーリーズ・セロン、グレッチェン・カールソン役に『アクアマン』ニコール・キッドマン、ケイラ・ポスピシル役に『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』マーゴット・ロビーという豪華な顔ぶれ。シャーリーズ・セロンとニコール・キッドマンは時折別人に見えるほど実在のキャスターに似せてきていて、特殊メイクのカズ・ヒロらがアカデミー賞のメイクアップ&スタイリング賞を受賞したのも納得。また提訴されるテレビ界の帝王ロジャー・エイルズ役は『女神の見えざる手』ジョン・リスゴーで、この威圧感と憎々しさは絶品。ほか、ケイラの職場の同僚ジェス役に『ゴーストバスターズ』ケイト・マッキノンなど。

監督は『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』ジェイ・ローチ、脚本は『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のチャールズ・ランドルフという実話映画化にふさわしい布陣で、これが期待を裏切りません。女性三人の野心も矜持も打ち砕かれ踏みにじられるのがツラいんですが、でも敵が共通でも各自の思惑はあったり、性別関係なく両陣営が存在するのなどは人間くさい。被害者なのに覚悟が試されるという矛盾に憤りながらも、権力に挑む怖さも実感させられ、声を上げることの難しさまで描き出します。

↓以下、ネタバレ含む。








題材が現実のセクハラ騒動であり、実際傷付いた人々がいるわけで、しかも2016年というわりと記憶にも新しい事案でもある。これを映画にしてしまうというのが凄いですが、me too運動などの盛り上がりや映画業界にも同様のセクハラ疑惑が頻出したことを思えば、早めにやるべきテーマであったと言えるでしょう。そんなドラマを素直に楽しめるのかという心配もあったんですが、これに関してはテンポもよいし、人物の関係性も混乱することなく、しっかり映画作品として享受できるようになっているのが上手いです。それぞれ立場やキャリアが異なる三人をメインとすることで、騒動の発端と経緯、飲み込んだ過去により在る今、現在進行の屈辱という三つの観点が描かれる構成となってるんですね。世間的に知られているのはグレッチェンの告発と、あとはメーガンも被害を受けていたというところ。しかし本作はその裏にある各人の思惑、もっと言えば野心やプライドというものが関わっていることまで示します。

セクハラ自体はもちろん違法(とみなされる場合がある)で、それ以前に「悪」であると個人的には思います。現にメイン三人の他に、次々と証言をする女性たちの姿には居たたまれなくなるんですが、それと同時に渦中にある者たちがどういう行動をするかというのも興味深く描かれます。口火を切ったグレッチェンは、ロジャーの誘いを断ったことで閑職に回され、その屈辱に対するべく訴えを起こします。そこには自分を認めなかった者への復讐もあったことでしょう。しかし彼女は冷静に、実はクビになる前からそうなることを見越して周到に用意しているわけです。世間がどう思うか、元同僚たちがどう動くかも想定し、弁護士たちに勝てる勝負であると言い聞かせる。これはこういった立証しにくい事件での動き方としてのお手本のよう。最後の録音という切り札の出し方も秀逸です。ただ当初はFOX内の誰も賛同しないという憂き目にあいます。それだけ社員が権力を恐れたからということでしょうが、内部に仲間を作ろうとしなかったというのも影響してそう。気丈に振る舞いながらも、子供たちが家に帰ってきたとき思わず涙するところに彼女の孤独さが滲み出ます。

一方でメーガン・ケリーは自身の名を冠した番組を持つ第一線で活躍する売れっ子であり、トランプが名指しでディスるほどその言動が世間の注目を浴びる存在。グレッチェンと異なり味方となる優秀なスタッフもおり、プロデューサーのギルと共に報道者としての熱意も強い。しかしグレッチェンの告発に伴い、彼女も過去ロジャーにセクハラされかけたことをギルに明かします。メーガンはロジャーとの会談でも対等に渡り合ってるように見えるし、ロジャーもメーガンには一目置いているように見えるので、誘われるのを三度も拒んだのが本当だとしたら、実力で今の地位を勝ち取ったということになります。能力も人気もありプライドも損なっておらず、ロジャーのことは嫌いじゃないとさえ言います。ただメーガンの場合はかなり計算高く状況を見極めながら動いている感じがあります。ロジャーに迫られたときも三度押し返したと言いますが、三度目のシーンは映ってなかったりして、本当に何もなかったのかは若干グレー。告発に至るまでの葛藤が、保身と世論とで秤に掛けているようで、彼女がどちらサイドなのか図りかねるところがあります。ただ弁護士に接見した際に、自分が「Wで23番目」であり既に22人もの女性が勇気を出していると気付き呆然とするのが印象深いです。

そしてメインで唯一架空の人物であるケイラ。架空とは言えケイラのキャラクターはFOX社員の証言を合わせて作り上げたそうで、似たような目に逢った人はきっといたのでしょう。ケイラとベッドを共にするジェスが上層部とは一線を引いているのに対して、ロジャーに売り込もうという野心からある意味無邪気に突き進むケイラですが、それが思いもかけない代償を支払うことに。スカートを少しずつたくし上げる屈辱と、それを見て息を荒くするロジャーのおぞましさ。ケイラはロジャーに売り込むにはあまりに警戒心が薄く、若いがゆえに権力に抗えず飲み込まれてしまいます。ケイラは会議で意見を聞かれて全否定されたり、メーガンにセクハラを問われて「なぜそれを」とあっさり認めてしまったりと、ちょいちょい未熟さを覗かせますが、実力が伴わないまま売り込もうとして痛い目を見てしまうという印象。もちろんセクハラする方が悪いわけですが、そういう隙を与えたしまった例としても見れるわけです。

というわけで、見返してやろうとするグレッチェン、立ち回りを考えるメーガン、搾取されるケイラと三つの視点から描かれているんですね。彼女たちは同じ敵に対峙しているのに、結局協力することはありません。三人が顔を揃える唯一のシーンであるエレベーター、そこでのぎこちなさと漂う緊迫感が、三人が相容れないことを決定的にしてしまう。現実には敵の敵が味方にはならないわけです。同じ女性であっても「チーム・ロジャー」というTシャツまで作ってロジャーを擁護する者までいるし、男性であってもギルのように(ビビりながらも)協力的な者もいます。当のロジャーも最初は敏腕テレビマンとして采配を振るっているように見えますが、「足を見せろ」とか「もっと若い頃ならともかく」みたいなことをポロリと言ったりする。思ったより明確にロジャーを加害者として描いていてその点は溜飲が下がるんですが、セクハラという事案に対し立場や考えによってこれほど違いが出るのかというのは(語弊はありますが)面白いところです。そしてラストにそんな保身や対立や追従といった全てに背を向けて立ち去るケイラに、つまり全ての踏みにじられた女性たちの尊厳に、どうか幸あれと思わずにいられないのです。

スポンサーサイト



トラックバックURL
http://cinemaisland.blog77.fc2.com/tb.php/1668-06086a0e
トラックバック
back-to-top